男の子・女の子

「あっれー、サトリ君じゃん、こんなとこでどしたの?」


「あ、ササイ先輩。トウヤが部活終わったか見にきました」


放課後、今日宿題が多かったのでさっさと片付けようとサトリは図書室にこもっていた。

集中して宿題を片付けたころには夕方6時近くなっていた。

ついでだからトウヤと一緒に帰ろうと、陸上部がいる校庭のすみっこにやってきたのだ。


トウヤは陸上部短距離、たしか100メートルの選手だ。

今は真剣な顔をしてフォームをチェックしているようだ。


「よく私の名前知ってるねえ」


「トウヤからしょっちゅうササイ部長について聞いてますので。

それよりササイ先輩こそ、よく僕のことをご存知でしたね」」


「トウヤ君か。余計なこと言ってないかな?

サトリ君についてはさ、2年のモテ男コンビってことで有名だもん。

たしかにこうしてちゃんと見るといい顔してるね。少し線が細いかな」


ササイはニコニコと笑う。

トウヤがササイ先輩の良さについて暑苦しく語っていたのをサトリは思い出す。


「モテ男コンビって。モテるのはトウヤだけですよ。

それにササイ先輩もかなりモテるじゃないですか」


「うーん。私は確かにモテるけど、女子にだからね。

男の子にモテたいなあ」


遠くを悟ったような顔で眺めるササイ先輩。

いえ、あなたのことを好きな男子は同じ部内で短距離走に精を出してますよ。


「ま、私のことはさておきさ。サトリ君だって相当モテてるじゃない。

3年女子にも大人気だよ?」


「そんなことないです」


サトリはほんの数時間前のことを思い出して渋い顔をする。


「さっきも図書室で宿題してたんですけど、女子が遠巻きにニヤニヤしながらこっちを見てて。

自意識過剰なのかもしれないですが、キモいーとか、変なヤツーとか言われてるみたいで」


あー、鈍ちんさんだ。

ササイにはその状況が目に浮かぶ。

クール系イケメンが図書室で黙々と宿題する様をキャーキャー言いながら見惚れていたんだろう。

それが本人からしたら、遠巻きにウザがられてるように写ってしまったと。

お互い残念だなあ。


「いやー、それキモがられてたんじゃないよ。話しかけたいけど、話しかけられない乙女心だよ」


「そうなんですか?」


サトリには乙女心なんてさっぱりわからない。

話しかけたきゃ話せばいいし、近づきたきゃ近づけばいいのだ。

いまいち女子は苦手だ。

トイレで悪口言ってたりとか(でも声がでかすぎて外まで響いてる)。

女子特有のねっとりした感じが好きになれない。

ササイ先輩はかなりさっぱりした人らしい。

誰かが誰かの悪口をいっていれば、やんわりと話をそらすなど、

場をネガティブからポジティブな方向に持っていくのがうまいそうだ。

しかも男女問わず同じ調子で話すから多くの人から大人気、とトウヤが暑苦しく語っていた。


たしかに、とサトリは思う。

今話しているだけでも、かなり話しやすくていい人であるのが良くわかる。

サトリの気持ちを察した上で、ねっとりした女子の気持ちをわかりやすく解説してくれた。


「そうなんだよ。女の子は好きな男の子に話しかけるのにはとても勇気が必要なの。

サトリ君からみたら女子がわらわら遠巻きにニヤニヤ見てきてるように見えるかもだけどさ。

恥ずかしくて1人じゃサトリ君に声かけられないんだよ。

サトリ君も気になるならさ、今度同じことがあったら、そっちの女子を3秒見つめて首傾げてみてごらん。

話しかけてくるから。

本当にキモいと思ってたら全員走って逃げるよ。

もし1人だけ走って逃げたら、その子はサトリ君のことが好きなんだね」


「何で好きな人に見つめられて逃げちゃうんですか。

めっちゃ逆効果じゃないですか」


「乙女心なのだ」


わかんねー。

サトリにはわからないことだらけだ。

なぜ逃げる。

なぜ自分から声をかけない。

きっとそれも乙女心ってやつなんだろう。

乙女心はブラックボックスだ。


サトリが困惑していると、遠くから怒鳴り声が聞こえた。


「こらー、ササイ!いつまでくっちゃべってんだ。もう部活終わらすぞ!」


陸上部の顧問がササイ先輩に怒鳴っていた。


「あ、ヤバ。じゃあねサトリ君。ちゃんと乙女心について考えておくんだよ」


そう言ってササイ先輩は顧問の元へ走っていった。

さすが陸上部きれいなフォームだ。


サトリはその後トウヤがくるまで、乙女心についてもんもんと考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る