今の僕らにできること

「止まってたってさ、何にも手に入んないじゃん」


昼休み、トウヤとブラックジャックで盛り上がっていたら

ケイスケが割って入ってきた。


「何の話だよ」


「油断してたら、俺自身まで食われちまう。

何!?

大人って汚い!!」


トウヤの問いかけを完全に無視してケイスケはうるさく騒いでいる。


「俺って何!?

存在の価値って!?

生きる意味って何!?」


「うるさいよ」


あまりに騒がしいので、ケイスケの方を見もせず

感想を述べる。


トウヤが呆れたような顔をしているが知ったことか。

今はトウヤとの勝負の方が大事だ。


「まあまあ、この勝負の決着が付いたら話聞くからさ。

ケイスケには悪いけど、少し待っててくれよ。

何だったらそこの黒板にでも相談してればいいからさ」


苦笑しながらトウヤはケイスケをなだめている。

さりげなく酷い発言だけど気にしない。気にしない。


その後、辛くも勝利し、負けたトウヤはケイスケに声をかけた。


「で、何があったわけ?」


「いや、何もないんだけどさ」


「よし、殴らせろ」


けろっとしたケイスケを見てトウヤが右手を握りしめる。

俺ははなからケイスケの悩みに興味がないので

次の授業の準備を始める。


「悪かったって、そんなに怒んなよう」


トウヤの本気の怒りを感じたのか、ケイスケがおとなしく謝る。

まあ、トウヤの怒りの半分はブラックジャックに負けた悔しさからだろうが。


「いやー、なんかさあー

なんていうかなー

中学生みたいなこと言いたくなったんだよ。

今しか言えなくない?あんなしょうもないこと」


「俺ら高校生ですから」


思わず手を止めて突っ込む。

なんだって高校生になってまで、あんなアホなことを言うんだ。

今時中学生だって言わないだろ。


「そうだけどー、そうだけどー

何か最近深刻な事態続きでアホなこと言いたくなったんだ。

アホなこと言って友達とじゃれあって、って今しかできないじゃん」


そうかな。

大人になったら、社会人になったら、アホなこと言って

友達と盛り上がれなくなるのかな。


「いや、人間いくつになっても友達といるときはくだらないことで盛り上がるし

大騒ぎだってするよ。

うちの親父そうだもん。

こないだ、家に親父の友達を何人か連れてきてさ。

昼からビール飲んでくだらない話して、バカ騒ぎしてたよ」


「そっかー、じゃあ、もっと違うこと。

今の俺らにしかできないことをしよう」


トウヤの意見を聞いて少しほっとする。

そうだよな。

大人になってもくだらない話の内容は変わるかもしれないけど

結局は友達とくだらない話して、バカ騒ぎはできるんだよな。

大人って汚い!!

は言わないかもだけど。


「なあサトリ、今の俺らにしかできないことってなんだ?」


「高校の授業を受ける」


「つまんない」


ケイスケに瞬殺されてしまった。

間違いなく今しかできないのに。

いや、定時制とか別の方法を取れば受けられるかもしんないんだけどさ。


「部活で汗を流す」


「トウヤ、いいねえ。青春だねえ。

それで同じ部活の女の子に恋しちゃうわけだ。

姉貴は止めとけって。

危険物取扱資格が必要だぞ」


トウヤの至極まっとうな意見をケイスケがからかう。

そのケイスケがトウヤに頬を両側から引っ張られて涙目なのは見なかったことにしよう。


「じゃあ、そういうケイスケは今しかできないことってなんだと思ってるわけ?

あんなアホな発言してる場合じゃないんじゃない」


「そうなんだよー、トウヤー

俺だって、女の子とデートしたり

友達とバカなことしたり、授業中寝てて怒られたり

部活で盛り上がったりしたーい」


「すれば」


面倒なので投げやりに答える。

ケイスケは家庭環境が複雑でなかなか大変そうなんだけど、

今こうやってしてるアホっぽい会話は、十分今しかできないことだと思う


「できたら苦労しねえ!サトリのばーか。

冷たいな。

という訳で、帰りにコンビニ寄って買い食いして

雑談しますからね!!

放課後また来るから待ってろよ!!」


そしてケイスケは自分のクラスへ帰っていってしまった。


「何だったんだ。。。」


トウヤが展開についていけず呆然としている。


「一緒に帰りたかったんだろ」


もう、考える気もしなかったので結論のみを簡潔に伝える。

確かに、今は今しかないから、今しかできないことをやらなきゃいけないんだけどね。

わかってるんだけどね。

わかってるつもりになってるだけなんだけどね。


じゃあ、具体的に今しかできないことって何って言われてもわからない。

毎日を淡々とこなしてる。


今しかできないこと。


何だろうな。

午後一杯ぼんやりと考えてたけど、わかんないな。

もっと考えてみよう。


今しかできないこと。

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