ゆっくりと近づいていく
ある日の朝、トウヤとしゃべっているとアサカとミズクチがやってきた。
「おはよう、オイガセ君、フジサキ君。
あのね、明日の放課後…フジサキ君が部活終わった後って空いてる?
私とサクラ、調理部なんだけどね、カレー作るから食べに来ない?」
アサカがどうかな?と首をかしげる。
「マジで!?いいの?俺、部活後ってめちゃめちゃ腹減ってるから超嬉しい!」
トウヤはずいぶん乗り気のようだ。
「なっ、サトリ、一緒に行こうぜ!」
「トウヤがいいんなら俺は別にかまわないよ。
でも迷惑じゃない?作る量変わってくるだろ?」
「そんなことないよ!カレーだからちょっとくらい人数増えてもそんなに変わらないし」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。トウヤ、食べすぎるなよ」
「わかってるって。サンキュな、アサカ!ミズクチも!明日楽しみにしてっから!」
トウヤが満面の笑みで答えると、アサカとミズクチはほっとしたような顔で手を振り、自分たちの席へと戻っていった。
ちなみにアサカのフルネームがアサカ ユリイでミズクチはミズクチ サクラだ。タダシに先日教えてもらってやっと覚えた。
アサカ、ミズクチとは以前一緒にお昼を食べて以来、タダシ、ミカヅキも加えてたまに一緒にお昼を食べたり放課後一緒に勉強したりしている。
…友達…と言っていいのだろうか。
まさかこの段階で友達が増えると思っていなかったから俺としては悪い気分じゃない。
なにより女子の友達ができるというのは初めてではないだろうか。なんか新鮮な気分だ。
明日、か。
なら明日は夕飯いらないって母親に言っておかないとな。
と言ってもうちは両親共働きのため夕飯は俺が作っているので俺が夕飯を作るのが遅くなるということを伝えなくてはいけないわけだが。
トウヤはよほど嬉しいのかまだにこにこしている。
「なー、サトリ。楽しみだな!俺家族以外の手作り料理って初めてだよ」
「俺もだな」
「なに、サトリ、楽しみじゃないの?」
「いや?それなりに楽しみだよ?」
「サトリは顔に出ないからなーわかりにくいんだよ」
「顔の筋肉がやる気なくてな」
「はいはい、そう言うことにしておいてやるよ」
そうこうしてるうちに担任がやってきて朝のホームルームが始まる。
俺なりに明日が楽しみだ。どんなカレーが出てくるんだろ。
ていうかうちの学校に調理部なんてあったんだな。それすら知らなかったよ…。
そして翌日の放課後。
部活を終えたトウヤと2人で調理室へと向かう。
トウヤは腹が減っているらしく珍しく静かだった。
調理室へと近づくとカレーのいい匂いがしてきた。
ノックをして扉を開ける。
「よっす、お疲れさん!悪かったな、こんな時間まで待たせちまって」
トウヤがにこにこと部屋に入っていくので、俺もその後を追う。
「ううん、全然いいよ。誘ったの私たちだもん。ね、サクラ」
「うん、その、2人の口に合えばいいんだけど…」
「ミズクチ、気にするな。トウヤも俺もだいたいのものは美味く食えるタイプだ」
「じゃ、そこに座ってて。準備するから」
「おう、悪いな」
アサカに指された席にトウヤと並んで座る。
少し待っているとカレーが美味しそうな匂いをたてて運ばれてきた。
「どうぞ」
「サンキュ、いただきます」
「いただきます」
早速口に運ぶ。
「どう、かな?」
ミズクチが心配そうにこちらを伺っている。
「美味っ、これめっちゃ美味いよ!え?なに?どうやったらこんな美味くなるわけ?」
トウヤが歓声を上げた。その瞬間スプーンからカレーが跳ねる。
たしかに美味い。超美味い。家で俺が作るカレーと全然味が違う。
「トウヤ、溢してる。たしかに美味しいな。さすが調理部。どう作ってるの?」
「喜んでくれて良かった…。作り方はそんなに大したことしてないんだよ。
カレーを煮込むときにね…」
アサカとミズクチはほっとしたような顔をしてカレー作りの秘訣を教えてくれた。
いろいろと工夫があって面白い。
あまりに美味いので結構なペースでカレーを平らげてしまった。
その後片付けを手伝って、アサカ、ミズクチと校門で別れる。
2人は電車通学だそうで、俺らとは方向が違うのだ。
夜も遅いし送った方が良いかとも思ったけど、結局言い出せなかった。
「やー、しかし美味かったなー」
トウヤはご満悦そうにつぶやいた。
「ああ、美味かったな」
「カレーにルーを3種類入れるなんて思いつかなかったぜ。それだけであんなに美味くなるとはな」
「それだけじゃないけどな」
お前はアサカとミズクチの話の何を聞いてたんだ。
でも美味かったのは事実で。
2人は本当に料理が好きなんだろうな。
だからあんなに美味いカレーが作れるんだろう。
「俺も家でやってみよ」
「そうだな、俺も試してみよう。ルーの種類増やすくらいなら家でもできるしな」
「あと他になんて言ってたっけ」
「リンゴと少量のコーヒー、ブイヨンを加えるって言ってたな」
「サトリはよく覚えてるな」
「トウヤはもうちょっと人の話聞けよ」
「だってさー、カレーがあんまりに美味くてそれどころじゃなかったんだよ」
「まあそうとう美味かったけどな」
「あの2人はいいお嫁さんになるんだろうな」
お嫁さん、ね。
たしかにあれだけ料理が上手かったら胃袋を掴まれる奴も多いんだろう。
今日はいい日だった。
そう思えるくらい、あのカレーは美味かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます