男子の恋心

「おーい、ササイ弟いるかー」


昼休み、トウヤは違うクラスに顔を覗かせた。


「だからその呼び方やめろって」


不機嫌そうな顔をして一人の男子がトウヤの元へ歩いてきた。


「ほら、俺の世界ってササイ先輩中心に回ってるから」


「やめとけ、やめとけ。姉貴なんか中心にしたら逆回転起こすどころか

世界中の火山が不活性火山まで含めて全部いっせい爆発おこすぞ」


「ケースケにはササイ先輩の魅力がわからんのかね。弟なのに。

あ、借りてた教科書返しにきたぜ。

ついでに久しぶりに一緒に昼飯食おうよ」


「おお。トウヤ、教科書よだれで汚したりとかしてないだろうな。

いっつも一緒にいる相方どしたよ」


教科書を受け取った男子、ケースケはトウヤが一人なのを見て首をかしげる。


「その授業はちゃんと起きてたから汚してねえよ。

サトリのことか?あいつ今日は委員会のミーティングだかで駆り出されてていないんだ」


「そうか。ついに2年のモテ男コンビも解散したかと安心しちゃったよ」


「サトリはモテるけど俺は別にモテないから。つーか安心てなんだよ」


「いや、あまりにいっつも2人で一緒にいるからそういう間柄なんじゃないかって

クラスの女子たちが心配してたからさ」


ケースケが教科書を戻しに教室内へ戻る。

その瞬間クラスの何人かの女子がぱっと視線をそらす。


トウヤはぼんやりと昨日のサトリとの会話を思いだす。

サトリに「お前はモテてるんだから自覚しろ」と言ってはみたものの自分自身にその自覚は皆無だ。

ササイ先輩一筋だからそれ以外の女子は眼中にないから気づかないだけだろうか。

でも「2年のモテ男コンビ」なんて言われてる以上一応モテているんだろう。

しかし、これがモテてるってことなのかね。

ただ運動系の部活やってて背が高めだから、女子には補正がかかって見えてるだけじゃないかと思う。

もしくは男女問わず友達が多いから傍から見たらモテているように見えているだけだ。


ケースケが弁当を持って戻ってきた。


「ところで俺とサトリってどんな間柄だよ。普通の友達じゃねえか。

確かに他の連中とかよりは中良いけどさ。あ、屋上行こう」


「その「他の連中よりは」の部分に女子の想像力をかきたてる何かがあるんだろ」


2人は屋上へ向かった。


「だいたいさー「2年のモテ男コンビ」なんて言われてもさ。

モテてるのはサトリだけじゃん。

まったくモテてないとは言わないけどさ。サトリほどじゃないって」


トウヤはぼやく。


「俺はしょせんいい人止まりだから、恋愛感情まで発展しないんだよな」


「それはトウヤが姉貴一筋で他の女子の思いなんて一切無視してるからだろうがよ。

俺から見たら十分モテてるよ。羨ましいこった」


ケースケは呆れ顔で弁当を食べる。

あの凶暴で面倒くさがりの姉のどこがいいんだろう。


「姉貴も姉貴で男の俺より女子にモテるしなー。

ある意味2年のモテ男コンビよりもモテるっつーか。

あの女の何がいいんだ?」


「優しいとこ。面倒見がいいとこ。笑顔がかわいいとこ。自分はつらくても顔に出さないで耐えるところ。

男前なところ。結局全部」


トウヤはすらすらと答える。

ケースケからすれば「自分はつらくても顔に出さないで耐えるところ」は嘘だ。

家で散々八つ当たりをくらっている。

しかしトウヤが姉の男前なところを好きだと思っているのは意外だった。


「トウヤ、姉貴の男前なところ好きなんだな。もっとこうふわっとしてて

守ってあげたい属性の子が好きなんだと思ってたよ」


「ササイ先輩ってさ、将来バリバリのキャリアウーマンになりそうじゃん。

俺は頑張る女の子が好きなの。そんな女の子を一番近くで応援してあげたいんだよ」


「ヒモ願望か」


「違え!」


なかなかササイ先輩の良さをケースケに理解してもらうのは難しそうだ。

もっともケースケは弟だからトウヤの知らないササイ先輩をたくさん知っているのだろう。

それが羨ましいような、これから先輩と一緒に知っていきたいような。


「姉貴が面倒見いいのは認めるけどさ。騒がしいぞ」


「いいじゃん、にぎやかで。将来俺はケースケのお兄さんになるんだからな。

今の内から兄貴と呼ぶ練習しとけよ」


「呼ばねえよ。つーか別に姉貴じゃなくたってさー。他にもかわいい女の子いっぱいいるんだからさ。

トウヤならサトリほどじゃなくてもある程度はより取り見取りだろ?」


「だーかーらー、俺はササイ先輩以外には興味ないの」


「サトリは?」


「もっとねえや」


なかなかトウヤとサトリの一線超えちゃってる説は根深そうだ。

それを払しょくするためにも早く先輩と付き合わなくては。


「ずるいよなー。方やモテモテ男子とモテモテ女子。しかしそのモテモテ女子の弟は女っ気ゼロ!

あーあー、俺よりモテる奴は全員消えればいいのにな」


「なんだよ、宇宙から生き物がいなくなっちゃうじゃねえか」


「え?俺そんなにモテないの?宇宙規模でモテてないの?」


ケースケはショックそうな顔を隠せない。

たいしてモテる方ではないと分かっていたが、まさかそこまでとは。


「冗談だって。世界のどっかにはお前のことを好きな女子もいるって。

ほら、学校前にいるスズメとかさ。あのスズメ毎朝ケースケが登校してくるの楽しみにしてるんだぜ?」


「それ女子じゃねえし。だいたいどのスズメだよ」


トウヤの慰めにもならない慰めでケースケはますます落ち込む。


「さーて、それじゃあササイ先輩情報を弟君から絞り出しますかね」


「あ、お前そのために今日俺を昼飯に誘ったのか!?

小さい!!器が小さくてやることがせせこましい!!」


「俺はどんな手を使っても彼女を得る!!」


「かっこいいっぽく言ったってやってることは小さいよ」


モテる男子とモテない男子の価値観の違いはなかなか埋まらなさそうだ。

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