第15話 再回転
「なにかしら、急ぎの用件って」
「それが、どうやら意識が戻ったとの報告がありまして」
「そう、それで?」
「今のところ、まだ、身動きはとれないそうです、もちろん話すことも」
「近いうちに、お見舞いにいきましょう」
「かしこまりました、いつでも申し付けください」
そう簡単には、人って死ねないのね。
死ねないほど、あなたがこの世に執着しているものって、一体何?
「此処でいいわ、下ろして」
「わかりました、キーは例の場所へ戻しておきますので」
「ありがとう、御苦労さま」
「ねぇねぇ、サトミの病棟にいるあの人、どうなったの?」
「え?ああ、あの呼吸器の患者さん?」
「うん、まだ意識もどらないの?」
「それがねぇ、今日、瞬きしたんだって、先輩たちが騒いでた、私は明けだったから、まだ見てないけど」
「身元はわかったんでしょ?」
「うん、全身熱傷で、包帯保護されてて、所持品もみあたらなくて、なかなかわからなかったんだけど」
「へぇ・・・、焼身自殺?」
「うーん、警察とか色々調べに来てたけど、なんか事件に巻き込まれたっぽいよ」
「うっそ~、やだ、こわい」
「私が見た時はさ、よくわからなかったんだけど、先輩がいうには、腕に刺青があったって~」
「え~、そっちの人なのかな?」
「さ~、刺青してるからってそっち系とは限らないじゃん」
「ま、そうだけど」
「あ、さっきマミに電話したらさ、元気そうだったよ、あいつがクビになったこと報告したの」
「そうなんだ、なんか言ってた?」
「うーん・・・、そうなんだーって、あんまり動じてなかったかな」
「もう吹っ切れたのね、良かった、彼氏と上手くいってるの?」
「多分ね~、あ~私も早く彼氏みつけて、この寮を出て行きたーい」
「あ、ずるい、出る時は一緒よ~」
「そうね、じゃーもっかいカンパーイ」
「ね、今度マミも誘ってご飯食べにいこっか」
「そうね~」
「あの駅やったら、俺知ってるし運転するわ」
「じゃぁ、はい、カギ」
「クルクルした方が、ええか?」
「お願いだから、急いで」
「私も同行するわ、あなた、後ろでいいでしょ、助手席には私が乗るから」
彼女に促され、後部座席へ移動した。
「ノドカちゃん、もうちょっとマミちゃんに優しいしたってや」
「あら、電話をかけてあげたじゃない、それで十分でしょ」
「はいはい、ほんならシートベルトしといてや、飛ばす・・・・・・う・・・ぁあ、い、痛て・・・くっ」
「ヨウちゃん?どうしたの?ねぇ、ヨウちゃんしっかりして!」
ヨウちゃんが頭を抱えて苦しみ出したかと思うと、意識を失ってしまった。
こんな時に、こんなタイミングで、どうして?
どうしよう、シンちゃんが待ってるのに・・・・。
やっと、やっとだ。
やっとマミの元へ帰れる。
そういえば、マミの顔を見たのって、昼前だったな。
もう随分とマミに会えていない気がした。
駅に着いたオレは、ロータリーが見渡せるところを探すと、その近くのベンチに腰を下ろした。
あのマンションから、マドカさんを送り届けた店までは、車で15~20分ぐらいだったように思う。
その店からこの駅はそう離れてはいない。
この時間なら、道は空いているだろうし、遅くとも30分あれば着くはずだ。
駅にある時計はもう0時になろうとしていた。
しまった、こちらから連絡が取れるようにこの携帯の暗証番号を聞いておくんだった。
今は、この携帯だけが、オレとマミとを繋ぐ、命綱のようなものに思えた。
「う・・・、なんだ、これ・・・・、目が回る・・・」
携帯の画面がうずを巻くようにぐるぐるとまわりだした。
「マ・・・・ミ・・・・・・・・・」
意識が遠のいていく中、オレは夢中でマミの名前を呼んだ。
「救急車を呼ぶわ」
119をコールしようとバッグから携帯をとりだした。
携帯のベルが鳴りだした。
どうやらわたしの携帯ではなく、ノドカさんのだった。
「あ、おねーちゃんからだ!」
マドカさんから?こんな時になんだろう。
わたしは構わず、119をコールする。
その手をノドカさんが止めた。
「おねーちゃんが今からこっちに来るって」
「そ、それが何?ヨウちゃんを病院に・・・、早く病院に連れていかないと」
「大丈夫、おねーちゃんが病院に連れて行くって」
「え?ど、どういうこと?」
数分も経たないうちに、マドカさんの部下であろう、男性が2人、手際良く車中から、ヨウちゃんを運び出し、搬送していった。
中身はヨウちゃんだけど、身体はシンちゃんでもあるんだから丁寧に扱ってほしい。
「大丈夫、全部おねーちゃんに任せておけばいいのよ」
とりあえず、ヨウちゃんはよしとして、シンちゃんがまだだ。
「ねぇ、ノドカさん、わたし、これからシンちゃんを駅に迎えにいきたいの」
「いいわよ、おねーちゃんは近くまで来てるから、私はここで合流して、おねーちゃんと病院に行くわ」
「ありがとう」
駅名をナビの目的地にセットする。
「ね、マミさん・・・」
「はい?」
「さっきはごめんなさいね、気をつけてね」
「こちらこそ、色々とごめんなさい、ありがとうございます、じゃ、行きますね」
シンちゃんが待つ駅へ向かって車を走らせた。
ダッシュして少しでも早くつくのなら、いくらでもダッシュができそうだった。
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