第14話 世にも奇妙な海軍用語
帝国海軍には、世にも奇妙な専門用語や隠語がたくさん存在した。駆逐艦乗りは、自らの事を「乞食商売」「車曳き」などと揶揄していたし、甲板士官は、冬であっても裸足でズボンの裾を膝まで間繰り上げて、けたたましく叫ぶ格好が、鶏に似ている事から、まんま「ニワトリ」と呼ばれていた。「機嫌が悪い」と世間ではいうが、海軍風にすると「ゴキが悪い」となる。ゴキは「ご機嫌」から来ているらしい。同期生の人間を「コレス」と呼んだり、海軍内部での盗みは、「ギンバイ(銀蝿)」と呼ばれた。恐らくは、食べ物に群がる銀色の蝿の如くたかる害虫…的な考えがあったのかも分からない。古参兵長の若年兵いじめは、「ジャクル」(若年兵を殴るの略か?)と言われた。海軍士官が用いた隠語の中には、「イモを掘る」という変わり種もあった。酒に酔って乱暴を働く(士官がイモを掘る事で)事で、料亭や食事処を出入り禁止になる…なんという事は日常茶飯事であった。中にはこんなものもある。接合部や軸などの周りに、液体や空気が侵入するのを防ぐ為に、詰め物がされている。これを「パッキン」と呼んだのだが、海軍で「パッキン」と言えば、堅物あるいは融通が効かない兵隊を指した。日本海軍のみならず、米国海軍も使用していた共通の意味の隠語も存在した。艦隊決戦用の高速で、運動性能の高い駆逐艦を用いて、陸兵と物資の輸送を実施したわけであるが、日本側は「ネズミ輸送」、米側は「トーキョーエキスプレス」と称して揶揄していた。部隊の最前線で使われていた隠語もある。「レッコー」という隠語があるが、レッコーとは、英語の「レッツゴー」から来ている単語で、帝国海軍では「物を捨てる」「離す」などの意味があった。二才(ニセ)は、鹿児島弁で「美男子の若者」「色男」を意味する方言だが、明治建軍以来権力を掌握していた薩摩の隠語まであったから、実に多種多様である。そして、ここにご紹介したのは氷山の一角に過ぎないのである。
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