第20話 当たらない弾

 貧乏な日本海軍は、とかく艦を沈めるな!という潜在意識からなのか、遠方からの砲撃を重視した。米側射程外からのアウトレンジばかりきにしていたわけである。結果的に大和の46センチ(18インチ)砲弾も同じだった。砲弾というものは、コンピューターテクノロジーの未途上状態における当時は、目測による方位取得だけに、アウトレンジになればなるほど弾はさっぱり当たらなくなる。昭和19年10月のレイテ沖海戦で、大和を含む栗田健男中将率いる栗田艦隊は、米国海軍の護衛空母郡を正規空母部隊と誤認して攻撃しているが、その護衛空母郡の指揮官であったC.スプレイグ少将も、

「赤、青、黄様々な着色弾が水面に着弾して色とりどりの水柱をあげていたが、ヤマトの撃ったもねだけは、距離が桁違いなので分かった。加えて全く当たっていなかった。」

 と、話していたという。自艦が撃った砲弾をどこに着弾したか認識する為に、色をつけている訳だが、大和は問題外という訳だ。アメリカ海軍の当時の戦艦の主砲射程は、せいぜい4万メートル弱なのに対し、大和の46センチ砲弾は、4万数千メートルの射程があった。この事実は、日本の誇るべきテクノロジーの賜物である。ただ、そこには決定的に問題があった。それは、大和の弾が発射されてから着弾されるまで、80秒もかかってしまうという事である。流石にそれだけの時間があれば、何とか待避は可能だろう。日本海軍としては、相手が大和の射程距離ギリギリにいるのなら、その時は此方の損害0で向こうは全滅するはずだ!。と、本気で考えていた。当たり前だが、敵は動く上に逃げる。そこを完全にスルーしていた。及び腰以前に、想像力の欠如である。人類史上最大級の主砲を持ってしても、海洋覇権を取れなかった事は、大鑑巨砲主義の時代の終焉を意味した。技術的に問題がなくても、それが実績にならない、実戦で使えなければ、兵器としての存在意義はない。

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