第24話 王子様

「ヨウを雇ったのは、ノドカを守ってもらうためよ」

「ごめんな、ノドカちゃん、黙ってて」

「え?ヨウちゃんは知っていたの?」

「いやいや、俺が黙ってたんは、不審人物がノドカちゃんの周りをうろついてるから、しっかり守れと言われてたことで、決して俺のパトロンちゃうかったってこと」

「ノドカはヨウに懐いていたし、適役だったわ。ただ、少し行き過ぎたわね」

「あ、マミちゃんにも嘘言うてたな、ごめんな」

「え、ああ、わたしは別に気にしてないわ」

「ちょ、ちょっと待って、じゃぁ、おねーちゃんがヨウちゃんのパト・・、そういう関係になる前から、ヨウちゃんは私を守ってくれていたの?」

「そうね、ヨウをノドカに近づけたのは私よ」

「・・・だからヨウちゃん、あの時、すぐに助けに来てくれたんだわ」

「その事があってから、なるべくノドカの傍にいてもらうために、彼を正式に雇ったのよ」

「あからさまにボディーガードなんかつけてしもたら、ノドカちゃんビビるやろ」

「ショック~、私の方が先にヨウちゃんと知り合えたって思ってたのに」

「そこかいな」

「だけどおねーちゃん、ヨウちゃんの電話番号消したでしょ、いざとなった時にヨウちゃんに助けを求められないわ」

「ノドカにはわからないように、護衛も付けていたわ、ヨウは直接あなたを守る時に必要だったの」

「あ!だからヨウちゃんが意識失っちゃった時、すぐにお迎えが来たのね。あの時は泣きそうだったわ」

「ヨウにそこまで入れ込むとは思わなかったわ、正直言うと」

「だって、私を助けに来てくれた時、本当に王子様みたいでカッコ良かったんだもの」



「続きを話してもいいかしら」

マドカさんが話し始める前に、二杯目の紅茶をおかわりした。


「ノドカが事実を知ってしまうと、ショックをうけてしまうと同時に、私から離れて行ってしまうのではという不安に苛まれたわ。なんとしてでも、ノドカを守らなければ、そう思ったの。私は必死だった。お金を渡したところで、この地獄からは抜け出せない。

そう思うと、日々病んで行くのがわかったわ。

私の友人が見兼ねて、彼を紹介してきたの。天野 北斗。そう、彼ね。

彼は不思議な力を持っていたの。普段はヒーリングなどをやっていたわ。

でも、本当の能力は誰にでも見せていたわけじゃないわ。

  

ごくごく限られた一部の人間だけが、彼の能力を知っていた。

ホクトは「入れ換え」ができたの。でもそれは本来、人のために使うべき力であって、決して己の欲のために使う力ではないわ。

彼は痛みに苦しむ人や、余命いくばくで衰弱してしまった人と、自分の体を入れ替えることによって、少しでもその苦しみから解放させたり、その間だけ、衰弱した体ではできなかったことを思い切りできて、安らかにその人の寿命を全うできるよう手助けをしていたの」

  

                                      

「で、でもマドカさん・・・、そんなことをしたら、ホクトさんが痛みを背負わなきゃじゃないんですか?」

ノドカさんの方に目をやると、少し放心状態になっていた。無理もないわよね。


「彼らと入れ替わっている間は、ボクは深い眠りにつきます、痛みを感じないほど、深く眠ります」

「それじゃ、ごく限られた時間なのね」

「そうですね、長くても一日、といったところでしょう」

「それでも、痛みから解放される時間があって、その間、思い切り予後を楽しめたのなら、自らの死を受け入れる準備ができるかもしれないわね」


「でも、ただってわけじゃ、ないんでしょう?」

少し持ち直して、ノドカさんが質問をする。


「そうですね、ボクの場合は、その人の、残りの寿命をいただきます」

「えっ!じゃ、じゃぁ、元に戻った途端、その人は死んでしまうの?」

「はい、元に戻ってから1時間以内に。そのことはきちんと説明をして、本人や家族が納得したうえで、彼らが決断するのです」


まだ、信じられなかった。そんなことが世の中に存在するなんて。けれど、実際に入れ替わりを目の当たりにしているし、ホクトさんがそのような嘘をいう人ではないことは明らかだった。

でも、その入れ替わりという能力をわたしが持っているというのはどういうことなの?


「あの、お聞きしてもいいですか?」

「どうぞ」

「わたし自身は誰とも入れ替わったことなんてないんです、だから、わたしにそんな力があるとは思えないんですけど」


「その質問には後で詳しくお答えしましょう。今はマドカさんの話の続きを最後まで聴いていただいてもいいですか?」


「はい・・・、わかりました」

わたしの能力ってなんだろう、その能力をわたしは知らず知らずのうちに使ってしまっているのだろうか。もやもやとした不安が払拭されない状態だったけど、マドカさんの話の中に、答えがあるのだと、わたしはソファーに座りなおし、体制を整えた。







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