第21話 誤解
「ここやで、車はあそこに停めたらええわ」
ヨウちゃんに誘導してもらい、駐車すると、ヨウちゃんとノドカさんの後についてオフィスへ向かった。
「ここは自宅兼オフィスってとこやな」
「このビルの中に、マドカさんの自宅があるの?」
「自宅っていうか別荘っていうか、自宅がようさんあるっていうか」
「へぇぇぇ、またまた、わたしの知らない世界の扉が開かれちゃったわ」
「私の自宅はこことは別よ、車で20分くらいのところにあるわ」
「なんだか、クラクラしてきたわ」
「おんぶしたろか?」
「間にあってます」
「オレがおんぶしようか?」
「シンちゃんまで何を言いだすのよ」
「ヨウちゃん、私はしてほしいわ」
「ノドカちゃん、もうすぐマドカの部屋着くで」
コンコン。
はじめてのマドカさんとのご対面だ。少し緊張した。
「どうぞ」
その声はゆったりとした心地だった。。
「失礼します」
ヨウちゃん、ノドカさん、シンちゃん、わたし、そしてマドカさんが揃った。
ヨウちゃんやシンちゃんから聞いたとおり、容姿端麗、美人、美女、他になんて言えばいいの?
とにかく放っているオーラというか、存在感が圧倒的だった。女のわたしでも見とれてしまうほど。
何故か惹きつけられてしまう。それでいて、どこか人を寄せ付けない感じがした。
「好きなところに掛けて・・・、座ってじっくり話さないといけないから。飲み物を用意するわ、紅茶でいいかしら」
そんな悠長な感じでいいの?でも、ここはあのマンションに負けないくらい、広々としてラグジュアリな空間ね。ペルシャネコとかでてきそう。安易な発想だけど。
「ごめんなさいね、足を運ばせてしまって」
何故かテーブルには、紅茶が6人分用意されていた。
「あなたはもういいわ、しばらく私たちだけになりたいの、外して」
給仕は会釈すると、出て行った。
あの、給仕さんの紅茶でもないのね。人数を間違えたのかしら。
ウェッジウッドの可愛いワイルドストロベリーに注がれた紅茶に、お砂糖とミルクを入れて、ティースプーンでくるくるとかき混ぜる。これ、マドカさんの趣味ではなさそうね。
なんだか、大変なことが起きているっていうのに、こんなにものんびりと寛いでいいのだろうか。
「あなたたちに、紹介したい人がいるの、驚かないでね」
もう、ちょっとやそっとじゃ驚かないわよ、わたし。
でも、誰だろう?もしかして、タトゥの中身の人とか?
部屋の奥のドアが開くと、その人物がこちらへ向かってきた。
「ヨウちゃん!」
一番最初に声をあげたのは、ノドカさんだった。
「え?ヨウちゃんって?この人が?」
「そうね、あなたたちが見えているのは、きっとヨウなのね」
「え?え?マドカさんには違う風に見えてるんですか?」
「残念だけど、私には元の姿のままよ、ヨウも、彼も」
え、残念ってどういう意味なの?
その、ノドカさんがヨウちゃんと叫んだ相手は、ヨウちゃんの本来の姿で現れたのだった。
とにかく、怖い人ではなさそうだった
「はじめまして、ボクは天野 北斗(アマノ ホクト)と申します、みなさんのことは、彼女から聞いています」
そのアマノ ホクト、っていう、ヨウちゃんの姿をした人は、わたしたちにそう自己紹介をし、会釈をすると、6人目の紅茶が置いてあった、マドカさんの隣に腰を下ろした。
ノドカさんは目をパチクリしている。わたしも、もう驚きの連続で、驚くのにそろそろ飽きていたが、
やっぱり驚いてしまうのだった。
「ヨウちゃんって、こんな姿だったんだ」
「どや?俺なかなかイケてるやろ?」
「ヨウちゃんは、カッコイイもの、イケてるに決まってるわ」
「ぜひ、そのセリフをマミちゃんから聞きたいわ、俺」
「え、あぁ、あの・・、うん、なんていうか、イメージ通りだったっていうか」
シンちゃんが癒し系イケメン(わたしにとっての)だとすると、ヨウちゃんは爽やかなイケメンかしら。
とても親しみやすい印象を受けた。
やっぱり、中身と外見ってある程度一致するんだ。わたしの勘はそんなに外れてはいなかった。
「ほんとにタトゥがないのね、ヨウちゃん」
「せやろ?そんなんせんでも、俺、イケてますし」
「うん、やっとヨウちゃんの中身と外見が一致したよ、イケメンなのに、親しみやすいもの」
「やった、マミちゃんが俺のことイケメンやって」
「当然よ、私が彼氏にしてもいいって思ってるんだから」
「あ、シンちゃんはわたし好みのイケメンだからね」
「フォローありがとう、マミ」
良かったよ、タトゥさんが怖そうな人でなくって。人は見かけによらないというのもあるものね。
「揃ったところで、本題に入るわね、いいかしら」
よくよく見てみると、なんだか、アマノ ホクトという人と、タトゥの人の外見に違和感を感じていた。
どちらかと言うと、わたしが見た、あの超絶イケメンのイメージの方が彼の印象に近かったから。
「もう、あまり時間が無いから、単刀直入に話すわ」
みんなは静かにマドカさんの次の言葉を待った。
「あなたたちは、一つ誤解をしているわ」
「え?どういうこと?おねーちゃん」
「ホクトは、その、タトゥが入った彼ではないわ」
「つ、つまり?」
「彼の体は、今、別のところに眠っているわ」
眠っている?別のところ?ホクトさんとタトゥの人とは別人なの?
さっきの違和感は、これだったのね。
「うーん、ようわからんけど、つまりやな、この俺の体の持ち主(タトゥ)は、今、ホクトさんの姿で眠ってるんやな」
「そうよ、今朝、こちらの病院に転院させたわ、鎮静剤で眠ってるの」
「そ、それって、もしかして、わたしがいた病院に搬送されてきた、全身熱傷の呼吸器をつけた患者さんですか?」
「あら、マミさんも知っていたの?彼のこと」
「いえ、わたしが丁度退職した日に、重体の患者さんが搬送されたって同僚に聞いたんです」
「あなたと、そんなところで関わりがあったのね、おもしろいわ」
「でも、全身熱傷やったら、俺、とかシンちゃんと入れ替わった時に、なんで火傷した状態やなかったんやろ」
「それはきっと・・・」
「ボクが説明しますね、マドカ」
マドカさんほどではないけれど、わたしも段々、ホクトさんの本当の姿が見えるような気がした。
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