第28話 ここまで出てるのに

ヨウちゃん、お願い、元に戻って、お願い、お願い、ヨウちゃんの体にちゃんと戻って。

心の中で、何度も、何度も、そう繰り返し、祈るように目を瞑る。

シンちゃんも隣で祈っていてくれた。

ノドカさんは、ヨウちゃんのベッドの傍で、ヨウちゃんの手を握って、戻ってくるのを待っていた。









「マミさん、入れ替わりは完了したわ、ホクトとヨウの位置が変わってるから、間違いないわ」

「本当ですか?よ、良かった・・・」

閉じていた目を開けて、ヨウちゃんの方を見る。

わたしたちには、同じに見えたが、マドカさんだけは中身と外見が一致していた。


「先に、ヨウの方から点滴を止めるわね」

慣れた手つきで、マドカさんは点滴を止めた。

「ホクトさんの方は?」

「念のため、ヨウが覚醒するまではこのままにしていましょう」

何が起こるかわからないから、とマドカさんは言いたげだった。


しばらくすると、ヨウちゃんが目を開けた。

「う・・・・、俺・・・、も・・・とに、もどった・・・?」

ヨウちゃんが自分の体を確かめるように、両腕を上げた。

「お、タトゥ、ないやん、俺の体、お久しぶり」

どうやら、間違いなく、ヨウちゃんは元に戻れたようだった。

「うわーん!ヨウちゃん!良かったぁぁ」

ノドカさんが、ヨウちゃんに抱きついて、泣いていた。

マドカさんも、安堵の表情になっていた。

わたしも、全身の力が抜けて、くたくたになってしまった。

「マミ、よくやったね、良かったね、お疲れ様」

シンちゃんとしっかりと抱き合って喜びを分かち合った。


「ん?ホクトさんは?まだ寝てるん?」

ヨウちゃんがベッドから起き上がり、ジンさんの体のままのホクトさんを気にかけた。

「そうね、ヨウも戻ったし、点滴を止めてもいいようね」


「あ、あの・・・・、マドカさん」

「何かしら、マミさん」

「このまま、ホクトさんと、ジンさんとの入れ換えってできないのですか?」

「このままだと、ホクトの体は重傷をおったまま、元に戻ってしまう可能性が高いわ」

「ああ、そっか、そして、ジンさんが元気な体で目を覚ましてしまったら・・・」

まだ、火傷した状態のジンさんに会ったことがなかったので、上手くイメージできないでいた。

「ごめんなさいね、マミさん。私には、とても耐えられないわ」

そんなの、わたしだって嫌だ。

「とにかく、一度、ホクトを覚醒させるわ」

そう言って、マドカさんは、ホクトさんの点滴をとめた。

「おねーちゃんって、もしかしてホクトさんのことが好きなの?」

「・・・・」

みんなが、マドカさんに視線を移した。

「そうね彼のような人には今まで逢ったことがないわ・・・でも、このことは彼には秘密よ」

「え、どうして?ホクトさんも、おねーちゃんのことが好きなんじゃないの?」

「さぁ・・・どうなのかしら」

「私、まだホクトさんの姿は見たことないけど、おねーちゃんとお似合いだと思うわ」

「ノドカらしいわね」

「私が聞いてあげるよ、ホクトさんが目を覚ましたら、おねーちゃんのことが好きかどうか」

「いいえ、今はいいわ」

「えーどうして?」

「どちらの答えだとしても、辛いから」

「おねーちゃんって、そんなキャラだった?」

「自分でもよくわからないわ・・・、ただ、彼を失いたくはない、そう思っているのは確かよ」


「マミ、大丈夫?」

「うん、さっきよりかは大丈夫よ、とりあえず、ヨウちゃんは元に戻ったから」

「マミちゃん、ありがとうな」

「ううん」

「マミさん、私からもお礼を言うわ、ヨウちゃんを元に戻してくれてありがとう」

「そんな・・・、でも故意にではないとはいえ、わたしが入れ替えをしちゃってたんだから」


「いえ、マミさんひとりの力ではないですよ」

目を覚ましたホクトさんが、そう言って、ベッドから起き上がった。


「ねぇ、これからどうするの?ホクトさんの体、あのままだと死んじゃうんでしょ?」

「そうね、何か良い方法が見つかればいいのだけど」


ホクトさんの体が、もう数日とは持たないのは明らかだ。

もし、ホクトさんの肉体が死んでしまったら、ホクトさんの中身はどうなるのだろう。このままジンさんの体に残ったままなのだろうか、あるいは、肉体が滅んでしまったら、魂も消えちゃうのだろうか。

そうなると、ジンさんの肉体に、ジンさんの魂がもどってしまうのだろうか。

どちらにせよ、あまり良い状況ではなかった。


「あの・・・、マドカさんには今、ホクトさんはホクトさんの外見のまま見えている状態なんですよね?元気な姿で」

「ええ、そうよ、元気な彼のままよ」

「で、病院のベッドで眠っているジンさんは火傷は残ったままの状態で見えてるんですか?」

「ええ、もう、そうやって認識してしまったし、彼を元の姿に戻したいと、どうしても思えないの」

「ホクトさんとマドカさん以外のわたしたちは、まだ、ジンさんの火傷を負った姿は見ていませんよね?」

「ええ、そうね」

「えーっと、ということは・・んんと」

なんだか、もう少しで良い答えがでそうなのに、出てこない。もどかしい。

なにか・・・、わたしたちは、大事な何かを見落としているような気がした。




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