第11話 戦前の国力

 戦前戦中の日本は、まだまだ貧しかった。日本海海戦で、国力約10倍のロシアに勝利しても、底辺の国民の暮らしは一向に貧しいままであった。その貧しさから逃れる方法として、軍隊に入営するという発想は、至極当然の成り行きであり、広く国民に知られていた。日露戦役最大の功労者である秋山兄弟然り、真珠湾攻撃を指揮した山本元帥然りである。軍人になった全ての人間が、貧しかった訳ではないが、陸軍や海軍に入れば三度の飯には困らない。兵舎や戦場での生活は、制約もあるが、慣れてしまえばどうという事はない。特に、海軍の飯の旨さは庶民にとって魅力的であった。確かに海軍の飯は、当時の食料事情を考えれば、上質なレベルであった事に間違いはない。当時は人口過渡期にあり、陸海軍共に、農家の次男・三男や食い扶持に困った人間の受け皿になっていた。現代でいうところの公務員試験的な感覚だろうか。かなり軍隊は身近にあり、今では考えられないが、国民にとっては、さほどのアレルギー物質でなかった事に違いはない。心身健康で、多少の知識があれば、入隊する事は難しくない。国家と国民に需要と供給が、丁度フィットしていたとも言える。大日本帝国の常備兵力は約30万人。予備役や緊急召集により、300万人まで兵力を増強出来た背景には、仕事や食い扶持に困る庶民の貧困ぶりも、あったわけである。それでいて、お国の為に死ぬことは最大の誉であり、そういう考え方がまかり通っていたわけだから、あの戦争は起こるべくして、起こったのかもしれない。大和や武蔵に乗り組んだほ水兵も、やはり貧しい出自の下士官や、兵隊が多かった。士官クラスとて、貧しいからこそ、学費のいらない兵学校や士官学校に行くわけで、お金に余裕のある人間がわざわざ、命のリスクをおかしてまで軍人になったりはしない。米国に負けた要因はあげればきりがないが、こうした軍隊の構成員の出自というのも、要因の一つであったのかもしれない。米国や英国では、エリートが進んで戦地に赴くという、考え方がある為だ。

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