十時限目・あやまるしょうじょは、なかまおもい!

「すごいです凄いですよ恵さん!魔法を使わずに2戦2勝、しかもエンジール家のアオリアさんを破るなんて!!」

「えへへ~、そうかなぁ?まあ今回はガザニア君に相当助けられちゃったから明日の本番は私が率先してがんばっちゃうよー!」

「ほんとにすごい事なんですよ!やっぱり恵さんはかっこ可愛いですっ!なにやらウェイルさんからも求婚されてるみたいな話も聞きましたよ」

「い、いやウェイル君は・・・ない、かなぁ」

「恵さんみたいに可愛い方はモテていいなぁ・・・。アオリアさんもスゴイですけど恵さんの方がもっとすごいですもんね、なんたって・・・」


夕方。

宿には恵とガザニア、そして天狐の姿がある。

二段ベットと小さな机程度しかないこの部屋で恵はガザニアのベットを占拠しつつ天狐に褒められまくっていた。

魔法訓練が終わり天狐に会いに来たところ、すでに噂が広まっていたらしくまるで自分の事のように喜んでいたのだ。

そのテンションに恵も乗っかり、この調子の会話が永劫続いている。

ちなみに前述した会話を延々とループさせたものがそれである。


(いつまでやってるんだこの子たちは・・・)


