伝えたいこと

「日本語って難しいよなー」


帰り道、隣を歩くトウヤがつぶやいた。


「そうだな」


その意見には大いに同意なのでサトリも大きくうなずく。

日本語って同じ意味でも違う表現がたくさんあったり、

逆に同じ音なのに全然違う意味だったりする。


理系まっしぐらのサトリにはなかなか、細かいニュアンスをコントロールできないのだ。


「でもトウヤは国語得意だろ」


サトリとは正反対で文系まっしぐらのトウヤがそんな風に言うなんて珍しい。

トウヤは感情表現が豊かだし語彙も多い。

言いたいことがうまく伝えられなくてテンパっているサトリとは大違いだ。


「今日さ、先生に「お前は表現がストレートすぎる。

それは良いとこでもあるけど、悪いとこでもある。

そのストレートな表現を快く受け入れられない人もいるんだ」って言われたわけ。

確かにそれはそうかもなんだよな。

俺、何でもずばっと言っちゃうじゃん。それが不愉快な人もいるんだろうな」


快く受け入れられない→不愉快

たぶんそこの変換が"表現がストレート"と言われてしまう理由なのだろうけど

トウヤは気がついているのかいないのか。


「あ、サトリ今俺が"不愉快な人"って表現使ったの"それがダメなんだよ"とか思ったろ!?」


「いや、そこまで強くは思ってないんだけどさ。

なんて言うか、表現が強いのかな。端的っていうか。

俺も語彙多くないし思ってること言えなくて黙っちゃうからダメなんだけど」


思っていたことをズバリ言われてサトリは焦る。

サトリはサトリでトウヤとは違う意味で日本語が下手だ。

自分で言ったとおり、困ると"黙ってしまう"から、いつまでたっても

言いたいことは溜まったままで。


「確かになー。サトリはすぐ黙っちゃう癖あるもんな。

だからみんなにサトリは悟ってるとか言われちゃうんだよな」


おっしゃるとおりで。

サトリはため息をつく。


「どうしたら思ってることをペラペラ言えるようになるんだろう」


痛いところをグッサリ刺してきたトウヤをサトリはジト目で見る。


「なんだよー、怒んなよ。あ、こうやって本当のことをそのまま言っちゃうのがダメなのか。

でもサトリ俺のこと"思ってることをペラペラ喋るやつ"って思ってたな!?

正解だけど何かムカつくなあ」


トウヤはため息をつきつつニヤニヤしながらサトリを見返す。

トウヤがここでニヤニヤできるから、そしてそれをサトリが笑って流せるから

二人はあまり喧嘩をせず、仲が良いのだろう。


「でもなー確かに俺って物事を強く・端的に言い過ぎなのかも。

サトリはさ、分かってくれるけど、それを"快く思わない"やつもいるんだよな。

気をつけよー」


「気は、つけるに越したことないからさ。つけとけ、つけとけ」


「なんだそれ」


ケラケラとトウヤが笑う。

たぶん、トウヤとサトリを足して2で割ればちょうど良く話せるのかもしれない。

でも足せないし、割れない。


「俺も黙らないで喋ろう」


「そうだ、そうだ。ちゃんと喋って伝える。人間がわがままを通すのに

それ以上の方法なんてないんだぜ」


「別にわがまま通そうとはおもわないけどな」


サトリは苦笑する。

しかしトウヤの言うとおりだ。

話して伝えてわかりあう。

こんなに当たり前のことなのに。

こんなに難しい。


俺は、誰に何を伝えたいだろう。


サトリとトウヤは夕日に照らされながら考え込む。

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