第14話 俺、俺オレ

「あら・・・・、ヨウちゃんは?」

「えっ、あ、その、すみません、お邪魔しています、わたしは・・・」

「いいから、ヨウちゃんどこにいるか教えてよ」

「あ、ごめんなさい、今シャワーを浴びて・・・」


そう話している途中で、その人はバスルームの方へ行ってしまった。


あの人が、マドカさん?

なんだか想像していた人とはちがう。


はっ!今のヨウちゃんは、シンちゃんだったんだ!どうしよう


自分も慌ててバスルームへ向かったが、時すでに遅し。


「ちょっと!あなた誰よ!」


うわぁもう、修羅場なの?これ修羅場になっちゃうの?三角関係のもつれとかになっちゃう?

いや、ちがうよね、四角関係?って、どうしよう、もう、し、知らないっ。



「あ、ノドカちゃん、いらっしゃい」


え?マドカさんじゃないの?その人。っていうかやっぱりそうよね、思ってた人となんか違うもの。


「は?私のこと、気安く呼ばないで、ヨウちゃんの部屋で何してるのよ、ヨウちゃんはどこ?」


「いや、ノドカちゃん落ちついてえな、俺、俺俺、俺がヨウちゃんやってば」


「なに言ってんの?ふざけないでよ、どこからどうみたってあなた、ヨウちゃんじゃないわよ」


「ほんならええんか?俺しかしらへん、あのこと、今ここで言うで」


「な、なによ、あの事って、人をからかうのもいい加減に・・」


「ねーさんの、マドカにもまだ言うてへんかったのになぁ、こないだ約束したからなぁ俺」

何やら、二人にしかわからない暗号のような会話をしている。

「えっ・・・、ちょ、ちょっと待って、え、信じらんない、ウソでしょ、だって、なんで?えーやだ、なにこれ」


「いや、だからノドカちゃん、まぁ落ちつきいや、もう俺上がるから、ソファーで待っといて、事情説明させてや、服着るから、な」

傍観者だったわたしのところに、その、ノドカさんという人が戻ってきた。

「ごめんごめん忘れてた、もう一人おったわ、ここに入れる人物が」

マドカさんの妹だったのね。マドカさんではなくて少しホッとしたわたしがいた。

いろんな意味で。


「ちゃんと説明してよね、私が納得いくように」


「まぁ待ってやノドカちゃん」


「俺、こんな姿してるけど、正真正銘、黒崎 陽(あきら)、ヨウちゃんやで」

「・・・・・・」

「あ、わたしは、姫田 真実(ヒメタ マミ)といいます」

「へぇ、マミちゃんの名字、ヒメタっていうんや、かわいいな」

「・・・・・」

そして、事情をかいつまんで話しはじめた。


「ふーん、おねーちゃんがヨウちゃんの様子を見てきてって言うから来てみたら、そういうこと?」

「え、マドカがノドカちゃんをよこしたん?」

「そうだよ、暗証番号変えられちゃってから、ここに入れなかったけど、さっきそう言われて新しいの教えてもらったのよ、運が良ければ、おもしろいものが見られるかも、とも言ってたわ」


「マドカらしいなぁ」

「でも、ほんとにほんとにヨウちゃんなの?まだ信じらんない!」

「正直いうて、俺かってまだ信じられへんかって、鏡、何度も見たけど、どうやらホンマみたいやで」

「で、これからどうするの?その、本物のシンちゃんって人はどこ?」

「マドカと一緒ちゃうんか?」

「そんなの聞いてないよ、だって、ただ様子見てくるようにだけ言われたんだもの」


「あ、ノドカちゃん、俺の携帯番号登録してへん?」

「こっそり登録してたけど、おねーちゃんに消されちゃったよ」

「そういうところは徹底してるよな、マドカ」

「ふふふ、でも私、番号暗記してるもんねーだ」

「え、まじか!やるやんノドカちゃん、ほな、さっそく教えて、シンちゃんに連絡取りたいねん」

「どうしよっかなぁ、別に私、関係ないし」

「なんでやねん、俺の体さんが今どうにかなっとったらどうすんねん」

「あの、お願いしますノドカさん、どうしても彼と、シンちゃんと連絡がとりたいんです」

わたしは頭を下げ、懇願した。

「ま、いいけど~、ヨウちゃん次第ってとこかな」

「え、俺?」

「うん、今度私とデートしてよ、おねーちゃんにはナイショで」

「なんや別にええで、そんなんやったらいつでも」

「でもおねーちゃんにバレたら、ただじゃ済まないかもよ?」

「それは、俺だけちゃうやろ、ノドカちゃんかっていくら妹でも、しばかれるで」

「なんで、他の女の人はOKで私はNGなのよ、おかしいじゃない!」

「それは、妹やから、ノドカちゃんの身を案じて・・・」

「私が良いっていってるんだから、いいじゃない」


しばらく二人を傍観していたが、思い切って割って入った。

「あの、お願いします、今、こうしている間も、シンちゃんが無事なのかさえわからないんです、番号、教えてもらえませんか?」


「いいけどー、あなたの携帯にヨウちゃんの番号履歴が残るのはいやだから、私の携帯からかけるわ、それでいいでしょ?」

「ありがとうございます、ノドカさん」


「おいおい、ノドカちゃんもたいがいやなぁ」


とにかく、これでシンちゃんと繋がる、連絡が取れる。もうそれだけで今は良かった。


最後に会ったのは、今朝の出来ごとだったのに、もう随分とシンちゃんに会えていない気がした。




公園のベンチに腰掛け、これからどうしようか考えあぐねていた。

そういえば、マドカさんの名前、たしかドウガミって。

ドウガミ マドカ。

フルネームがわかったところで、マンションの在処がわかるはずもなく。


駅の名前も聞いたことない名前だったしなぁ。


ここはどこ?オレはだれ?

「マミ・・・、いったいどこにいるんだろう」

交番に行って、ここがどこなのかを尋ねてもいいのだが、職務質問なんかされたりしたら、ややこしそうだしなぁ。


月は雲に隠れていて、闇の中に先ほどの電話ボックスの灯りが、遠くぼんやりと浮かんでいた。

まるで、オレの存在を知っているのが、世界中どこを探しても、オレしかいないような錯覚に陥った。


携帯のベルに体が跳ねる。

あわてて、携帯の画面をみると、知らない電話番号だった。


一瞬躊躇したが、もしかしたらマミかもしれないと望みをかけ、応答した。


「もしもし?あなた、誰?」

聞き覚えのない声だ、しかも、かけてきておいて、誰って。

「あ、もしもし、あの、この携帯の持ち主とは違うんですけど、オレ」

「誰って聞いてるの、答えて!」

な、なんなんだ、一体。

そう思ったが、答えるしかなかった。

「はい、與 真心(アタエ シンジ)といいます」


「・・・・・、ちょっと待って、今、替わるから」

わけがわからないまま、相手が替わるのを待った。


「シ、シンちゃん?無事なの?わたし、マミだよ、今どこにいるの?」

「マ、マミ?ほんとうにマミなの?信じられないよ、やった、やっと繋がった」

「無事なのね、良かった、今どこにいるかわかる?」

「あ、うん、それが、よくわからないんだ、ここはどこかの公園らしいんだけど」

「わたしは大丈夫だからね、で、迎えにいくから、どこか近くに目印になるものはないの?」

「あ、近くに駅があるよ、えっと確か」

駅名を告げると、すぐに迎えにいくから待つようにと言われ、オレは駅に戻って行った。

月が雲から顔を出し、駅まで導くように、やさしく照らしていた。


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