第19話 ボクの赤と君の赤

「そろそろ来る頃だと思っていました」

「ねぇ、少しお話しましょう、二人きりで」



「その、ヒメタ マミという人物が、この件に大きく関わっていますね」


「ノドカからの情報によれば、変化が見られたのは、彼女の彼に対する視覚による認識の違いが、事の始まりのようね」


「どうやらそのようですね。彼女はこのサークルに参加していたようですが、他の参加者にはそのような変化があったとは報告がありません」


「彼女も特別なのね」


「君とはまた違う能力を持っているようです、自覚はないようですが」

「力は増しているのね?」

「今回の事を踏まえると、そう考えて間違いないでしょう」

「困ったことになったわね」

「君にはボクの本来の姿が、まだ見えているのですね」

「あなただけではないわ、誰の変化も私には見ることができなかったみたい」


「やはり君は特別なのですね」


「彼らに、一度集まってもらうわ」

「話をしたところで、信じてもらえるかどうかはわかりませんが」

「そうね、でも、このまま放っておくわけにはいかなくなったわ」


「前にも申しましたが、ボクが見ているこの 赤色 が 君の見ているこの 赤色 と 同じだとは誰も断言できないのです」


「そうね、誰にもわからないわね・・・、だとしても、同じだと信じていなければ、生きてはゆけないわ」


「君はもう少し楽に生きても良い筈です。全てを背負い込もうとし過ぎています」


「このままでは、君が、君ではなくなってしまいますよ」

「私はもう、あの時すでに、私では無くなったのかもしれないわね」


ボクは君に何をしてあげられるのでしょう。





「ね、とりあえず、朝ごはんにしない?腹が減っては・・・ってね」

簡単なものではあったが、シンちゃんと二人でキッチンに立ち、4人分の朝食を作り始めた。


「なんや、あの二人、新婚さんみたいやなぁ」

「ねぇ、ヨウちゃん、なんでそんな姿になっちゃったの?」

「それ、俺が聞きたいわ」

「ねぇ、ヨウちゃん、なんで電話してくれなかったの?」

「声でバレるかと思ってん」

「そう言えば、あの時、少し声がかすれていたわね」

「バレたか思ったけどな」

「ねぇ、ヨウちゃん、なんでちゃんと話してくれなかったの?」

「それは・・・」


「ヨウちゃん、玉子はスクランブルにする?それとも目玉焼きがいい?」

「え?ああ、そやな、半熟目玉焼きでお願いするわ」

「OK、ノドカさんはどうしますか?」

「私、玉子嫌いなの、ごめんなさい、スープとサラダだけでいいわ」

「ノドカちゃんは好き嫌い多いからなぁ、お婿さんになる人、大変やで」

「ヨウちゃんがなってくれればいいのよ、私の好きなもの知ってるでしょ」

「なんでやねん、嫌やわ、マドカをお義姉さんって呼ばなあかんやん」

「おねーちゃんと恋人同士でもないくせに」

「それはそれ、これはこれや」


「はい、できましたよ~」

シーザーサラダに温泉卵は別に用意して、クルトンを添えて。シンちゃんとわたしがベーコンエッグ、ヨウちゃんには半熟目玉焼きとハムを添えて。スープは市販のコーンスープにパセリをふり、トーストと、バターと、使いきりのハチミツ、ジャム各種。

