その枠を広げてみよう

「なあなあ、トウヤ、サトリ!今日のお昼サトコたちと食べねえ?」


騒がしい昼休みのの教室。

トウヤと弁当を広げようとしているとタダシが割り込んできた。

ちなみにサトコとはタダシの彼女、ミカヅキの下の名前だ。(と言うことを今知った)


「別に俺はいいけど…サトリは?」


「トウヤがいいならいいよ」


「よっしゃ、じゃあサトコに伝えてくるわ」


「あ、待てタダシ。ミカヅキたちってことはミカヅキとあと誰がいるんだ?」


駆けだそうとするタダシをトウヤが引き止める。


「サトコとアサカとミズクチ」


アサカってたしかちょっと前にトウヤが気にしてた女子だよな。

俺に似てるっていう。


「おっけー、わかった」


トウヤがタダシを解放するとタダシは一目散にミカヅキのところへかけていく。

そしてそのまま何やらしゃべっている。


「サンキュ。サトリー、トウヤー。オッケーだってよ!!」


と、でかい声を出しながらこちらに手を振っているのでトウヤと共に弁当を持ってタダシの元へと向かう。

こうしてトウヤ、タダシ以外の人と昼食を共にするのは久しぶりだ。

なんやかやしゃべりながらのどかな昼食タイムは終わった。


5限の授業が終わった休み時間。

トウヤが前に席にやってくる。


「昼休み楽しかったなー」


「まあな」


「サトリ、ちゃんと話せてたじゃん」


「そうだったか?」


正直あんまり覚えていない。タダシがミカヅキにべた惚れなことだけは伝わってきたが。

それを伝えるとトウヤはけらけらと笑った。


「たしかになー。タダシの奴、本当にミカヅキが好きなんだな」


「ミカヅキもタダシのこと結構好きみたいだし良いカップルなんじゃない」


「そうだな、羨ましいぜ」


相変わらずの笑顔でトウヤはミカヅキの方へと視線を向ける。

その先ではミカヅキがアサカとミズクチとしゃべっていた。


「でもさー」


「ん?」


「いや、やっぱいいや。気のせいかもしんないし」


「なんだよトウヤ。珍しいな」


「なにが」


「トウヤが思ったことすぐに口にしないのは珍しいじゃん」


「俺だってなー考えてからしゃべることくらいあるんだよ」


「知らなかったよ」


「悪かったな」


トウヤがふくれて見せる。


「別に悪い意味じゃないよ。考えてしゃべることも大事だろ」


「サトリは考えすぎだけどな」


それは知っている。俺が臆病が故に考えすぎてしまってしゃべれないということも。

誰でもトウヤみたいにすらすら話せればいいんだろうけど、そうもいかないんだよ。

自分の言葉の影響力を考えすぎてしまって、勝手に怖くなって話せなくなる。


「サトリー?また考え込んでないか?」


「あ、悪い。考えてた」


「それを口に出しちゃえば楽になるのにな」


「楽になるか?」


「なるさ。頭ん中だけで考えてるからビビっちまうんだよ」


「なんで俺がビビってること知ってるんだよ」


「そりゃ見てればわかるって。自分がなにかを言ったことで相手を傷つけてしまわないかどうかを気にしてんだろ?」


なんでそこまでばれてるんだ。

相変わらずトウヤは鋭い。

相手の気持ちを瞬時に察することができる。

羨ましい能力だ。


「トウヤのその鋭いところは羨ましいよ」


「お、今度はちゃんと口にしたな」


「まあな」


「たしかになー、サトリは考えすぎのくせに変に鈍いところあるからなー」


「考えても考えてもわかんないんだよ」


そう。考えても考えても相手の気持ちがわからない。だから余計に怖い。

怖くて口がこわばっていく。


「だからさ、考える前に口にしてみろって。そしたら相手も話してくれて、その気持ちがわかるんだからさ」


「そういうもん?」


「そういうもん」


たしかにそうなのかもな。口にしなきゃ俺の考えだって相手に伝わらない。

考えがわからない奴と話すのは相手だって怖いよな。

俺が話すのが怖いように相手も同じように俺と話すのが怖いのかもしれない。

それは新しい発見だった。


「俺も…ちゃんと言葉にして伝えなきゃな」


「そうそう。前にお前が言ってたじゃん。「自分のわがままを通すにはちゃんと言葉にして正直に相手に伝える」のが大事ってさ」


「そういやそんなことも言ったけか」


「言った言った。自分で言ったんだから責任とって自分でも実践しろよな」


「善処するよ」


「おう、頑張れ」


そこでチャイムが鳴った。トウヤはひらっと手を振り自分の席に帰っていく。

教師がやってきて数学の授業が始まった。


…「自分のわがままを通すにはちゃんと言葉にして正直に相手に伝える」ね。

俺もいいこと言うじゃん。

でもトウヤの言うとおり実践しなきゃだめだよな。

板書しながらぼんやりと考える。


そういや…さっきトウヤが言いかけてたことってなんだろう。

昼休みの話だから、アサカかミズクチの話かな。

先ほど一緒にお昼を食べたことで、ようやくアサカの顔と名前が一致した。ミズクチについても。

アサカは俺に似ているとトウヤは言っていたけどあまりそんな感じはしなかったな。

普通に友達としゃべって普通に過ごす、どこにでもいる女の子って感じだ。

ミズクチはちょっと気が強い感じがしたな。さばさばした頼れる姉御タイプっていうの?

2人とも悪い奴じゃなさそうだ。むしろ俺でも普通に話せたあたり、良い奴らなんだろう。

そんな2人についてトウヤが言おうとしたこと…。


考えてもわからないな。

俺は諦めて、授業に専念することにした。

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