空を混ぜる
「なあ、サトリ、物干し竿持ってない?」
昼休み、ベランダでトウヤとブラックジャックをしていた。
その最中に突然、物干し竿を持っているか聞かれた。
「持っているように見えるか?」
「いや、全然。あ、ブラックジャック」
ならば何故聞いた。
しかも負けた。
いや、まだ勝ち越してる。
次負けなければ余裕の圧勝だ。
「物干し竿なら、空をかき混ぜられる気がしたから」
「しねえから」
「できるさ」
何言ってるんだろう。
いつものことと言えばそうなんだけどさ。
相変わらずトウヤの頭の中は謎だらけだ。
明確にわかっても、気持ち悪いからいらないけど。
「空、かき混ぜてどうするんだよ。20」
「うわー俺7。ぎりぎり負けた!!次!!
空、かき混ぜて雲の中からラピュタ取り出す」
ラピュタ出しちゃダメだろ。
ブラックジャックもぜんぜんぎりぎりじゃないし。
「たまにすっげーでかい雲の塊あるじゃん」
「うん」
「でも、雲の塊いくつかあるじゃん。うーん、敗色濃厚」
「あるなあ。トータルで俺15勝、お前10勝だから、トウヤの敗色は濃厚通り越して真っ黒だけどな」
「雲の塊1つにつき、1ラピュタ入ってると思うわけよ」
ねえから。
何を言い出すかと思えば。
あんなもん、1個だっていらん。
だいたい1ラピュタってなんだ。
「映画のラピュタは誰も居なかったけど、稼動中のラピュタもあると思うんだよ」
「稼動中のラピュタは何してるわけ?
ブラックジャック。はい、俺の勝ち越し決定」
「うえー、また俺の負けかよ。
サトリ、ブラックジャック強いよなあ。
稼動中のラピュタたちは天候操作してます。
雲の中には管制室みたいのがあって、天候オペレーターの皆さんが
天候操作、管理、統計調査なんかを行っております」
何故敬語。
もう突っ込まない。
あー、俺トウヤに【もう突っ込まない】って何回思っただろう。
「それを、雲から引っ張り出したいと」
「そうそう。俺、将来天気予報士になるから」
「関係性がわからん。
そのオペレーターの皆さんは何してるんだよ」
ああ、突っ込んでしまった。
「今言ったじゃん。天候の操作、管理、統計調査してるの。
【こちら、雲007。
水分密度80%を超過しました。
水分密度60%になるまで降雨作業を行います。】
みたいな。
でさ、天候オペレーターとコネがあれば天気予報士になったときに
天気予報の的中率100%にできるんじゃないかと思った次第です」
だから何故敬語。
よく、そこまで妄想したな。
俺はトウヤが天気予報士になりたいなんて初めて聞いたよ。
昨日まで陸上で食べて行けるか悩んでたじゃん。
「少なくとも物干し竿じゃとどかないんじゃん」
トウヤの妄想大爆発についていく気がしなくなってきたので
とりあえず無難な返しをしておく。
ああ、人間てこうやって無難な大人になっていくんだな。
「サトリ、何悟ってんだよう。
やっぱり物干し竿じゃ短いかな。
部活終わったら棒高跳びの棒借りてこようかな」
「話のレベルが違っ。
突っ込むまい、突っ込むまいと思ってたけど
もういい。突っ込む。
雲の中に管制室ってなんだ。
どこでそんな情報仕入れた」
「俺の妄想?」
ああ、やっぱり。
やっぱり、トウヤの妄想大爆発でした。
突っ込んだ俺の負けだ。
「サトリ、なに、疲れてんだよ。
そう考えたら楽しくない?
【明日14時、経度120度、緯度250度地点にて
先月の天候報告会を行います】とかさ
【雲058、電圧90%、水分密度75%超過しました。
電圧25%まで放電、水分密度50%まで降雨を行います】ってさ」
「よくそこまで妄想したな」
「さっきの地学で、そういう系の話してたから。
妄想してた」
そこまで、授業を熱心に聞いてたんなら先生も本望だろうよ。
問題はテストの点数に反映されないことだな。
「俺にはトウヤの妄想力の限界が見えないよ」
「俺に限界という言葉はないからな」
そうでした。
トウヤの妄想力の限界なんて考えた俺がバカでした。
なんで、こんなにたくさん妄想があふれてくるんだろう。
俺の頭が固いのかな。
「サトリー?また悟ってる?」
「俺、頭固いかな」
「固いっていうか、柔軟性がひくい?」
それが固いってことじゃないのかな。
空をかき混ぜる。
どうしたら。
どうしたら、豊かな発想を生み出せるのか。
どうしたら、豊かな発想を素直に受け入れられるのか。
今の俺には、まだ、わからない。
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