椅子で足組しながら本を読みつつ聞き流していたガザニアだが流石にうるさくなってきていた。

作戦とはいえ女の子の恵を前に出して後ろから攻撃していたガザニアは若干の罪悪感があったのだが、それなりに限界が来ていたらしい。


「あー・・・もうそろそろ明日の作戦を考えた方がよくないか?」

「・・・!そ、そうですよね、ごめんなさいつい舞い上がっちゃって・・・」

「そんな事よりポーカーしない?負けた人は鼻からお茶飲みね!」

「見たくないですね、恵さんのそんな姿は・・・」

「甘いね天狐ちゃん。いざとなれば私はどんな卑劣な罰ゲームでもさせる女の子だよ・・・!」

「いや罰ゲーム受けるのはお前・・・まあいいか」


相変わらず奔放な恵を放置して天狐と話を進める。

この辺りは天狐もガザニアも慣れたものだった。

・・・別に慣れたくて慣れたわけではないが。


「それで明日は学園の中全体で戦闘する、ということしか聞いていないが天狐は何か知ってるか?」

「相当厳しいものになるそうです。お昼前から始まって暗くなるまで続く混戦になるらしいのでご飯とかトイレとかの時でも襲われたりするとかしないとか・・・」

「・・・容赦ないな」


今まで様々な経験をしてきたガザニアでも転入試験でトイレ中に襲われて敗退などという醜態は晒したくはなかった。

その姿に天狐はぐっと拳を握り、気合を入れる。


「大丈夫ですっ!私が明日の朝、お昼用のお弁当を腕によりをかけて作ってきますから!!」

「ほんとっ?ありがと天狐ちゃん!」

「えへへふぅぇへ・・・」


天狐の頭や耳やしっぽを撫でまわす恵と撫でられながら恍惚の笑みで若干よだれを垂らす天狐。

百合百合しくも見えなくもないその光景に、徐々に深刻化してないか・・・?と引きつつ話を戻す。


「ごほん、それなら取る戦略は一つだな」

「うん?見つけて倒すだけじゃないの?」

「いや、その逆だ。ある程度減るまで隠れるべきだろう。戦闘音は敵を引き寄せるからな」

「ですね。実際に戦い始めるのは夕方位でしょうか」

「ふーん、じゃあそうしよう!でもいいの?」


首を傾げながら恵は尋ねる。


「何がです?」

「いや、エスカちゃんもいるのに作戦言っちゃってさ」

「・・・え?」


当然だがこの部屋にエスカが入ってきたことは無いし、そんな気配もない。

だが『本人』は死ぬほど驚いたらしい。


「・・・っ、ひぁああ!?」


風通しの為に少し開けていた窓がガタン!と全開になり、銀色の塊が外から部屋に落ちた。

それをポスッと恵が受け止める。


「おっとっとダイジョブ?」

「な、なぜ私に気が付いた・・・」

「え?だってなんかこそこそしてた感じの音が聞こえてたから、ずっと!」


ぐぬぬ、といった苦悶の表情になるエスカと、


「(・・・なぁ天狐。そんな音聞こえてたか?)」

「(いえ・・・聞こえませんでした)」


小声で言葉を交わす二人。

狐耳を持つ天狐にすら聞こえない音が恵に聞こえていたとは思えないのだが。

比喩なのか何なのか、戦闘方法が剣ということもあるし何かしらの気配を感じ取ったのだろうか?

