地球がひっくり返ったら

「地球がひっくり返ったら、どうなると思う?」


いつもの学校の帰り道。

いつもとは違って川辺に自転車を放り出し、ポテチを食べていたらトウヤが突然そんなことを言い出した。


「朝方になるんじゃないの」


サトリは淡々と答える。

今が夕方だから、反対向きになったら朝方だよな。その程度の考えともいえないような考えで返事をした。


「違うよ。俺ら、地底人になるんだよ」


トウヤにいたずらっ子のような顔で否定された。

……。

このバカな友達は何を言っているんだろう。

理解できない。

たぶん、それが顔に出ていたのだろう。

トウヤが続けた。


「だからさ、地球がひっくり返って、人間や川や海や地面が球体の内側になるんだよ」


あー、そういうことか。

トウヤの柔軟すぎる発想に衝撃を受ける。


「そうしたらさ、地球の外側がマグマで覆われるだろ?」


「そうだな」


「それって地球ができたての時と一緒で、きっとそのうち冷えて空気ができて、

海ができて生命がうまれて、今みたいに進化していくと思わねえ?」


その進化したやつらから見たら、俺ら地底人てことか。

サトリはようやく納得する。


「そうだな。てかよくそんなもん思いついたな」


「今日さ、歴史だかなんだかの授業で【天動説】の話してたじゃん」


今日受けたばっかの授業で「なんだか」って。

ちょっとトウヤの行く末が不安になる。


「でさでさ、【天地がひっくり返る】って言葉って完全に天動説に基づいた言葉だなって思ったわけ」


サトリの不安をよそにトウヤはペラペラと続ける。


「まあ、そうだな。まっ平らな地面がひっくり返ってヤバいってことだしな」


トウヤの行く末に対する不安はそっとどかしてサトリは答える。

意外とトウヤって変なとこ気がつくんだよな。

発想がぶっ飛んでるともいうけど。


「じゃあ、今、地球が丸い状態でひっくり返ったらどうよ、

って考えたらさっきのとこに行き着きました」


「また、えらいぶっ飛んだ着地したな」


「まあな」


なんで自慢気なんだよ。褒めてないよ。

思わず吹き出す。


「笑うなよー」


「悪い悪い。あんまりにぶっ飛んでたからさ。

でもさあ、トウヤの考えのとおりだったら、今すでに地底人いるかもな」


「ひっくり返り済みってこと?」


「そうそう」


せっかくなので、ここはトウヤの発想に乗っかってみる。

いろいろ考えたら、いろんな可能性が湧き出してくる。

地底探索とか技術は進んでる。

けど、実はマグマの向こうに、もう一層地層があって地底人がいるのかもしれない。

だって地球を貫通させたりしてないんだから、わかんないよな。

いや、俺が知らないだけで地球を貫通してみたことはあるのかもしれないけど、

それが本当にど真ん中かどうかは誰にもわからないんだ。


「例えば、セミが夏になったら出てくる穴とかあるだろ?

あれって実は地底人のための空気口かもよ。

俺らはセミって幼虫からさなぎになって成虫になるって思ってるけど、

地底人から見たら幼虫の状態がいわゆるセミの成虫で、

死ぬときに地面に潜っていくように見えてるかもしれないじゃん」


「やっべえ、セミ、責任重大!!」


トウヤが衝撃を受けたような顔をしている。

責任、重大だよな。

全地底人の呼吸のつてを担ってるんだもんな。


「そう考えたら、そこら辺にある穴とかあんまり埋めちゃダメだよな」


トウヤが感心したようにうなずいている。

……てか、お前はそこら辺にある穴埋めてたのか?

そんなにそこら辺に穴、あるか?


「世の中謎ばっかりだ。世界は広いな」


適当にトウヤが話を締めくくる。

お前の頭が一番の謎だよ。

お前の頭の中が一番広いよ。

高校生のくせに悟ってんなよ。

自分も高校生のくせにそう思う。


でも、トウヤの言うとおりだ。


世の中謎ばっかりだ。

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