第10話大和実践配備

「大和」級戦艦を産み出した背景にあったのは、当時は根強かった「大艦巨砲主義」に由来する。大艦巨砲主義とは、文字通り大きな艦船で、巨大な口径の大砲を持つ戦艦こそが、海の王者であり、建造配備こそ至上とする考え方である。昭和一桁の時代にあっては、まだ航空母艦は主流ではなかった。それどころか、航空機が戦艦を撃沈するなど全く考えてはいない時代である。有識者の間では、少なくとも海上作戦の花形が、航空機に移るだろうと、予測されていたに過ぎない。集中と分散こそが、海上作戦の戦闘要素であり、「空母機動部隊+航空機=イニシアティブ」という結論に至るのは、難しい事ではなかった。しかし、それでも大国はこぞって大艦巨砲にこだわり続けていた。政治力や予算の絡みもある。巨大な水上艦は、予算の総額も多い上に、予算に付随する人員数や高級ポストも多かった。ただ、航空機の場合は、それがまるで逆であり、平時の将校の死亡率の高さが比較されていたようである。どこの国の海軍でも、最もステイタスが高く影響力を持つのは、戦艦と大砲に関わるセクションであった。支配力を行使出来る予算も、関連産業も、航空系セクションは、まだまだ小さかった。巨大な既得権益である戦艦建造の「慣性」を、おいそれと変更するのは容易な事ではない。大和も武蔵も、戦艦としては最強クラスのスペックを持ちながら、航空機により沈められる。歴史の必要悪とでも言うのか、必然であったと言えるだろう。空母が戦艦に変わる海の王者に代わるのは、日米が激戦を繰り広げたのは、大東亜戦争の頃になってからである。「大和」級戦艦の2隻の航空機による撃沈は、時代の移り変わりを象徴的に表すシンボルとも言い換えられるだろう。

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