青天の霹靂

先日、調理部に呼んでもらって以来、俺とトウヤは週一くらいのペースで調理部に呼んでもらっていた。

毎回毎回、感心するくらい美味い料理が出てきていて、俺とトウヤは完全に胃袋を掴まれていた。

といっても友達として、だけど。

トウヤにはササイ先輩がいるし、俺は恋愛ごとには興味ない。

感心が無いと言ってもいいし、理解がないと言ってもいい。

恋ってなんだ?愛ってなんだ?

誰かを大事に思う気持ちのことだろうか。

それって友情とどう違うんだ。俺の中で答えはまだ出てこない。


ある日の夜、例によって調理部に呼んでもらっていた俺とトウヤはアサカとミズクチと校門で別れを告げようとした。

その時ミズクチに引き止められた。


「あ、オイガセ、ちょっとお願いが…」


ミズクチが何かを決心したように口を開く。


「ん?」


「あの…よかったらで良いんだけど、明日、放課後図書室で勉強教えてもらってもいい…?」


「ああ、全然かまわないよ。いつも美味いご飯食べさせてもらってるし」


「ホントに?良かった、ありがと」


「いいよ。じゃ、また明日」


「うん、また明日」


そして2人と別れた。

なんだろう、改まって。

放課後みんなで勉強会なんてたまにやってるじゃないか。


俺が首をかしげているとトウヤが苦笑しながら言った。


「ミズクチはサトリと2人で勉強したいって言ってたんじゃねえの?」


「そうなの?だとしても別に改まるほどのことじゃなくない?」


「あのさあ、サトリは気づいてないかもだけど、ミズクチはサトリのこと好きだと思うぞ」


「俺もミズクチのこと好きだけど?」


「そういう意味じゃなくて。恋愛対象として好きだって言ってるんだよ」


「ミズクチが?俺を?まさか」


「なんでまさかなんだよ」


なんでって言われても。だって今まで普通に友達としてやってきたじゃん。


「本当にサトリは鈍いよなー。ちょっと前、ミズクチがなんか悩んでるっぽい時あったろ?

あのとき、サトリはどう思った?」


「え?いや、普通に心配だったけど?」


「これは俺の勝手な予想だけどな、ミズクチはお前のことで悩んでたんだと思うぞ」


俺のことで?

俺、ミズクチになんかしたっけか?


「お前がなんかしたっつーより、ミズクチがサトリのこと好きなことに気がついて動揺してたって感じかな」


「そうだったんだ。気づかなかった」


だとしたら俺はミズクチにどう接すればいいのだろう。

今迄どおり?

もう少し親しく?

今だってかなり仲良くしている方だと思う。

一日一回はミズクチが俺のところまでやってきて、授業のわからなかった点を聞いてきたり、一緒に復習したりしている。

お昼ご飯だってたまにだけど一緒に食べてる。

先ほどもそうだったように週に一回は調理部で美味しいご飯を出してもらっている。

これ以上親しくなるってどういうことなんだ?


「ていうか、ミズクチが俺のこと好きなんてありえないんじゃないの?俺全然さえないし」


「ばっか、サトリ。お前はめちゃくちゃモテるんだぞ?容姿端麗で勉強もできる。

いつも無口で無表情だからそのミステリアスなところが女子に大受けなんだよ。

全然さえてないなんてことない。

ミズクチがサトリのどこが好きかまではわかんないけどさ、でもあれ絶対好きだって」


なんかますます混乱してきた。

ミステリアス?ただ無表情で無愛想なだけだ。


「トウヤの気のせいだと思うけどな」


「そんなことねえよ。お前は本当にお前のことわかってねえんだな」


「そうかなあ」


「そうだよ。で、もしミズクチに告白されたらどうすんの」


「どうもしないよ。俺、恋愛感情ないしミズクチだからってわけじゃなくて誰とも付き合う気ないし」


「そっか。ま、サトリがそれでいいならいいんじゃねえの。ミズクチが気の毒だとは思うけど」


「だから、ミズクチが俺のこと好きって決まったわけじゃないだろ」


「サトリは強情だなあ」


それはお前だ。

ミズクチが俺のこと好き?

気のせいだろ。

俺は誰かにそんな風に思ってもらえるような人間じゃない。

感情に乏しくて、他人とろくに口もきけないさえないダメ男なんだ。


その後トウヤは話題を変えて、だらだらとしゃべりながら帰宅した。


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