第18話 かくれんぼ

「おはよう、マミ」

「ん、おはよう、シンちゃん」


目が覚めると、隣に、シンちゃんが横たわっていた。


「ぐっすり眠れた?マミ」

「ええ、と~っても、シンちゃんは?」

「オレも、久しぶりに深い眠りだったように思うよ、夢も見てない」

「わたしも、もう眠剤なんかいらないよ」

「そう?良かった、元気になったね、マミ」

「うん、ごめんね、いっぱい心配かけて」

「いや、オレの方こそ、ぜんぜん頼りにならなくって、ごめん」

「ううん、シンちゃんがね、そばにいてくれて、見守ってくれて、ほんとうに、救われたんだよ」

「そっか、それなら良かった」

「あのね、シンちゃん・・・わたし」



コンコンッ!

うう、言いところなのに、ヨウちゃんめぇ。


「はい」

「あ、起きてる?二人とも、朝ごはん買いにいこうと思ってんねんけど、なにがいい?」

ドア越しにヨウちゃんの声がした。

とりあえず、服を整えて、ドアを開ける。

「おはようヨウちゃん」

「おはようマミちゃん、今日もかわいいねぇ」

「・・・・・ありがとう」

「シンちゃんも、なんか食べたいもんあるん?」

「あ、オレですか?朝食、作りましょうか?オレで良ければ」

「っていうても、冷蔵庫の中、飲みもんしかあらへんで」

「じゃぁ、買い物、行こっかシンちゃん」

「え、それって、俺、留守番する感じなん?」

「ヨウちゃんも一緒に行く?」

「いえ、遠慮します、馬に蹴られるのは嫌やわ」


もう、ちょっと蹴られちゃってるぞ、ヨウちゃん。


「あ、マミちゃん、ちゃんと番号覚えてるん?ドアロックの」

「大丈夫よ、ちゃんと覚えたわ」

「メモとったん?」

「うん、手の甲にね」

「それ消えるやろ」

「残像がちゃんと記憶されてるの」

「へぇぇぇ、すごいやん、なんか、かっこいいやん」

「そう?スーパーって近くにあるの?」

「駅前にたしか商店街があったような、そこにスーパーもあったような、俺、スーパー行かへんから、ようわからんわ」

「ま、適当に探してみるよ、ちょっと待っててね」

「俺が飢え死にしてたら、マミちゃん泣いてな」

「それだけの肉体があれば、3日はお水で余裕でしょ」

「マミちゃんって時々ドSやな、そこも好きやで」

「じゃ、ヨウさん、行ってきますね」

「いってきまーす」

「はいはい、いってらっしゃい」

「あ、ヨウちゃん、ちゃんとノドカさんに電話してよ」

「あー努力します」




「マミ」

「ん?」

「ヨウさんて、ずっとあんな感じなの?」

「そうね、シンちゃんだと思って、話しかけたその瞬間から、今までずっとあんな感じだよ」

「ある意味、凄いね、感心するよ」

「でも、おかげで、落ち込んだりする暇はなかったよ」

「そうだね、後でお礼をいわなきゃだね」

「うん、ね、手を繋いでもいい?」


昨日は一度に色んな人と知り合えた。ヨウちゃんに、ノドカさん、それから、まだ顔は合わせていないけれど、マドカさんも。

わたしだけに起こった、あの不思議な現象が、シンちゃんたちにも起きて、それから、わたしたちは助け合いながら、なんとか出会えた。とても不思議な縁だった。

そして、少しだけ知らない世界を垣間見ることもできた。


「ねぇ、シンちゃん、さっきの続きだけど」

「うん、なに?」

「わたしね、シンちゃんが好きだよ、大好き」

「・・・・・、ありがとう、マミ」

「え、ちょっと~、泣いてるの?シンちゃん」

「あ、ごめん、うれしいのと、色々あってホッとしたのが入り混じっちゃってさ、はは」

「ほんと、濃かったね、昨日は、まぁわたしは一昨日からずっとだけど」

「そうだね、オレが突然イケメンになっちゃったんだもんね」

「あ、そうだ、シンちゃんあのね」

「ん?」


「わたしがさ、あの朝見たイケメンなんだけど、ヨウちゃんではなかったの」

「え?どういういこと?」