剣術の流派などに所属するような厳格な人には全く見えないが。

そんなことを考える天狐とガザニアの耳にとんでもない言葉が舞い込んだ。


「こうなっては仕方ないわ・・・。一之瀬恵!私と勝負しなさい!」

「えっ?ま、魔法はちょっと・・・」

「いいえ、通常の決闘よ。魔法だけなんてこすいことは言わないわ」


そう言いながら銀のナイフを差し出すエスカ。


「『道分かつ銀刃』・・・。古くから伝わる決闘相手に渡すナイフか。本気なのかエスカ」

「ガザニア、あなたには関係ありません。私は一之瀬恵を超えなければいけない理由があるの」

「理由?うーん、そうだね。確かに今日の魔法訓練はちょっと卑怯ぽかったからいいよ!」


相変わらず(寝転がりながら)かるーく安請け合いする恵。

それに天狐が飛びつく。


「ちょっ、いいんですか!?訓練や試験と違って死んじゃうかもしれないんですよ!?」

「うん、ちょっと怖いけどエスカちゃんにもなんか事情あるみたいだから。その代わり勝ったら話、聞かせてもらうよ?」

「・・・・・・なんでもいい。中庭に出ましょう」

「おっけ」


そう言いながら恵は剣を空振り、


すっぽ抜けた。


「あ。」


そのすっぽ抜けた剣はエスカのおでこに直撃し。

ついでに天狐の頭上を掠め、ガザニアの股間に当たった。


「え、えっ・・・と、ごめんね?ほんとに」


目を回し倒れたエスカに股を押さえて呻くガザニア。

そして無作為に起こされた惨劇におろおろする天狐。



「ごめんなさいでしたっ!」


ベットに寝かされたエスカに土下座する恵。

そんな彼女にエスカは、


「・・・も、もういいわよ・・・」


普通にやさぐれていた。

恵に関わってからというものろくなことが起こっていないからだろう。

そんな彼女に同情しつつ、恵にしてはいいこと言ったと思ったらこれだよと呆れつつ、下腹部を押さえながらガザニアは尋ねる。


「エスカ。一之瀬と決闘して、もし勝ったとしても憂さ晴らし程度にしかならないだろ。なんでこうも突然そんな話を?」

「・・・そ、れは・・・」


言いよどむ彼女に恵が促す。


「このお詫びになんでも言うこと聞いてあげるから!ね?」

「・・・はぁ。正直決闘をしたところで勝てるようには感じないから従うわよ・・・。

私、アオリア様にエンジール家から追い出されたの。

『貴女のような出来損ないは貴族である資格など無いですわ』と・・・」

「えっ!?な、なんでですか?」

「・・・・・・分からない。でも思い当たることがあるとすれば・・・」


エスカがボソッとそこまで言って黙り込む。

その先はガザニアが続けた。


「・・・俺と一之瀬に負けたことが原因だと。それで自分が一之瀬に勝てば見直してくれると思ったわけか、やれやれ」

「し、仕方ないじゃない!私はエンジール家に引き取られてから今まで、ずっと・・・ぐすっ、がんばって・・・」


俯き、服の裾を握りしめるエスカ。

実際にアオリアを立てる彼女の姿は見ていたし、恵の言葉遣いに怒る場面も多々あった。

それに・・・今の彼女の絶望しきった姿を見ればどれほどエスカが心からアオリアを尊敬していたか分かるというものだ。

しかし。


「まあ貴族なんてそんなもんだろう」

「アオリアちゃんがそんなことするかなぁ」


その反応は真っ二つに分かれていたが。


「むー、ガザ二ア君はアオリアちゃん信じてないの?」

「信じるもなにも一之瀬より俺の方がアオリアの事は知ってる。あの女は周囲のことなど考えない奴だ。こう言うと悪いがエスカがいくらアオリアに慕っていても、アオリアがエスカを大事に思っているとは限らないんだ」

「・・・ッ!」

「ガザニア君!そんなことないはずだって!保健室で話してたアオリアちゃんの言葉、聞いてたでしょ?」


昔のアオリアを知るガザニアと今のアオリアを判断する恵。

二人の意見は平行線だった。

だとすると、と天狐は考える。


「だったら、両方・・・じゃないでしょうか?」

「両方?」

「はい。アオリアさんは最悪に事態を避けようと、エスカさんの為にエスカさんを追い出した・・・と考えられません?」

「・・・確かに考えられなくもない、か?」

「エスカちゃん、思い当たること、ある?」

「・・・・・・」


天狐の言葉に若干希望を持ったのか、エスカは時間をかけて考え。

そして。


「・・・あるとすれば派閥争い・・・?」


一つの答えを出す。


「派閥?エンジール程の大貴族に?」

「いいえ、エンジール家そのものの派閥では無く、アオリア様の取り巻きの派閥とでもいいましょうか。

昔、彼らに嫌がらせを受けていた時アオリア様に助けていただいたことがあります」

「今回もその人達がエスカさんに嫌がらせをしようとして、そこでエスカさんを守るためにアオリアさんはわざと冷たい態度を取った、という所でしょうか」


簡潔に現状をまとめる天狐は、はじめてそれを見た。

いつでも能天気な恵が、怒っているのを。


「・・・エスカちゃん、それの主犯とかってわかるかな?」

「主犯・・・というか中でも有力なのはふたりね。サミエル=ロアとメサイア・ケースよ。

そうか、学園生のあの人達なら今日の魔法訓練をこっそり見れてもおかしく無い・・・。アオリア様と私が何故か運よくペアになったみたいに」

「そいつら今から私が根性叩きなおして、

「待てよ、一之瀬。まだ決まったわけじゃない」

「でも!」

「これがホントなら俺だって許せない。でも今アオリアはこの宿にいない可能性が高いな。どうやら明日の試験、ただ隠れていればいいって訳にもいかなくなったな」

「うん、アオリアちゃんに直接聞かないと!エスカちゃんは試験どうなるの?」

「・・・不戦敗、ですね。アオリアさんが最後まで残ればエスカさんも転入できる規定だったはずですが」


規則は規則だ。

だがそれに納得がいかないこともある。

今のように。


「ま、待ってよ!じゃあ私はアオリア様と直接話す機会すらないっていうの!?」

「・・・はい。敗北した人や関係ない人は戦場である学園内に入れませんから・・・」

「・・・・・・」


屈辱に耐えるかのように奥歯をかみしめるエスカの肩を恵は掴む。


「大丈夫!私達に任せて。必ずアオリアちゃんから真実を聞いてくるよ!」

「俺はアオリアの為じゃなく、転入試験の不正が気に食わないだけだけどな」

「私は直接は関われないですけど・・・色々伝手があるので調べてみますね」


こうしてエスカの頼みにより、ただ転入すればいいという訳でもなくなった彼女たちは作戦を練りながら明日に備えて眠るのだった・・・。

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