料理をする必要がないとは思えぬほど、充実した新品の調理器具と食器とカトラリが、すべてキッチンの引き出し収納におさめられていた。

ブレッドナイフ・・・わたしが欲しいと思ってたけど断念した、ウェンガーだったわ。


「ごめんね、コーヒーはインスタントなの」

「いやもう、充分やんこれ、うわ旨そう、ほんならさっそくいただきます」

「いただきます」


4人で手を合わせて、朝食をいただく。

昨日までの生活からは、信じられない変貌ぶり。


「あ、そうだオレンジジュースあるけど、飲む?」

「私、いただくわ、100%よね?」

「うん、濃縮還元とは書いてあるけど」

「いいわ、それで」


「おいおい、ノドカちゃん、ジュースぐらいは自分で取りぃや」

「だって、冷蔵庫があちら側にあるもの」


「ベーコンエッグおいしいね、マミ」

「うん、これくらいは・・・、わたしだってやればできますから」


食事も終わり、コーヒーのお代わりをしながら、いよいよ本題に入った。


「ごめんな、俺も受け入れんのに時間かかってん、それに」

「それに?」


3人ともヨウちゃんの顔をまじまじと見つめる。


「いや、なんていうか」

「オレが入れ替わってたのは、てっきりヨウさんの外見だと思ってたよ」

「わたしも、ヨウちゃんとシンちゃんとが入れ替わってるとばっかり思ってた」

「つまり、もう一人、入れ替わってる人物が存在するわけね?ヨウちゃん」

「そういうことやな、ノドカちゃん。せやからはじめ、シンちゃんの中身がほんまに元に戻ってるんか、不安やってん」

「あぁ、それで黙ってたの?わたしが不安になるといけないから」

「ま、そやな、でも処置室行ったとき、シンちゃんは俺の姿見て、俺やって言うたから、中身シンちゃんなんやって、そこでやっと確信したわ」


「あ!!!だから私、ヨウちゃんとすれ違ったはずなのに、気付かなかったのね」

「そう、ノドカちゃん、全然俺に気ぃつかんかったな」

「当たり前でしょ、全然違うし、タトゥとかありえないし」


「あ、ごめんなさい、わたしはヨウちゃんタトゥとかする人だと思いこんじゃってたわ」

「ヒドイなぁ、俺、どんなイメージやねん、こう見えて、ピアスかって開けてへんで、タバコもやめたし」

「え?いつやめたの?」

「シンちゃんと入れ替わってから」


「もう一人の、マミがいう超絶イケメンって人は、一体誰で、どこにいるんだろう」

「あ、待って、つまり、もともとは、4人が入れ替わってたってことなの?」

「ん?あぁ、そうか、せやな、俺とシンちゃんと、タトゥと、超絶イケメンの4人やな」

「でも、オレは今、元にもどってるから、3人で入れ替わってるということか」

「えええもうやだ、話がわかんなーい、私だけ蚊帳の外じゃない」


「わたしが姿を見たことがあるのは、シンちゃん、超絶さん、そしてタトゥさんでヨウちゃんの姿だけ知らないわ」

「私はヨウちゃん、知ってるもんね、あ、あとシンジさんも、タトゥはどうでもいいわ」

「俺はタトゥとシンちゃん知ってて、超絶は知らんぞ」

「オレはタトゥさんしか知らないな」

「フフ、シンジさんに勝ったわ」


「なんの勝負やねんな」

「わたしだけが、マドカさんを知らないのね、ねぇ、マドカさんは?」

「あ、オレが処置室で会った時、オレのことわかってたみたいだった」

「俺はマドカに会うてへんな、そういえば」

「処置室に運ばれたこと、マドカさんは知ってたから、きっとわかったのかも」

「ああそうか、オレ一人だったしね、処置室で寝てたの」

「じゃぁマドカはシンちゃんと、それから入れ替わってたときのタトゥと、俺は知ってるねんな」


「ということは、超絶イケメンを見たことがあるのって、わたしだけなのね」


「ほんまにおったんかどうかも怪しいけどな」


「えー、わたしが嘘をついてるとでもいうの?」

「ちゃうちゃう、実在するかどうかは、まだわからんってことやん」


「え、実在しない人と入れ替わっちゃうの?」

「そやなくて、今回、マミちゃんがその超絶さん見た時は、他の誰が見ても、シンちゃんのままやったやろ?マミちゃんだけがその超絶さんに見えとったわけやん」

「あ、そっか、声はシンちゃんだったし、写真見せた時のお母さんも、近所の人も、シンちゃん見てもいつもと変わらなかった」

「そういうこと」

「と、とにかく、タトゥさんは実在してそうね」

「多分な」


「あー、もー、何がなんだかわからないわ私、でも、このままだと、ヨウちゃんがこんな彫刻みたいな人のままじゃない、嫌よ私」


「そうね、シンちゃんが戻ったんだから、きっと、ヨウちゃんだって戻ると思う」

「でも、どうやって戻ればいいんだろうね、オレもまた入れ替わってしまう可能性だってあるんだね」

「イヤだもう、せっかくシンちゃんに会えたのに、離れたくない」


「おねーちゃんなら何かわかるかも」

「ああ、せやろな」

「マドカさん、今どこにいるの?」

「そう言えば、朝からお見舞いにいくって出かけたわ」

「お見舞い?」

「そう、何でも意識不明の重体だった人が、意識取り戻したんだって」

「え?」




なんだか、とても胸騒ぎがした。


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