「ヨウちゃんも確かにイケメンなんだけど、わたしの見たイケメンは別で、しかも腕にタトゥはなかったの」

「っていうことは、ヨウさん以外にもう一人イケメンな人がいて、マミが見たのはそのもう一人の方ってこと?」

「そうなるね」

「でも、そのもう一人も、今は元にもどってるんじゃ?」

「きっとね、その人とは縁がなかったみたいだけど」

「え、また会ってみたいの?」

「んー、シンちゃんに見てもらいたかったの、もうほんと絶世の美男子っていうか、滅多にお目にかかれない超レアな感じだったから」

「そうか、そんなに凄いんだったら、見てみたかったかも、でもヨウさんも、かなりのイケメンだよな」

「そうね、なんだか中身とのギャップが激しすぎる感は否めないんだけどね」

「あ、オレもそう思った」

「わたしはマドカさんに会ってみたかったなぁ、なんかミステリアスな女性っぽい」

「そうだね、オレはずっと緊張しっぱなしで肩が凝っちゃったけど」

「綺麗だった?マドカさん」

「そうだね、どこか冷たい感じが漂うような美人っていうのかな、近寄りがたいというか」

「ふうん」

「なに?その目は」

「ま、マドカさんは特別だからね」

「え?特別?」

「そう、特別だよ、色んな意味で」





「もしもし?ヨウちゃん?私ノドカ、ねぇ、マミさんからちゃんと伝言聞いたの?電話ほしいからって言ったのにー、ね、出てよ、なんで電話出てもくれないし、かけてもくれないのよー、私っ・・・・」


着信履歴がまるでストーカーですよ、ノドカちゃん。


会うと、ややこしいからなぁ、今は会いたくないなぁ、ノドカちゃんには。


あ・・・、ノドカちゃん、勝手に来たな。

暗証番号あのままやったな、そういや。


映ってるで、ノドカちゃんが。インターフォン応対モニタに。


どないしょ、どこに隠れようかな。あ、あそこでええか。


隠れるところはなんぼでもあるからな。その内諦めるやろ。

とりあえず、一番奥にある部屋の、クロゼットの服の裏側に身を隠す。

ええ年して俺、何かくれんぼとかしてんねん。



「ヨウちゃん?いるー?ねぇ、誰もいないの?マミさん、シンジさん、ねぇ、誰か出てきてよ~」


ノドカの声、よう通るわぁ。耳塞いどこ。


うわ、部屋、一個一個探し回ってる感じですかーノドカちゃん。ちょっとホラーやでこれ。



「ただいま、ヨウちゃんお待たせです」

「ただいま帰りましたヨウさん」

「あー、マミさんシンジさんおかえりなさい、ヨウちゃん知らない?どこにもいないのよ」

マミちゃんら、帰ってきたやん。


「ノドカさん、おはようございます、ヨウちゃん、電話くれなかったんですか?」

「うん、何回かけてもすぐ留守電になるの、もちろんかけてこなかったわよ」

「ごめんなさい、ちゃんと伝えたんですけど」

「もう、絶対って言ったのにー」

いやいやいや、ノドカちゃん、マミちゃんは悪くない、悪いの俺やん、ゴメンやで、マミちゃん。


「もう一度、電話を鳴らしてみては?」

「あ、そうね、かけてみるわ」

あ、しもた、マナーモードにしてへんし、こんな時に限って、電話持ってもうてるやんか俺。

電源オフが間に合わん。

「あ!あの奥の部屋で音がする!」

うわ、俺のケツで鳴ってるやん、絶体絶命やん。


「見つけたわよ、ヨウちゃん出てきなさい」

ああ、とうとうお縄やな、俺島流しやな。


クロゼットの扉が開かれ、ノドカが服をかき分け、みつかってしもた。


「きゃああああああああ!!!!!」

ノドカちゃん、声高いわ。まぁ驚くのも無理ないけどな。


「どうしたの?ノドカさん、大丈夫」


「こ、こ、こ、この人、だ、だれ?」


「え?ヨウちゃんでしょ」


「ちがうわよ、ヨウちゃんじゃないわよ、こんな人、私見たこともないわ」



「ええええ!!」



あーあ、とうとうバレてもうたか。




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