第23話 かごめかごめ

マドカさんの瞳はどこか憂いを帯びていた。それが更に彼女の美しさを引き立たせていた。

深い紅色であるにも関わらず、どこか冷たい炎のような彼女の唇が静かに動き出した。


「私の父はとても厳しい人だったわ。私が女だということもあって、特に家に縛られていの。まだ10代だった私は、そんな生活に不自由さを感じて、一度、家出をしたことがあるわ。

父は激怒して、さらに私を監視するようになった。そう、もう籠の鳥ね。

羽ばたくことも許されず、私は父に観賞されている鳥のようだったわ。


ある日私は恋に落ちたの。


私が学校を黙って早退し、二度目の家出をした時に出会ってしまったの、その彼と。

世間知らずで、もちろん男性となど関わりを持ったことがなかった私は、すぐ彼に夢中になった。もう、彼なしでは生きていけない、そう本気で思ったわ。

父が必死で探していたみたいだけど、今度は絶対に見つかるまいと、隠れて生活していたの。

  

それでも私は彼といられるだけで幸せだった。

  

ある日私は、自分が妊娠しているということに気がついたの。それを彼に話したわ。

彼は今まで見たことも無い形相で一言、堕胎しろと言い放ったの。

私は自分の目と耳を疑ったわ、けれど、私は産みたいと言った。

愛する人の子どもが産みたかった。でも、彼は聞き入れてくれなかった。

  

そして、後から知ったことだけど、彼には他に女性が数人いたの。つまり、私は遊ばれていただけだったのね。

どうしようもなくなって、家に戻ったわ。そうして父に妊娠していることも打ち明けた。

もちろん、父も堕胎を勧めてきたけれど、その時にはもう堕ろせる状態ではなかったの。


そして、父の手配した遠方にある病院で出産したわ。とても可愛らしくて小さな女の子だった。

私はその時、まだ17だったの。学校や世間には留学中という事にしていたわ。

父の一存で、その子を父の子として籍に入れることにしたの。母も父の言いなりだったから、口出しはしなかったわ。


せめて、名前はつけさせてと懇願して、「和華(ノドカ)」と名付けたの」


                  


ここまで、話すと、ノドカさんが口を開いた。

「ちょ、ちょっと待ってよおねーちゃん、その、ノドカって、それって、私なの?つ、つまり、私は妹じゃなくて、娘だったっていうの?」

ノドカさんの声が震えていた。

「ごめんなさいね、本当は一生話さないつもりだったの、でも、ノドカも大人になったし、今がいい機会だと思うわ、ちゃんと聞いて、すべて真実よ」

「し、信じられないわ、私、今までママは亡くなったって思ってたのに」

「そうね、母は私の代わりに母親として、あなたを育てたわ、たった1年だったけれど」

「その後はどうしたの?誰が育ててくれたの?」

「父はノドカを私には引き合わせてくれなかったわ。たぶん、専用のシッターがいたのね」

「どうして?パパ・・・、あ、おじいちゃんになっちゃうの?パパは」

「本当のところは、私にもわからないわ。世間体もあっただろうし、私がノドカと関わることによって、事実が世間にしれてしまうのを恐れたのかもしれないわ」

「でも、もう私がもの心ついた時には、おねーちゃんはそばにいた記憶があるわ」


「ある日彼がやってきたの。

私の父の財産目当てね。あの出来事を黙っている代わりに、お金を要求してきたわ。

父の世界は、足の引っ張り合い。弱みを掴まれるのをとても恐れていたの。

父は金に糸目をつけない人だったから、彼に大金を渡してしまった。

それでも、彼はすぐに使い果たしてしまって、またお金をせびりにくるようになったの。

その時、手引きをしていたシッターがいたらしくて、疑り深い父は、シッターたちをクビにしたわ。

そして、私が20歳になったのもあって、3歳になったノドカと再会したの。

もう、それは嬉しかったわ、ノドカをとても可愛がった。ノドカの父親は最悪の人だったけど、私が唯一心から愛した人の子どもだったから。


父はしばらくの間、黙って応じていたわ。でも、手を打つことにしたの。

脅しってやつね。彼は暴行を受け、瀕死の状態になった。

普通なら、これで諦めるはずだったのだけど。


彼は、数年後、また戻ってきたわ。姿を変えて。

父はその頃もう海外へ行って、ほとんど帰ってこなかったから、私が応対することになったの。

はじめは、彼だとわからなかった。変わり果てた姿だったから。

彼は父からもぎ取ったお金で、整形手術をしたそうよ。

そして、今度はノドカに近づこうとしたの。


ノドカにすべてをバラすと」



整形手術?その言葉を聞いた時、タトゥさんの顔が浮かんだ。シンちゃんやノドカさんの様子を見ると、同じことを考えいるようだった。

タトゥさんの造形が、ツクリモノのような不自然さをみんな感じていたからだ。

「も、もしかして、そのろくでもない父親って、タトゥの人ことなの?」

「ええ、もっと早くに話していれば、こんな事にはならなかったかもしれないわね」


マドカさんの過去が衝撃的過ぎて、なんの言葉もでなかった。

ノドカさんが、マドカさんの娘だったなんて。そして、ノドカさんの父親が、今、瀕死状態でいる、タトゥの人だったなんて。


「今更もう、ママなんて呼べないわ、おねーちゃんは、もう、私のおねーちゃんよ」

「そうね、それでいいわ、私もママなんて呼ばれても、正直困ってしまうもの」

でも、マドカさんはもしかしたら、ママと呼ばれたかったのかもしれない、と、わたしはふと感じるのだった。


「ねぇ、聞いても言い?私のその、父親という人の名前」

「・・・・・、内海 刃(ウツミ ジン)よ、私の愛した人は」


天野 北斗(アマノ ホクト)、内海 刃(ウツミ ジン)、黒崎 陽(クロサキ アキラ)。

そして、與 真心(アタエ シンジ)・・・、この4人が何故、入れ替わることになったのか、この時点ではまだ霧の中だった。


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