なんでみんな

「なんで、みんなつらい恋なんてするんだろう」


夕暮れ時の防波堤。

となりを歩くトウヤが呟いた。

言葉はサトリには向けられてはいなくて、トウヤの視線の先に拡散した。


「止めたい?」


「止められない」


サトリの問いかけにトウヤはきっぱりと返事をする。

わかってる。

いや、わかってるつもり。

サトリは恋を知らないから、たぶんそうなんだろな、としか思えない。


「そうなんだろな」


「そうなんだよ。一度好きになったら、バイト止めるみたいに簡単には止められない。

でも、相手が同じように俺を見てくれているとは限らない」


トウヤの好きな人、ササイ先輩。

彼女は彼女で誰かを見てる。

彼氏とかではなさそうだけど、それでもササイ先輩の視界にトウヤは入っていない。


「俺、どうしたらいいんだろ」


「俺に聞くなよ」


俺には恋とか愛とかわからないんだから。

サトリにはトウヤがそこまでササイ先輩に執着する気持ちがわからない。

たしかにササイ先輩は可愛くて、優しくて、面倒見がよくて。

いいところを上げたらきりがないけど、サトリは少しササイ先輩が怖い。

中に黒くて深い何かを抱えていそうな気がする。

たぶんトウヤもそれがわかっていて、その上でササイ先輩が好きなんだろう。


「サトリって女子苦手だよな」


「苦手なわけじゃないけど…。

多面的で少し怖いかも」


「怖いってなんだよ」


「そのまんまだよ」


女子に限った話ではないが、特に女子の表と裏の使い分けの上手さがサトリには怖い。

自分にはできないことだから。

自分にはできないけど、察することはできる。

あ、今表面つくろったな、とか。

裏、出掛かってますよ、とか。

本人たちが自覚しているかどうかはわからない。

でも、裏表がある。

それもかなり多面的で面を器用に使い分けている。

うらやましいのか、怖いのか。


「いいじゃん、女の子。可愛くて」


「でもつらいんだろ?」


「そうなんだよなー。

可愛いだけじゃないんだよな。

人形じゃないから、当たり前なんだけどさあ」


トウヤは遠くを見ながらこぼす。

まったく、女の子は相容れない存在だと思う。


逆、なのかな。

自分が世界に相容れないのかもな。

ふと思う。

愛とか恋とか憧れないわけじゃないけど、実際は怖くて手が出ない。

トウヤや他の友達は誰が可愛いとか、誰と誰がつき合ってるとか、そんな話をしばしばしている。

ごめん。超興味ない。

愛って何?

恋って何?


つらくても、悲しくなってもしたい愛とか恋って何?

中学生みたいな発言だとは思う。


でもトウヤには聞けない。

誰にも聞けない。


誰か教えてください。


愛って、恋って何?

なんで、みんなつらい恋なんてするんだろう?

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