第26話 タイミング
「ここまで話した内容で、質問がなければ、先ほどマミさんがした質問に答えますが」
「うーん、私、聞きたいことがたくさんあるけれど、何を聞けばいいのかがわからないわ」
「俺はさっきのマミちゃんの質問の答え、聞きたいわ」
「もしよろしければ、わたしも答えを早く聞きたいって思ってます」
シンちゃんは黙って頷いた。
「ごめんなさい、ちょっと私、外の空気を吸ってくるわ。私に構わず、みなさんで話を続けていて」
マドカさんは席を立つと、奥の部屋へと消えて行った。
ホクトさんは、マドカさんが立ち去るのを見届けると、視線をこちら側にもどし、話し始めた。
「みなさんには、ある程度わかっていただけたと思いますので、先ほどの質問に答えつつ、話を進めていきますが、これはマミさんの能力についてですね。
あくまでも、ボクの推測の域ですが、こう考えられます。
彼女の能力は、誰かと違う誰か、つまり自分以外の他人同士の入れ替えができる。そして、それは眠っている間、意識を失っている間に発動し、どちらが覚醒状態になっても入れ替わりを維持できる。
それ以降の睡眠などの意識喪失状態で、また入れ替わることができる。
そしてそれにはマミさんや入れ替わる本人の無意識にある強い想いが作用している。
マミさんが、最初にシンジ君の姿を他人の姿として認識した現象ですが、多分それはボクとマドカの能力がマミさんに影響を及ぼした、或いは、マミさんがその能力を引き寄せたのでは、と考えられます。多分、後者でしょう。
マドカが知っているボクの姿が、マミさんを通して、シンジ君に反映された。
認識の入れ替わりが起こった、しかしまだその力は完全ではなかった。
この4人で入れ替わりが起こっているとなると、マミさんが見たという最初の人物が、ジンさんでも、ヨウ君でもないということは、そうだと思います。
偶然だとは思いますが、マミさんがボクのサークルに参加していたことがあったでしょう。
きっと、最初のきっかけは、その時にボクと接触し、マミさんの能力を目覚めさせる何かがあったのだと思います。
そして、マミさんの「入れ替わり」能力が開花したのではないかと」
やっぱり、あの超絶イケメンの持ち主はホクトさんだったのね。納得がいったわ、わたし。
サークルって、あのあやしいサークルね。そう言われてみれば、ヒーリングがなんとかって言ってたわ。人間関係で悩んでた時に、友達に誘われてたあれね。
まさか、ホクトさんがあの時いたなんて、気付かなかったわ。そう言えば、声はしたけれど、姿は見えなかった。そうよね、あんな超絶イケメンだったら絶対覚えているし、シンちゃんの外見が変わった時に思い出すもの。
あ、変なジュース飲んじゃったけど、それも関係あるのかな。
まだ、混乱はしていたが、それぞれの肉体と中身の一致に納得がいった。
「マミちゃん、なんかすごいやん。でも最初は能力がごちゃ混ぜになってしもとってんな」
「わたし、サークルで怪しげなジュースを飲んじゃったんだけど・・・、赤い色のジュース」
「安心してください、あれはただのアセロラドリンクですから」
「え?そうだったの?わたし、てっきり何か怪しい薬でも飲んじゃったんじゃないかって思ったわ」
「きっと、そのような思い込みも、無意識に影響して、マミさんの能力に作用しているのだと思います」
「俺も変なカクテル飲んだけどな」
「ヨウちゃん、あれ飲んだ後、眠っちゃって大変だったんだからね!」
「え、ノドカちゃんが介抱してくれたん?ありがとう」
「・・・・、おねーちゃんの部下がベッドまで運んだんだけど」
「俺のありがとうを返してくれ」
「ヨウ君が深い眠りについてしまったことも、今回の入れ替わりに何らかの関係があると思っています」
「そう言えば、おねーちゃんがヨウちゃん全然電話にでないし、メールの返事もないって言ってた時があったわ」
「オレもそのサークルを覗きに行ったことがあります。何も飲んでませんが、お香の臭いがしましたよ」
「それも、今回の事に少なからず関係があるのかもしれません」
ホクトさんは、そこまで話をすると、一度、マドカさんが入った部屋の方へ目をやり、再び話し始めた。
「先ほども話しましたが、無意識や潜在意識というのは、とてもこの現象に影響を及ぼします。
マミさんは最初、シンジ君と向き合いたいと思っていたのでしたね。
シンジ君はマミさんにもう一度振り向いてもらいたいと思っていたのと、マミさんに頼られる存在でありたいと思っていたのではないでしょうか。
ヨウ君は何を強く願っていたのかは、ボクにはわかりませんが。
そして、ボクはジンさんと入れ替わりを試みていた。
ただ、タイミングですね。
そのタイミングが重なってしまった時、まだ未熟だったマミさんの能力、そしてボクとマドカの能力が化学反応のようなものを起こして、今回のような4人の入れ替わりが起こったのだと考えられます。
一度目が、シンジ君の外見のみが変わる現象で、それはマミさんの視覚的な認識のみに現われた。この時はまだマミさんの力はそれほど強くなく、マドカの力がなんらかの影響を与えていた。
二度目は、ボクたちを巻きこんだ状態で、4人の入れ替わりが起きた。
ただし、マドカには中身と外見は変わらず認識されている。
三度目は、シンジ君だけが元に戻り、残りの三人の間では入れ替わりが継続している。
これは、マミさんがシンジ君を元に戻してほしいと強く願ったこと、シンジ君も元に戻りたいともちろん思っていたでしょうから、それらが能力に影響を及ぼしたと考えられます。
