人間関係
「トウヤ、ササイ先輩、無事でよかったな」
ある日の夕刻。トウヤと二人で自転車を押しながら防波堤の上を歩く。
先日ササイ先輩が入院し、その後なんやかやあって退院したのだ。
退院のタイミングでトウヤはササイ先輩に告白しており、付き合ってはいないものの、いい感じにはなっているらしい。
「ああ、本当に良かったぜ。ササイ先輩が無事で。
俺気が気じゃなかったもん」
「ケイスケに当り散らしてたもんな」
「そだな。ケイスケには悪いことしたよな」
「でもちゃんと謝ったんだからいいんじゃん」
「そっか。そうだよな。いつまでも気にしてたらケイスケも気にしちゃうよな」
夕日が水面をキラキラと照らしていてとてもきれいだ。
海が近いため潮の匂いが心地いい。
「そうそう。ケイスケもそんなに引っ張るタイプじゃないからさ、トウヤが気にしすぎるのも良くないって」
「そうする」
「そういや、トウヤ、ササイ先輩とまだ付き合ってないの?」
「サトリ、痛いとこ突くなよ」
「いい感じなんだろ?」
「それはそうなんだけどさあ。ササイ先輩、「今は誰かと付き合うってことは考えらんないかな」ってさ」
「それササイ先輩の真似?似てなさすぎるだろ」
「うるせえよ。とにかくそう言われちゃって…でも今までどおり仲良くはやっていきたいって言ってくれたから、それに甘えてる」
「まあ良かったじゃん、完全にスルーされるようなことにならなくてさ」
「なー。それだけは良かったよ。ササイ先輩に距離置かれるようなことになったら
俺いたたまれなくて部活止めちゃうとこだったもん」
トウヤはそう言って苦笑する。
それについては俺も同意見だ。
もしトウヤがササイ先輩にスルーされるようなことがあったら、こいつは部活どころか学校にすら来なくなるかもしれない。
「タダシのやつはうまくいってて羨ましいよなー」
「まあタダシもいろいろあったから」
クラスメイトで友人のタダシはやはり同じクラスのミカヅキという女子と最近付き合い始めた。
ちょっと前まではクラス内でも別に仲良くはなかったのに、いろいろあった末に付き合い始めた。
「それなー。やっぱり人間関係って難しいよな。タダシの奴いつの間にミカヅキと仲良くなってたんだろ」
「ちょっと前から一緒にいるのは見かけてたけどな」
「え?マジで?教えろよ」
「なんでだよ。いちいちそんなこと言わねえよ」
「だからサトリは鈍いって言われるんだよ!そういうのを発信していくのが大事なんじゃねえか」
「そうなの?」
「そうなの!」
正直言って面倒臭い。なんでそんなこといちいち言わなくちゃいけないんだ。
タダシにはタダシの人間関係があるんだからそっとしておいてやればいいじゃんか。
「人間関係面倒臭い」
「サトリ、だからお前友達少ないんだよ」
「ほっとけ。俺は今の人間関係で間に合ってるんだよ」
「それでいいわけ?」
「なにが」
「サトリはこれ以上人間関係広げなくていいって本気で思ってるわけ?」
「ああ、今のところはな」
「今のところは、か。ならいいんだけどさ」
「どういう意味だよ」
「いや、この先大学とか社会に出たりとかしたら、サトリはぼっちになるんだろうなって心配したわけよ」
「そうなったらそうなったで考えるよ」
「ま、そりゃそうか」
トウヤの心配はある意味的を射ている。
俺は他人と関わるのが壊滅的に下手だし、友達を作るのだって苦手だ。
この先大人になっていってそれが改善されるとも思えない。
だとしたら俺はどうすればいいのだろうか。
「どうしたらトウヤみたいになれるんだろうな」
「は?」
「いや、どうしたらトウヤみたいに人間関係を構築できるようになるんだろうなって」
「話し上手になるとか?」
「今さら難しくない?」
「慣れだからなー。でもさ、別にサトリは話下手ってわけじゃないと思うけど」
「そうか?」
「そうそう。話すのが下手なんじゃなくて話しかける前にあれこれ考えすぎちゃって話しかけられなくなるタイプじゃん」
「あー、そうかも」
「だからさ、思ったこと口にする練習した方がいいと思うぜ」
思ったことを口にする、ね。
たしかに俺は頭の中でいろいろ考える方だ。
口に出すとその考えが逃げていってしまいそうだし、何も考えないでしゃべって相手を傷つけるのが怖い。
そういう臆病なとこがいけないんだろうな。
「今んとこはさ、サトリはサトリのままでいいんじゃねえの」
トウヤがそう言ってにかっと笑った。
先のことを考えるのは止めよう。今のところはきっとそれでいいんだろう。
夕日がゆっくり静かに沈んでいく中、引き続きたわいない話をしながら家へと向かう。
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