第16話 海軍式コンビニエンスストア
酒保というものが海軍にはあった。甘味品やビールや煙草などの嗜好品を取り扱う場所であり、今でいうコンビニエンスストアのようなものである。艦艇勤務は、陸上勤務とは異なり、ストレスがたまりやすい。少しでもそのストレスを発散させる為のガス抜きとして、海軍が考えたシステムだった。武蔵や大和クラスの大型艦船には、当時としては珍しいというか、庶民には持てないラムネ製造機まであった為に、ラムネが一杯1銭5厘、葉書が2銭、銭湯8銭、巡査(警官の末端階級)の初任給が45円(1銭は1円の100分の1)時代であるから、酒保物品は贅沢品とも言えた。そんな酒保物品の中でも、圧倒的に人気だったのが、「虎屋の羊羮」であった。酒保物品で5000~6000本が陸上げされ、ゴムに包まれた丸い棒状の、親指より少し太い15センチ程の長さをしているものである。この時代は、甘いものが貴重品であり高価な品だった。大所帯の軍隊になると、あの手この手で人を入れようとする。徴兵と志願が入り交じった帝国海軍において、酒保物品はアメとムチの「アメ」であった。贅沢品を安く庶民感覚ではない値段で手に入れる事で、海軍とは何と住み良い場所なのかと思わせる事が目的でもあった。人の手をかけずとも、物で吊る方が遥かに安上がりで、手っ取り早い。酒保と呼ばれるくらいだから、酒もそれなりに在庫があった。冗談ではなく、このあたりの末端階級への配慮がなければ、いざという時に兵士がいなくなる恐れもあるため、予算が割かれた。誠に酒保に関しては平等な待遇が実施され、海軍のどの部隊に所属していても、官給品として支給され、階級差による大幅な配給落差も少なかった。皆、平等に甘味や酒を手に入れる。そうすることで、海軍を辞めたいとは思わせないようにした。こんな美味しい想いが出来るのに、なぜ辛い社場に戻るのか?と。今の豊かな時代には考えにくいが、酒保が作られた背景には、そうした当時の切実な庶民の事情があった。
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