SS2

「まだあの子」

「はい」

「……」


 医者と看護婦の会話が、病室の外から丸聞こえだよ。

 病室の静寂せいじゃくで、僕は病室のベッドで、窓の外からは平和過ぎる日常な風景を眺めていた。


(父さん……母さん……)


 僕の大事な両親は、もうこの世にはいないんだ。


(どうして……死んじゃったんだ)


 僕の大事な両親は死んでしまった。数日前、オオウチ家の長寿である当主の生誕パーティーの最中に、悲劇が起こった。

 それに僕が目にしたのは……


(どうして、僕の両親を殺したんだよ……ハルタ)


 子供以外、大人である親族ら全員を殺害したのは、僕の義理の弟……ハルタだった。

 ハルタは、父が養護施設引き取った養子で、実の弟と思っていた。

 そんなある日、ハルタが事件を起こしてしまい、屋敷の離れにある蔵に閉じ込められ、反省するまで出さないと、使用人らに罰を与えられてしまう。

 でも、僕はハルタがやっていないと信じなかった。しかし、誰も聞いてくれなかった。


(ハルタ……なんでだよ!)


 親族らを襲い掛かり、頭部や胴体どうたいなどの身体中を切り刻み、悲鳴を上げる中で、逃げ惑う人達。しかし、誰もハルタから逃れなかった。

 一人……また一人……誰もハルタには逃れなかった。


(生き残ったのは……どうして子供だけなんだ?)


 ところが、僕以外にも生存者がいた。それは最年少などの少年少女……親族の子供だけが殺さなかった。実の親が殺され、泣き叫ぶ子供を何度も見た。


(それに……おでこの傷も)


 鏡の前で自分の顔を見る。おでこに切り傷のあとが残っている。これは……ハルタに斬られた傷だ。

 ハルタは、残酷な表情で、刀で僕のおでこ辺りに斬られた。

 出血する中で、あの時の激痛を受けて、僕はあの後に気を失った。


(どうしてだよ……ハルタ……)


 あんなに優しかった弟のハルタが、どうして家族を殺して、残酷な性格になってしまったんだ。どういう訳がわからない。


(あのソーラー・グラスが原因かも)


 僕は、あの事件の記憶をフラッシュバックのように思い出す。

 ハルタの顔には、黒いソーラー・グラス掛けているのを思い出す。あれは事件が起きる前日、僕はハルタと一緒に、蔵の物置で遊んでいると、ハルタが箱を見つけたら、それを開けると、中にはソーラー・グラスが入っていた。

 ハルタが勝手に、ソーラー・グラスを掛けた原因で、謎の閃光せんこうが放って、ハルタはそれが原因で暴走してしまい、駆けつけた母に見つかり、ソーラー・グラスを無理に外して、ハルタには怪我はなかった。


(みんな……何処へ行ったんだ)


 あの悲惨な場面から、難を逃れて生き残った子供たちは、消防隊に救助されて一命を取り留めた。病院施設で入院し、僕が昏睡こんすい状態の最中に、親族である子供達が別々に引き取られてしまい、それを聞いたのは目覚めた直後、連絡が分からず音信不通となった。


「畜生……畜生……」


 目がぼやけるようにかすむ、目に涙が出て来た。すすり泣くように僕は悲しんだ。大切な人を奪われた気持ち、裏切られた気持ち、苦しい気持ち、寂しい気持ち、こんなに辛い現実で、どう生きればいいんだ。


(何もかも……失った)


