46話

 放課後、私達は今日の出来事の影響で、来週の対戦に向けて、クラスメイトのダレス君の特訓を付き合わされる事になってしまった。

 午後の授業が終えて、僕達三人はすぐに教室から出て、急いで更衣室に向かて、制服を脱いでジャージに着替えた。

 更衣室に出て、集合場所の校庭に向かった。到着すると、そこにはジャージ姿のエリスがいた。


「オオウチ君、コッチですわ」

「エリス、着替えるの早いな」

「私はこう見えて、時間厳守を守っていますわ」


 意地っ張りな態度を取るエリス。遅刻しないのが嬉しいのか。


「そういえば、ダレスがいないけど」

「本当ですね?」


 先に校庭で待っていたはずなのに、周囲を見渡すと、ダレスの姿が何処にもいない。


「ダレスは何処にいるんだ?」

「私が先に来た際には、ダレス君の姿はいませんでしたわ」

「どうしていないんだよ!」


 今日の昼休みに悩んでいる最中に、通りかかったダレスがニコニコとした表情で、僕達三人を来週の対戦に向けて特訓を付き合わされることになってしまった。

 それにしても、約束した本人ダレスが途国とは何事だ。後でたっぷり時間厳守をキッチリ閉めないと。


「全く、アイツは何をしているんだ」

「きっと、着替えている最中ですわ」

「ジャージだろう?」

「イヤ、もっと勝負服ですね」

「勝負服?」


 そういや、ダレスが特訓をする服装は何を着てくるんだ。今テヅカが言った〝勝負服〟とは一体なんだろう。デートとか言うんじゃないだろう。


「それに聞きたい事があるんだ?」

「なんですか?」

「どうして校庭なんだ?」

「それは、ダレス君がいつも校庭で自主練をしていますわ」

「自主練?」


 あのチャラ男のダレスが、校庭でトレーニング姿なんて見た事がない。アイツは遊び人みたいでプレイボーイな性格の男子だ。

 転校した先に、まだ何も知らないことがたくさんある。


「待たせたな」

「おっ!? ようやく来たか」


 背後からダレスの声が聞こえ、特訓を教える奴が遅刻して、なんで仲間キャラみたいな台詞で話すんだよ。


「遅いぞダレス!」

「全く、遅刻するとはどういうことですか」

「そうですよ」


 僕たち全員、三人で一斉に身体を後ろの振りむくと、僕たちはダレスに話したら、衝撃的な姿を目にしてしまう。


「ダレス……」

「ダレス君」

「ダレス君なの?」

「本当にダレスだよ!」


 ダレスの姿を服装見ると、何故か軍隊みたいな服装だ。


「どうした……その服?」

「あっ……これ? これはな、特訓するために必要だから、部屋に戻って着替えたんだ」

「なんで迷彩服なんだ?」


 僕はダレスに向けて指を刺した、彼の着ている服装は軍隊で使用する迷彩服だ。 頭から軍帽を被っていて、緑色のシャツとジャケット、青緑色のズボン、それに黒いブーツを履いていた。これじゃあ確実に軍隊が使用する迷彩服を着ていた。


