第13話 第一士官次室

 今の海上自衛隊にはその制度は存在しないが、かつて大日本帝国海軍の大きな艦船には、必ず第一士官次室(通称:ガンルーム)がもれなくあった。第一士官次室とは、中・少尉及び少尉候補生の公室であり、食堂兼休憩室である。なぜこの部屋がgun roomと呼ぶのかというと、その語源は英国海軍にあった。その昔、英国海軍軍艦では、小銃や拳銃、剣などを格納した武器庫を、若い士官や候補生の公室としていた。その伝統に日本海軍も倣ったわけである。ガンルームは、軍艦の生気を一室に集めたような場所である。「第一士官次室ノ風格ハ艦全骨豊ノ士気如何ヲ察スルニ足ラン」(一艦の士気語源説もある。)また、ガンルームに集う若手士官の躾教育や、取り纏め役、言い換えれば兄貴分役の事を、海軍用語でケプガン(captain-of-gunroom)というが、第一士官次室の長たる人物まで存在した。兵科出身最先任者である古参中尉が、大抵はケプガンの役を担う事になっていた。また、大きな艦には、それ以上の階級者専用の士官室もあった。巡洋艦以上の艦船には、必ず配置されていたという。士官室は、分隊長クラスである大尉以上から、副長までが使える。もちろん艦長には、艦長室がある。士官室の広さは、4畳半よりも少し広い程度のものであったとされる。いくら海軍兵学校を卒業したエリートとは言え、部隊にいるのは部下ばかりではない。特に大和級のような超ド級戦艦ならば、上には上がおり、どこまでも上下関係に悩まされるのは、軍人の宿命である。上下関係は、組織にいる以上、必ずついて回る。連合艦隊司令長官であっても、海軍大臣や天皇陛下がおられるし、海軍大将であっても、先任の者は必ずいる。海軍に限らず、1日でも早く入営した、あるいは階級が上の者には敬意を払うのが、軍隊という組織である。

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