 再び窓を眺めようとしたところ、病室の自動ドアが開いた。


「おっ! 起きてるじゃないか」


 病室に入室して来たのは、背の高い女性だった。


「誰ですか!」

「誰って……言われても」

「看護婦呼びますよ!」

「待てって! 落ち着けよ!」


 彼女は慌てて手を振る。髪の色は緑で、褐色肌をしている。このお姉さんはジュピター星人だ。

 それに顔は、エメラルドな瞳をしていて、桃色のくちびるをして、胸が大きく、ナイスバディな体格をした美人な女性だ。

 服装は黒い革ジャンに、半ズボンを履いていて、黒いブーツを履いている。

 どうして美人なお姉さんが病室に入って来たんだ。関係者以外は立ち入り禁止なのに。


「お前の親の友人だ」

「友人?」

「つまり、お前の両親のダチだ」

「お父さんとお母さんの?」


 死んだ両親の友達がいたんだ。でも、僕はこの人を会っていないのに、初顔合わせだろう。

 親にも話していないのに、


「あんたがアイツの息子か、母親に似ているな」

「よく言われました」

「だろうね」


 女の人の言う通り、僕はよくお母さんと同じ顔に似ていて、その白髪と赤毛の少年の顔を見ると、昔馴染みの子供の頃を思い出す。さすがアイツの遺伝子が繋がれている。


「あなたは誰ですか?」

「アタシはお前を引き取りに来たんだ」

「え……?」


 僕の引き取り主って、今いるこの美人なお姉さんなのか、それに年齢が違うのに、彼女は一人じゃないか。


「一人ですか?」

「そうわよ」

「家族は?」

「だいぶ前に亡くなった」


 しかも、家族は彼女だけだし、でも、一時警戒しなければならない。


「まさか……僕を売り飛ばす気だね」

「そんな訳ないだろう! どうして私を不審者呼ばわりするんだ!?」

「お母さんが知らない人に気を付けろと言われたから」


 死んだ母から聞いた。〝知らない人に付いて行っちゃ駄目〟と注意してくれた。


「凄いね君、お利口さんだね。でも……もう死んじゃったんだね」

「うん」


 もしも、僕の親代わりの引き取り人の振りをして、臓器や人身売買するブローカーだと思い、彼女は本当に怪しい不審じゃなくてよかった。とんだ勘違いをしてしまった。


「どうして僕を引き取りに来たの?」

「お前が心配だからさ」

「何故……心配するの?」

「昔馴染みに似てるから?」

「お父さんの事?」

「それもそうね、お母さんの出身は違うの?」

「うん」


 僕のお父さんはアリス星人、お母さんはプルート星人の間で生まれたハーフ。

 この髪の色が分けられているのは、ハーフと印されている。

 前髪から少し風に揺れ、おでこが見えて、アタシはそれを目にしてしまう。鋭い刃物で斬られたような切り傷のあとを目にしてしまった。


「へえ……おでこに切り傷の痕が残っているよな……相当そうとうやられたな」

「これは僕の治らない汚点だ……」


 その少年は慌てておでこを隠す。


「ところで坊や……」

「坊やじゃなくてヨシノ、名前で呼んで」


 坊や呼ばわりされるのが嫌で、僕は彼女に向けて名前を言った。


「わかったヨシノ」

「お姉さんの名前は?」

「それは秘密」

「ずるい」


 彼女の名前を気になって話した僕は、そのお姉さんはケチのように教えてもらえなかった。名前を言うのが嫌なのか。


「今日からお前の親代わりだ。頭脳ずのうと身体を強く立派に育ててあげるから、感謝しなさい」

「頭脳……身体?」


 何をするつもりだこのお姉さん。僕をモルモットにして実験台にするつもりか。


「人間は生きなければならない」

「訳わからない」


 強く生きるという言葉が意味わからない。彼女は黒ジャンのポケットからケースを取り出した。

 ケースを開けて取り出したのは、ディアドロップメタルフレームのサングラスだ。彼女はそれを掛けた。


「なんでサングラスを掛けるの……」

「いいじゃないか……これはタダのサングラスじゃないわ! これは……ソーラー・グラス、いわゆる眼鏡型端末兵器だ」

「ソーラー・グラス?」

「あちゃー、子供には分からないのか? 失敗失敗」


 ちょっと面白そうな顔が憎い。なんだか腹立つ。


「そんなに怒るなよ!?」

「じゃあ……名前を教えて!」


 僕は絶対にお姉さんの名前を諦めなかった。


「わかったよ。名前を教えてやるわ」

「本当?」


 そのお姉さんは完全に顔負けをした。彼女は覚悟を決めて名前を言った。


「私の名前はルビ・デグリ・アルマティ」

「長いね……」

「ルビ……またははアルって呼んでね」


 それが……お師匠様の出会いだ。











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