第27話 しいて言うならば、愛

「わたし、ごめんなさい、自分でどうやったかもわからないし、自分にそんな能力っていうか、不思議な力を持ってるなんて自覚がなくて・・・、ただ、力にはなりたいって思っています」

今の気持ちを素直に話した。


「能力の発動には多分条件があるのだと思います」

「条件?」

「そうです、たとえばボクの場合は、まず、相手が入れ替わりの説明を理解し、了承を得ること。次に、クライアントが眠っている状態であることと、ボクがトランス状態、つまり無意識に近いような状態でいることなどです」

「わたしは説明もしていないし、同意も得ていないわ」

「ボクは今回、これが不十分であったため、結果がこのようになったのだと思います」

「ホクトだけのせいではないわ、私が招いたことよ」

「もう起きてしまったことは仕方がありません。次は上手く行くように今は考えましょう」

「おねーちゃんにしては、随分動揺してるのね、いつもクールなのに」

「そうね、前向きに考えましょう」

「わたしの場合の発動条件って何なのですか?」

「ボクの想像の範囲内ですが、多分、マミさん自身の強い願望や希望と、相手の願望や希望があること。入れ替わる人物の内の誰か一人は自分の知っている人物がいること、入れ替わる人物は導入時、深く眠っていて意識がない状態であることなどが考えられます」

「強い願望や、希望・・・」

「先ほども話しましたが、マミさんにも、シンジ君にも、ジンさんにも、多分ヨウ君にも、それぞれになんらかの願望があったのでしょう、それが、入れ替わる相手を選んだのかもしれませんね」

「ねぇ、ホクトさんは、寿命と若さ、おねーちゃんも若さを報酬にもらえるけど、マミさんは何なの?」

「ボクが思うには、多分それは・・」

「それは?」


「しいて言うならば、愛、ですね」


「愛?なにそれ~」

「喜怒哀楽のどれとも明確ではない、目に見えない何か。そして人間が無意識に求めているもの、与えることができるもの、とでもいいましょうか。それを愛と呼ぶならば、その愛をマミさんは受け取り、パワーとして、能力を強めているのではないのでしょうか」

「シンジさんへの愛情を確信し、また、シンジさんからの愛情を受け取り、自我が強くなったマミさんの能力が増幅し、離れているボクたちにまで影響を及ぼした」

「愛の力ってすごいのね」

「相手を想う愛が溢れると、相手からも愛が溢れだし、それらが力となり、さらに誰かを幸せにしようとするための力となります」

「ジンさんは生に執着がきっと強くあったのでしょう。シンジさんは頼られるような強さが欲しかった、ヨウ君は・・・」

「俺、なんやろな?自分でもわからんわ」

「多分、マミさんと出会ったことで答えが見えてくるでしょう」

「と、とにかく、わたしの力が他者の入れ替えができて、強く願えば、入れ換える相手を選べるかもしれないのね」

「そういうことですね」

「でも、上手くできる自信がないです、わたし」

「そうですね、難しいでしょうね。ですから、今回は、ヨウ君だけを戻すことに集中して欲しいのです」

「え?」

「ヨウ君の体は今、ボクが持っています。ボクとヨウ君の中身の入れ換えを行ってください」

「でも、それだとホクトさんが・・・」

「ボクはいいのです。とりあえず、ボクがジンさんの体になってしまえば、ジンさんが目を覚ましてしまって、何かが起きても、ヨウ君は無事ですから」

「その後は、どうなるの?」

「それは、その時に考えましょう。もしかしたら、その後も上手く行くかもしれません。マミさん、お願いできますか?」

「・・・それならできるかもしれない・・・、やってみます、どうすればいいですか?」

「ボクとヨウ君に睡眠薬を投与します。両者とも、意識を失い、あとはマミさんが強く願えばきっと上手く行きます。ボクもヨウ君もそれを強く希望していますから」

「私も早く元のヨウちゃんに戻ってほしいわ」

「ええ、俺クスリ、飲むんか・・・、ま、でもしゃーないな。マミちゃん、頼むで」

もし、ヨウちゃんの体にジンさんが移っちゃったら・・・、あ、ダメダメ、イメージするのよマミ、ヨウちゃんが元に戻ることだけを考えるの。戻ってほしい、元に戻って、お願い。

「マミちゃん、まだやで、俺らが眠ってからでいいで」

「イ、イメトレしてたのよ、イメトレ」

「マドカ、時間がないので、点滴でやりましょう」

「ベッドは用意してあるわ、奥の部屋へ行きましょう」

先ほど、マドカさんが入って行った奥の部屋には、2台のベッドが並び、点滴や、モニターなど、必要な機器が揃っていた」

「マミ、大丈夫?」

「大丈夫って言いたいけど、大丈夫じゃないかもしれない。でも、わたし、やるわ、シンちゃん」

シンちゃんはわたしの手を握ってくれた。


点滴がホクトさんとヨウちゃん、それぞれに繋がれた。麻酔科医は傍にはいないが、濃度は通常に使用される範囲内で、シリンジポンプを利用し、微調節できる状態にされていた。

しばらくすると、脳波の波形が変わり、二人とも睡眠状態に入ったことがわかった。

「入れ替わったら、私が合図をするわね」

マドカさんがついていてくれると、とても心強かった。


わたしは、深呼吸をすると、ヨウちゃんが元に戻ること・・・、それだけに気持ちを集中させた。


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