男の話

「麻里、さっき彼が買ってくれた服どうかしら?」

「とても似合ってるわ。ほら、孝之くんもとてもご機嫌じゃない!」

「やった! 麻里が選んでくれたおかげよ」

「ふふ、どういたしまして」


 僕はその様子が楽しくて、笑みを浮かべながら見つめていた。その時、携帯の着信音が鳴り響く。案の定クラスメイトからだった。僕は彼女たちに一言告げて席を立ち、電話に出た。


「なぁ、どうだ?」


 電話先の彼は、妙に怯えているような声だった。震えているのが、電話越しでも分かる。


「どうって、何が?」

「いや、噂ってマジなの?」


 どうやら、彼も聞きつけてきたようだ。この一週間、同じことで色んな人から電話を受けている。そして、誰も彼もが好奇心と恐怖の入り混じった声で、「噂」のことを聞いてくるのだ。


「本当だよ」


 そう言うと、彼は驚いたように短く悲鳴を上げ、自分を落ち着かせるかのように息をついた。しばしの沈黙の後、ようやくひそひそとした声が聞こえてくる。

……そんなに怖がることでもないのに。


「じゃあじゃあ、階段から落ちて死んだのは、麻里と絵里、どっちなんだ?」

「さあね。服装も同じで、結局分からなかったらしいよ」


 平然と答える僕が信じられないのか、彼はゴクリと喉を鳴らした。そして、ためらいながらも。好奇心のすっかり失せた、恐怖に満ちた声を絞り出す。


「……お、お前、怖く……ないの? 気味悪くねぇ?」

「何が?」


 思わず口元がニヤつくのが、自分でも分かった。だって、こんなに面白いものは、めったに見られない。それに、

特に僕に害があるとも思えない。


「僕、正直どっちも好きだったし、二人と付き合ってるみたいでお得じゃん」


 そう言って、僕は彼女たちの方をちらりと見る。ガラスに移った「片割れ」と話す彼女は、とても楽しそうだ。どんな口論があって、どちらが死んだのか、そんなものは知らないし、知る必要もない。けれど、両方が生きている幻想の世界、いや、理想の世界は、さぞかし居心地が良いことだろう。

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同じ顔 譚月遊生季 @under_moon

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