第8話 ここはどこ?オレはだれ?

しまった、かなり寝ちゃったよ、もう夕飯の時間?そろそろ支度しないとだ。

あれ?いつのまにオレ、ベッドで寝て・・・!!??


うつ伏せになっていた。目が上手く開かないので、手でベッドの感触を確認するが、いつもと違う。


自分の腕を見て驚いた。身に覚えがないタトゥが入っている。

どうなってるんだ?オレの体に何が?ていうかオレの体じゃないよねこれ。


鎧を纏ったような感覚で、重い体を懸命に起こした。


ふと外を見ると、窓ガラスに人が映っている。ここにオレしかいないのに、オレではない誰かがそこに映っていた。

その誰かを確かめるように窓に近づく。


窓に手を合わせると、その誰かもオレの手にぴったりと合わせてきた。


「これ・・・・、オレ?」声に違和感があったがそれどころではなかった。


ふと、昨日マミが言った言葉を思い出した。

『シンちゃん、整形した?だってイケメンすぎる』


そう、そこには男のオレから見ても『イケメンすぎる』姿が映っていた。

手で、自分の顔の造形を確かめる。いつもとはまるで違う、別人の顔だ。

まるで、本当に整形手術を施したような、非のうちどころのない造形だった。

というか、これもう肉体改造じゃん。


ソファーで眠る前までは、とくに何も変わったところはなかったはずだ。

でも、待てよ・・・。

マミのオレを見る目があきらか違ったのは、もしかしたらこういうことだったのでは?

それなら、マミの昨日の言動が納得できるし。ただ、昨日はマミにしかこの姿が認識できなかったわけだ。だから、マミはオレに話せなかったのか。






部屋をノックする音がした。


オレは一瞬戸惑った。

おそらくこの人物の住居であることは間違いないだろう。

話さないようにするのが賢明だが、できるかどうかは自信がなかった。


「入るわよ」

オレの姿をとらえた、その女性の動きが一時停止した。


あれ?やっぱりオレってバレちゃってる?やっぱ、マミとオレにしかこの容姿に見えないのか?


「メールも電話も反応ないと思ったら・・・、そういうことね。ヨウらしいわ。まぁいいわ、とにかく支度して、ちゃんと髭は剃って。キーはジャケットのポケットに入ってるわ。玄関まで車をまわしておいて、ジャスト20時よ。」


それだけ告げると、その女性は部屋を出て行った。

どうやら、この場は上手く誤魔化せたようだ。


暗くてあまり良く見えなかったが、彼女の印象は、容姿端麗。

だがどこか血の通っていない、無機質さも帯びていた。


ヨウっていうのか、このイケメン。

言われてみれば、ものすごい髭が伸びてる。髪もぼさぼさ。せっかくのイケメンが台無しだよな。

車をまわしておいてって、オレは運転手か何かなのか?


時計がないのでそばにあった携帯を見る。19時を回ったところだった。


トイレを探して、用を足し、洗面所をみつけ、髭を剃り、顔を洗った。


窓から夜景が見渡せるほどの高さ。高級マンションなのか?

ワンフロアだが、充分な広さで、一人暮らしをするには広すぎるし、4人暮らしでもまだ部屋が余っていそうだった。


吊るされていたジャケットに袖を通し、ポケットの中のキーをとりだした。

これって、スマートキー?

そういえば、ここのマンションのカギって。まさかオートロックとか?

オートロックだとしても、マンションの中に入るには、カギが必要なのでは?


ドアを開け、外側のカギをみると、ナンバーキーと、指紋認証キーがついていた。

マンションになんて住んだことがないから、よくわからなかった。

オレ、この部屋に帰れる自信がないぞ。暗証番号なんて見当もつかないし。ま、いいか。

とにかく、さっきの女性に事情をなんとか説明して、マミのところへ帰らねば。


もし、オレの身に起こっていることが現実ならば、今、マミのそばにいるのは、オレの姿をした別人なのだ。

特に、こんなイケメンだったヤツだ。

マミが心配で、電話をしようにも、携帯の指紋認証はどの指でも解除できなかった。

もちろん、暗証番号などわかるはずもなかった。このマンションに、電話は見当たらなかった。

あとで公衆電話から家にかけることにした。




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