「いつもの運動着でいいじゃないか」

「俺は軍隊志望だからさ。この服はオーダーメイトで作られたんだよ。自分で作成したんだよ」


 着ている迷彩服は作られたのか。しかもダレスがデザインしたんだ。誰かに、この迷彩服を裁縫さいほうしてくれたのか。


狙撃そげきされるぞ」

「大丈夫、何度でも狙われたよ」

「避けるから安心しろ」


 特訓するのに時間掛かって着替えが遅かったのか。しかも、ダレスはこの迷彩服のおかげで、何度も銃で射撃を何度も狙われていたのか。

 そんな軍服みたいな服装で何をするつもりだ。まさか戦争でも勃発ぼっぱつする気か。


「ところで、お前らは運動着なのか」

「特訓するのに、運動着くらいだろう」


 体育着以外、何に着替えるんだよダレス。お前みたいな軍隊の迷彩服なんてある訳ないだろう。


「なら、俺の貸そうか」

「遠慮しときます」

「そうか……残念」


 シュンとしながらガッカリするダレス。服装を借用してくれるとは、どれだけ優しいんだよお前は。僕らは急いで整列した、右はエリス、左はテヅカ。

 ダレスは気を取り直して、頭の上に乗っかているサングラスを掛け直した。


「ダレス?」


 ダレスは急に静まり返った。


「じゃあ、お前ら……準備はいいか」

「はい?」

「これからお前らに地獄を見せてやる!」


 その時、気軽なダレスは態度を変わるように鬼のような形相で怒号を上げる。


「よし! これより特訓を行うぞ!」

「イエッサー!」

「イエッサー!」

「い……いえっさ……」


 僕とテヅカは、怒鳴るダレスを仰天し、しっかりと号令をした。ところが、エリスは茫然ぼうぜんと謎めいたように声を出す。


「そこ! 声が小さい!」

「はいいい!」


 エリスは小声を出して仰天し、ダレスは怒りのようにしかられる。


「お前らみたいなウジ虫共が! 特訓をしようってか!」

「イエッサー!」

「イエッサー!」

「い……イエッサー!」

「特訓はそんなに甘くないぞお前らー!」

「「「サーイエッサー!」」」


 三人一緒に、再びダレスに号令する。


「どうして特訓をする理由は何なんだ! 元凶を作った奴は誰なんだ!」


 元凶とは、今日の実技で騒ぎを起こした事態だ。


「自分です!」


 僕はあっけなく、正直に話した。


「お前か! お前が元凶か! 理由を言ってみろ!」

「はい。友人が絡まれているところを助けたせいです!」

「その友人とは!」

「僕です!」


 左隣にいるテヅカは、大声を叫ぶように返事した。


「貴様! 僕じゃなくて自分と言え!」

「イエッサー!」


 言葉使いに注意し、ダレス君は怒鳴るように説教を喰らわされる。

 隣にいるテヅカは、ビクビクと身体を震え上がる。そんなに怯えているのか。


「申し訳ございません」

「申し訳で済んだら、警察はいらないんだ!」

「イエッサー!」


 テヅカは怖気つくように、怒鳴られるダレスを見て驚愕する。


「どうしてお前は、相手に逆らったり反撃しなかったんだ!」

「それは……」

「言うんだ!」


 疾呼しっこの声で言いだすダレス。テヅカは、自分の秘密を隠しきれず、覚悟を決めて正直に話した。


「逆らえなかったんです」


 今、最初に話した言葉とは、『逆らえなかった』というセリフ。


「逆らえなかった? 何故だ!」


 ダレスは気になるような目でテヅカを見る。

 そのテヅカは他言した。


「自分は……歯向かいたい気持ちはわかります。でも、僕の身体はこんなに弱気な自分では、何も出来ません」

「ほほう……」


 どうやらテヅカは、あいつらに抗言こうげんしたい気持ちがたくさんあった。ところが、彼の体格は僕と同じ小柄で、貧弱で細めでせていた。もやしっ子と呼ばれていたかも。


「毎日のようにお金を奪われたり、机には酷い落書きされたり、物を壊されたり、理由もなく殴られたんです」


 次に明言したのは、テヅカがあの三人に酷い目に合わされた体験だ。僕もちゃんとテヅカの話を傾聴けいちょうした。最低なクソトリオ……テヅカをこんな酷いことをしやがって、アイツら絶対にしめてやる。


「それがお前の辛い経験か!」

「イエッサー!」


 隣にいるテヅカは啼泣ていきゅうし、歯を食いしばるように、正直に話す。するとダレスは、真剣そうな顔で話をしてきた。


「これがお前の地獄か」

「イエッサー!」


 まや泣き崩れるように返事をし、テヅカは悲願で辛い人生を送られたよな。あの三人組にいじめられて、苦しい思いをしたのか。


「そんなに臆病のままでいいのかお前は!」

「……」

「お前は何も出来ない臆病者のウジ虫だ! それでも男か!」

「はい……」

「逃げてもまた奴らにやられるぞ! 戦わないと……負け犬人生を送りたいか!」

「……」


 とても屈辱的くつじょくてきに痛言を受けるテヅカ。本格的に悔しがる顔で、極端に大声を上げた。


「はい。僕は……」


 テヅカは悔しがる表情で、鋭い顔をしながら大声を上げた。


「奴らをぶっ飛ばしたい!」

「そうだ! よく言った!」


 テヅカはやる気を出した。あの三人組を打倒する気満々だ。ところが、右隣にいるエリスは不安そうな顔でダレスに声を掛ける。


「ダレス君!」

「上官と呼べ!」

「イエッサー上官!」

(エリス……)

(アッ!? 私はなんて口を滑ってしまったのですわ!)


 シスターであるこの私に、反対しようとしたところで、逆に抗言こうげんされ、ついでに号令してしまうとは、なんて不覚ふかく

 これじゃあまるで、厳しい訓練を行われている軍隊じゃないか。


「これから行う訓練も地獄だからな! 覚悟を決めろよ!」

「イエッサー!」

「イエッサー!」

「い……イエッサー!」


 再び一斉に号令し、今日から一週間、僕とエリス……そしていじめられっ子のテヅカの三人は、ダレスの厳しい特訓が始まる。


「それではお前達! 今日の訓練を開始する! 覚悟を決めろよ!」

「「「イエッサー!」」」

「お前ら全員ウジ虫以下だ! 覚悟を決めろよー!」

「「「イエッサー!」」」

「いいかみんな! 特訓開始だ―ー!」

「「「アイアイ!」」」


 今日から一週間、対戦に向けて特訓を開始した。







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