変わらない気持ち
「お待たせー」
「ああ、帰ろう」
校門のところでトウヤと合流し自転車を押す。
たわいない雑談をしながら堤防まで上がってきたところで俺は今日あったことの話を始めた。
「昨日さ、トウヤがミズクチは俺のこと好きだって言ってたじゃん」
「おー、言ったなあ」
「あれ、当たってたわ」
「え?マジで?告白されたの?」
「いや、されたっていうか俺から聞いた」
「なんて?」
「ミズクチは俺のこと好きなのかって」
「それまさかそのまんま言ったの?」
「?言ったよ。トウヤがそう言ってたからって」
「サトリ、お前バカだろ。ていうか俺の名前出すなよ」
トウヤは沈痛そうな面持ちでため息をついた。
「あー、それはたしかにまずかったかも。ごめんな」
「いや、今はそれはいい。それよりミズクチはなんて言ってたんだ」
「俺のこと好きだって。でも俺が恋愛感情が無い気持ちもわかるから友達でいてくれって言われた」
「それで?」
「俺はいいよって答えてメアド交換した」
「それだけ?」
「ああ、それだけ」
「そっか。なんかミズクチに悪いことしたな。俺がサトリに余計なこと言わなけりゃ…」
「たしかにミズクチには悪いことをしたかもしれないけど、俺とミズクチは納得して友達関係を続けようとしてるんだからトウヤが気にすることじゃない」
そう、この件についてトウヤが気に病む必要はまったくないと俺は思っている。
もしミズクチが傷ついたとしたらそれは俺がミズクチの気持ちに答えられなかったからであって、俺のせいだ。
「サトリとミズクチがそれでいいならいいけどさ」
トウヤは苦笑している。
そう。それでいい。
今しばらくは友達のままでいてほしいんだ。
やっとできた友達なのだから。
「サトリは変わらないよなー」
「何がだよ」
「恋愛に興味ないとこ。それはアサカも一緒なんだろうけど」
「あー、ミズクチもそんなこと言ってたな。アサカが恋愛に興味ないから、俺が恋愛に興味ない気持ちもわかるって」
「へえ、そんなこと言ってたんだ。俺にはわかるようなわかんないような…」
「トウヤは絶賛恋愛中だからわかんないだろ。俺からすればその気持ちがわかんないってことだよ」
「まあな。俺頭の中ササイ先輩でいっぱいだもん」
「だろうな」
「恋愛っていいことばっかじゃないし知らなきゃ死ぬわけでもないけど、知っておいて損はないと思うんだけどな」
「でも知ろうと思って知れるものでもないだろ」
「そりゃそうだ」
からからと回る車輪。
太陽はすっかり沈んでいて、防波堤はぽつぽつと林立している街灯に照らされている。
油断すると街灯と街灯の間の闇に飲まれてしまいそうで背筋がうすら寒くなる。
「でも、サトリは知る気なんてないんだろ?」
「え?」
「だからさ、サトリは恋愛を知ろうなんて気、ないんだろ」
そのとおりだ。トウヤはたまに痛いところをついてくる。
俺は恋愛に興味ない。知ろうとも興味を持とうとも思わない。
「それってつまりさ」
トウヤは真っすぐ前を向いたまま続けた。
「ミズクチの気持ちに答える気なんてないってことだろ」
「…そうだよ。トウヤの言うとおりだ。これはミズクチにも言ったことだけど俺は恋愛に興味ない。
これから先ミズクチのこと好きになるかもわからない。
それでも、友達でいてほしいって言ってくれたミズクチの気持ちは嬉しく思う。
それじゃダメなのか?」
ゆっくりとトウヤがこちらを向いた。
穏やかな笑みを浮かべて。
「いや、いいんじゃない。悪かったよ、きつい言い方して。
サトリとミズクチが納得してるならいいんだ。
なんかゴメンな。好きだって気持ちに答えてもらえないミズクチのこと、ササイ先輩に答えてもらえない俺と重ねあわせちまってたかも」
「別にいいよ。トウヤの言うことも真っ当だしさ。ミズクチに悪いことしてるって自覚はあるし。
トウヤはあれ以降、ササイ先輩に告白したの?」
「いや、してない。もしまた断られたらって思うと怖くて言えねえよ」
「そっか」
トウヤはトウヤで苦悩してるんだ。
過去二回、トウヤはササイ先輩に告白している。
そのどちらも、「今は誰とも付き合う気がない」と断られている。
それはきっと俺には理解できないつらさがあって、トウヤはそこから抜け出せないでいるんだろう。
そんなトウヤに、俺からかけられる言葉なんてない。
「でもいつか…」
「ん?」
「また、ちゃんと、ササイ先輩に告白できたらいいなとは思うよ」
「そうか。頑張れよ」
「おう、頑張る」
トウヤの笑顔がまぶしかった。
俺もいつか好きな人ができてトウヤやミズクチの気持ちがわかるようになるんだろうか。
今はまだわからない、その気持ちを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます