第7話 【自分が見ているこの赤色が君の見ているこの赤色と同じとは限らない】
「おはよう、シンちゃん」
「・・・・・おはよう、って、君・・・・・、だれ?」
俺の声はこんな声やったっけ?この女は誰や?ここは女の部屋なんか?
自分の手が少しちゃうな、どうなってんねん?
頭、痛あぁ。顔に触れた手の感覚がおかしい、俺の顔ってこんなんやったっけ?
体が、泥の底に沈んだように重い。起き上がれん。
「・・って、ここは?どこ?俺・・・・・は、だれ?」
「シンちゃん?寝ぼけてるの?なんか、ちょっと関西弁ちっくだよ」
シンちゃんって誰や。俺のことか?俺、いつのまにかシンちゃんになってもうたんか。
変な夢やなぁ、勘弁してやぁもう。
「ねぇ、もしかして、シンちゃん。痛み止めと、眠剤、間違えて飲んだ?」
「は?」
俺、クスリはやってへんで、ってそのクスリちゃうんか。でも、酒は浴びるほど飲んだな。
あ、変なカクテル飲んだけど。かなり寝てたんかな、俺。
「ちょっと、起きられへんし。俺、これ、夢か?」
「・・・・・シンちゃん?もう、変な冗談とかやめてよ~怖いでしょー」
「あ、ごめんごめん。夢やから許して」
「やっぱり、シンちゃん眠剤飲んで意識がおかしくなっちゃった?お水、飲む?持ってきてあげるちょっと待って」
今のところ動くんは、上肢と首から上くらいか。まいったなぁ。
どんだけ寝てたんやろ、今日、何日なんやろ。てか、まぁ普段から曜日なんて覚えてへんけどな。
寝がえりうってみよ。
お、なんとか動いた。起きれるかな、俺。鏡見たいわ。
動き出したら、血がまわってきたんか、なんとか起きれた。
「うわあああああああああ!!!!」
「誰や!?俺か?いや、俺とちゃうやん?!」
鏡の中に知らんやつがおる。誰やねんこれ。
夢にしてもおかしいわ、腰抜かしてもたわ。
「シンちゃん!どうしたの?なんかあったの?」
「み、み、水くれ」
その子の手から、ペットボトルの水を受け取って、一気飲みした。
「ふー。なんやろ、ちょっと落ちついたわ」
「す、すごい飲みっぷりだね・・・シンちゃん、大丈夫?」
あー、めっちゃ心配されてるやん、俺。
「いや、なんかね、俺。俺とちゃうみたいやわ」
「う、うん。そうね、シンちゃんはそんなに関西弁上手じゃないもの」
「あ、俺。シンちゃんとちゃうで、ヨウちゃんやで」
「えっ?」
「これ、夢やろ?俺、今シンちゃんってやつになってんねやろ?でも、ほんまはヨウちゃんやで」
「ねぇ・・・本当に大丈夫なの?頭の打ちどころ、悪かったの?病院行く?今日は金曜日だから、夜診やってると思う」
夢ってまどろっこしいなぁ。明晰夢って、自分の思い通りになるヤツとちゃうかったっけ?
金曜日?俺、ほぼマル二日か三日は眠ってたんか?
てか、今も寝てる・・・はず。ちょっと、不安になってきた。
「病院って、たいそな。別に頭打った覚えないしな」
「えー、昨日打ったって言ってたじゃん、メモにも書いてたよ、ほら」
くっしゃくしゃになったメモには、知らん文字でそんなことが書かれとった。
この子、マミって言うんか。
「マミちゃん?」
「へっ?な、なんでちゃんづけなのよ」
「いやぁ、やっぱりマミちゃんでおうてた」
「もう、やっぱりなんか変~、ねぇ、もう冗談やめようよ~笑えないからさ」
「やっぱり変か、そうか。俺もそう思う」
「うん」
「タバコってないん?あったら恵んでや」
「・・・・・・、シンちゃんってタバコなんか吸ったことないでしょ、何言ってんの?ちょっと、ねぇ、やっぱり病院に・・・」
「俺、やっぱ、変なん?」
「うん、なんだか、シンちゃんじゃないみたい、っていうか別人みたいだよ。見た目はシンちゃんだけど」
「だから、俺はヨウちゃんやってば」
「ヨウちゃん?」
「そ、黒崎 陽(あきら)、太陽の陽って書いて、あきら。みんなはヨウちゃんとか、ヨウって呼ぶねん」
あ、しもた、マミちゃんが固まってるやん。
「って、冗談やって~そこつっこむとこやって~」
「いや、今の話。本当なの?本当なのね、あのね、シン・・・あ、ヨウさん」
「ヨウ、でいいで」
「呼び捨ては~さすがに・・・、ヨウちゃんって呼びますね?」
「ま、好きに呼んで。これが夢ちゃうかったら、冗談抜きで奇妙なことが起こってんな」
「うん、わたしも実は、今朝まで変な現象に悩まされてたの」
マミちゃんは、俺にわかるように、丁寧に、一部始終を説明してくれた。
朝起きたら、そのシンちゃんという彼氏がめちゃめちゃイケメンやったってこと。
眠剤飲んだこと。如何わしいサークルで変わったジュースを飲まされたこと。
脳の検査までしたけど、別に異常がなかったこと。その現象は自分以外では起きていなかったこと。
そして、さっき元に戻ったと思たら、俺が出てきたってこと。
俺も、でき得る限りの記憶を遡ってみた。
たしか、マドカと酒飲んで、カラオケ行って、また飲んで。最後はなんやクラブかなんかに連れていかれて、ほんで変なカクテル一気飲みして。
そっから記憶ないな。
「俺、脳の検査、うけといた方がええかな?」
「うーん。まだ、頭は痛むの?」
「ちょっと、マシかな?あ、仕事とかいけるん?」
「あ、わたし?わたしは仕事、辞めちゃった。シンちゃんは今日休みで、土日も休みだから、月曜日まではなんとか」
「ふーん。マミちゃんは仕事辞めたんや、結婚するん?」
「んー、結婚は関係ないかな、ちょっと人間不信になっちゃって」
「あ、俺、マドカに連絡せんでいいやろか。って、電話番号覚えてへんわ」
「マドカさんって、彼女?そっか、見た目がヨウちゃんだけど、もしかしたら中身がシンちゃんと入れ替わってるかもしれない人は、あっちにいるかもね」
「彼女っていうか・・・」
「ヨウちゃんはお仕事、何してる人?」
「いや、俺、フリーター・・・、っていうか、マドカに養ってもらってんねん。時々、モデルみたいなんやらされるけどな」
「えっ、それってヒモ?マドカさんパト・・・いや、なんでもないです」
「それ、お茶を濁すところ、間違ってるやんか(笑)」
「あ、ごめんなさい・・・つい。見た目がシンちゃんだから」
「ええよ別に、マミちゃんおもろいし。まぁ、なるようにしかならんな」
「なんか余裕ですねぇ・・・って、シンちゃんとヨウちゃんが入れ替わってるんだったら、今ごろ、シンちゃん、イケメンになっちゃってるの?」
「え?イケメン?」
「そう、だって、ヨウちゃんイケメンですよね?」
「俺?イケメンなんかな?まー、そう言われてみれば、女に不自由したことはあらへんな、とか言うてみたり」
「やっぱり・・・。その余裕はイケメンからくるのね」
「シンちゃんも、イケてるやんか、なかなか」
「うん、わたし好みの顔ではある」
「うっわ、ごちそーさま」
「ヨウちゃんは、元イケメンなのに、なんだか話しやすいね。今は見た目がシンちゃんだからかな?」
「そうなん?昨日は話しにくかったん?」
「うん、もうね、見てるだけで精一杯、ていうか、見てるのも精一杯だったよ」
「ふーん。で、エッチしたん?」
「は、はあぁぁぁぁぁ?!、す、するわけないじゃん!何言ってんのよもう!だって、シンちゃんじゃないもん。」
「でも、中身はシンちゃんやったんやろ?ほんでイケメンやったら別にいいやん」
「いや、良くない良くない!」
「ほんなら、俺とエッチする?」
「な、な、な、なんでそうなるのよ、ヨウちゃんはシンちゃんじゃないでしょ!」
「でも、ほら、見た目シンちゃんやで、俺」
「中身がちがーう!」
「どっちやったらええねんな」
「どっちもシンちゃんじゃないとダメなのー」
「ははは(笑)そんな本気で怒らんでもええやん、冗談やん、マミちゃんすぐ本気になるねんな、おもろいわー」
「ていうか、シンちゃんが段々心配になってきたよ、ヨウちゃん」
「そらそやな、もし、目ぇ覚ましとったら、腰抜かしてるやろな、俺みたいに」
「ヨウちゃん、自分の携帯の番号は覚えてないの?わたしの携帯からかければ、シンちゃんと連絡がとれるかも!」
「お、頭ええなぁ、マミちゃん、でも、残念ながら、自分の携帯番号すら覚えてへんわ」
「そうね、自分にかけることなんて、ほぼないもんね」
「マミちゃんのためやったら、記憶たどってなんとか思い出したいのはヤマヤマなんやけどな、普段から不携帯な俺やからなぁ皆無やわ、お役に立てず」
「ねぇ、ヨウちゃん・・・・、お願いがあるんだけど・・・・」
「運転はできるの?ヨウちゃん」
「あ、ナビがあればいけるかな」
「じゃ、はいこれ、カギ」
「よう見ず知らずのヤツに運転を任せられるなぁ」
「カギ・・・、クルクルしないのね」
「へ?」
「ううん、なんでもない、急ぎましょ、なんだか嫌な予感がするの」
「あらぁ、またそろってお出かけ?仲がいいわねぇ」
「えーもーそら、ラブラブですわ」
『ちょ、ちょっとぉ~肩組まないでよ~もう』
「ええやんべつに、俺、今はシンちゃんなんやし」
「もう、シンちゃんで遊ばないでくれる?」
ほんま、ええ子やなぁ、マミちゃん。
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