第12話 海軍式序列

 日本海軍の人事序列には、「軍令承行令」というもので定められていた。兵科将校を主計、機関など他の兵種将校の上位に置き、また兵科将校でも序列がきちんと定められていた。特別な抜擢人事は仮にあっても、基本的には大佐どまりで、将官は先任序列に従うというルールである。つまりこれは、人物よりも成績を重視するものであり、現在の実力よりも過去の軍歴がものを言う、という制度である。早く言えば、海軍兵学校の卒業成績順位である。この軍令承行令の成立は、明治の帝国海軍建軍以来、「長州陸軍、薩摩海軍」と言われるように、鹿児島出身の者が、海軍中心派閥として勢威を奮った事に起因していた。悪習とも言えるが、明治末期までは、同郷意識による薩摩藩閥による人事の横暴が、まかり通っていた。こうした情実をなくす為に、緻密な考課表システムと、海軍兵学校卒業成績に基づく、きちんとした序列制度が考案された。平時の海軍には、とても有効に作用したこのシステムだった。派閥の専横はなくなり、独特の海軍家族主義により、良き伝統を築く事にはなった。しかし同時に、事務能力と上司のお覚え如何により、出世が決まるという形式主義が根を張る事になってしまう。この「軍令承行令」は、現在の官僚に通ずる日本型エリートの近代的原点であるとも言える。現在のその人物の実力ではなく、過去の筆記試験成績で、全てが決まり半永久的に続く。確かに平時の人事序列制度としては、一定の効力はある。しかしながら、このやり方では、緊急時に足の引っ張り合いになりかねず、実際足の引っ張り合いになった。それだけでなく、いくら有能であっても、試験の成績で人事決定してしまう以上、適材適所に人材を配置する事もままならない。海軍の様に、緊急時対応が核となる様な組織には、必ずしも適合したシステムとは言い難かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る