よく晴れた夏の暑い日に

何かの罰ゲームみたいだ


良く晴れた夏の昼間。

サトリはてくてくと学校に向かう道を歩きながら思った。

夏休みに何やってんだ。

本来であれば涼しい図書館で宿題や読書に精を出す予定だった。

それが、秋の文化祭に向けて張り切った連中に学校に引きずり出されたのだ。


普段は自転車通学をしているサトリだが、

あまりに暑いから、バスで学校へ行こうとしたのが間違いだった。

学校の最寄りのバス停から学校までの距離が想像以上に長かった。

日陰も少ない。


「暑い。呪いか」


あまりの暑さに1人つぶやく。


空を見上げれば入道雲が白く輝き

青い青い空とのコントラストがきれいだ。

きれいだ。

きれいなのはいいんだけどさ、とサトリは思う。


空の青さや、セミの鳴き声、遠くから聞こえる子供のはしゃぐ声

すべてが今のサトリにとっては暑さを、より強く感じさせた。


ふっと日が陰る。


サトリが空を見上げると入道雲の一つが太陽を隠していた。

直射日光を浴びないだけでも体感温度はかなり変わる。

相変わらず汗はだらだらと流れていたが、少しマシになったような気がする。

視線をもとに戻して歩き出す。

少しでも日が隠れている内に学校に着いてしまいたいのだ。


サトリはふと何の気なしに立ち止まって再度空を見上げた。

幾本もの電線で空が区切れている。


…こんだけ空が区切ってあったら、一つくらい自分がもらってもいいんじゃないか。

そんな考えがサトリの頭をよぎる。

自分だけの空。

何に使おう。

使わなくていいか。

まるで、自分だけの秘密基地みたいだ。

幼いころのつたない秘密基地を思い出す。

近所の木材置き場に勝手に忍び込んで、当時の仲間とあれこれ遊んでいた気がする。


雲が突然晴れた。

再び日がじりじりと照りだす。


サトリは歩き出した。

暑い。

空はあの頃と同じように青いし、

セミもあの頃と同じように五月蠅い。

子供も相変わらず夏休みをはしゃぎまわっている。

それが自分か、そうじゃなくなったかの違いだけだ。


そういえば。

そういえば8月も祝日ってないんだな、とサトリは唐突に気が付いた。

生徒手帳を確認するとそのとおりだ。

6月に祝日がないのはトウヤが嘆いていたから知っていたけど。


学生の内は8月ってまるまる休みだから気にもしないけど

社会人になったら夏休みがなくなるから8月も祝日が無いって嘆くようになるのかな。

でも、サービス業とかだと祝日が少ない方が嬉しいのかな。

サトリはぼんやりと考えながら歩く。

学校までもう少しだ。


「サトリ!!」


聞きなれた声が学校の方から聞こえてくる。

どうやらトウヤは部活中のようだ。

学校の敷地をぐるっと走って回っているらしい。


何か暑苦しいな。


そう思いながらも、わずかに口角を上げて手を振って返す。


「暑っちいなー!もう少ししたら俺も文化祭準備の方に行くからさ!」


「お前は水でも被って走ってりゃいいと思うよ」


サトリはあまりの暑さに投げやりな返事をする。


「サトリ頭いいなあ、そうする!じゃあ、また後でな!!」


トウヤは暑苦しさを振りまきながら走り去っていった。


きっと8月に祝日がないことに気が付かなかったり

トウヤの走り去る姿になんとなく憧れみたいなものを抱いたり、

公園ではしゃぎまわる子供が自分じゃなくなったことにきがついたり

そういうことが青春なのかな。


サトリは引き続きぼんやりしながら青春で騒がしい教室へ向かった。

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