二度目の時に入れ替わったのは、シンジ君の外見をしたヨウ君、ヨウ君の外見をしたボク、ボクの姿をしたジンさん、そしてジンさんの外見のシンジ君。
ただ、この時、ボクは丁度、ジンさんとの入れ替わりを試みていた。
それが、どういうわけか、ボクの肉体とジンさんの肉体が入れ替わった状態の時に重なったため、今病院のベッドで寝ている方が、ボクの体になった状態で4人の入れ替わりが起きてしまった。
そこには、ジンさんの、生に対する執着が強く影響していると感じました。
もちろん、彼はまだ深い眠りの中にいます。そして、一時期意識を回復しましたが、通常入れ換えがそこで終了するはずが、覚醒しても元には戻らなくなってしまったのです。
それは、ボクよりもマミさんの力の方が強かったということと、ジンさんには入れ替わりの納得が得られていなかったこともあると思います」
「ホクトさんと、ジンさんが、入れ替わりをした時、ジンさんがホクトさんの体に乗り移って、歩きだしたりはしなかったの?」
「今回、ボクがジンさんと入れ替わりを行う際に、彼の了解も得ていないことと、彼がボクの体を手に入れて自由に動き回られては困るというのもあって、通常瞑想でトランス状態になるだけのところを、ボクも睡眠薬を投与してもらって、深い眠りにつきました。入れ替わりが完了した時点で、マドカには入れ替わりがわかるので、マドカにジンさんの鎮静剤の投与を止めてもらうようお願いしていました。
ジンさんとボクが入れ替わりに成功し、どちらも眠ったまま、ベッドで寝ている方がボク、そしてボクが寝ていたソファーにジンさんがいる状態になりました。
これはマドカといる時に起きた状態と同じです。マドカも入れ替わりが完了したとそこで判断し、鎮静剤の投与を止めました。
そこで目を覚ませば、入れ替わりが終了し、ジンさんが数時間以内には苦しみから解放されるはずでした」
「そ、それって・・・」
「私がホクトに無理を言って頼んだのよ」
マドカさんが奥の部屋から戻ってきた。
「いえ、ボクもその方がいいと判断したから協力したのです」
「良く言えば、彼をこの苦しみから解放するということだけれど、彼本人の意思は無視しているから、見ようによっては殺人ということにもなるわ」
ソファーに腰掛けると、マドカさんはノドカさんの方を向いた。
「でも、ろくでもない人だったんでしょ?私、そのジンって人が父親だという実感はないもの」
「病室で、入れ換えをしたんですか?」
「ええ、彼を動かすのは危険だと判断したの。個室だったのもあるし、付き添いがある場合は、特に検査などがなければ検温以外は誰も入ってこないわ。モニターに異常が出ない限りは」
「ま、どうせそんな長くはなかったんやろ?」
「気道にも熱傷があって、たとえ意識が回復しても呼吸器を外せる状態ではなかったでしょうね」
「助かったんが奇跡みたいなもんやな」
「今はホクトさんの体でベッドに寝ているってことになるけど、熱傷の痕は?」
「私とホクトの認識が優先されていて、彼の了承を得ていないから、入れ替わり時もそのままで行われたわ。つまり、熱傷の傷を負ったまま、入れ替わりになったの」
そして、深呼吸を一度したあと、マドカさんはこう続けた。
「その間に、ジンとホクトの中身だけが入れ替わってしまったの」
「そ、それは、4人が入れ替わるタイミングの時ですか?」
「多分そうかもしれないわ、私の目から見ると、入れ替わりが終了して、ジンがベッドに戻ったと思ったの、でも」
「でも?」
「ジンがベッドに戻った姿、ホクトがソファに戻った姿が私には見えていたのに、ホクトの寝ていたソファに、ホクトではない人物が寝ている、と病室に来たナースが言ったの」
『先ほどの方は帰られたのですか?その方は弟さんですか?』と。
「部下に確かめさせたら、外見はヨウだったのよ」
「その時、私達に何が起きているのかが、わからなかったわ」
「と、とにかく、わたしのせいで、肉体の入れ替わりと、中身の入れ替わりが混同して同時に行われたっていうことなんですね?」
「マミさんのせいではないわ、すべて私のせいよ」
「ナースたちにはバレなかったの?ホクトさんに変わっちゃったって」
「幸いというか、不幸にもというか、熱傷と包帯保護されていたから気づかれなかったわ」
「えーと、ちょっと待てよ。ホクトさんの体は火傷した状態で、つまり瀕死の状態でベッドにおるってことか?」
「ええ、私が無理を言って、自分の欲のために力を使ってしまった罰ね」
「マドカ、君が全部背負うことはありません。ボクは後悔などしていないのですから」
「じゃぁ、ジンさんの火傷の状態や身体状況はそのままホクトさんに移ってしまっているのね・・・、もしもジンさんが目を覚ましてしまったら・・・」
「彼の認識の仕方によっては、最悪の事態になるでしょう、あるいはボクの体の寿命が尽きてしまうか、ですね」
「でも、ホクトさん、寿命たくさんあるんでしょ?今までもらった分が」
「この現象が起きてしまった時点で、その保証は確かではありません」
「私たちにもわからないわ。彼が目を覚まして、もしかしたら戻るかもしれないと思ったけど、一時期少し意識が戻っても、現状は変わらなかったわ」
「じゃ、どうすればいいのよ」
「元に戻せるとすれば、方法は一つしかありません。マミさん・・・、キミの力が必要なのです」
「わ、わたし?」
まさか、こんなことになるなんて。
事の重大さに、思考がついてこなかった。
わたし自身、わたしの能力のことなんて、自覚が持てなかったし、どうしていいのかがわからなかった。
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