八時限目・こずるいしょうじょは、かんせんちゅう!

「はい、お願いしますねメリディア学園長!バシッと決めてください」

「おーう、まかせろー。えーっと、枕投げ対決・・・違うわ、まほ―訓練はじめー・・・ふぁあ・・・ぁ」

「・・・次から私がやります」

「うむ、頼むー・・・Zzz」


そんなグダグダ進行でも開始の合図ではあるわけで。

ウェイルは先手必勝とばかりに風を纏い始める。


「おうロン毛、女の子だからって手加減したらお前から潰すからな」

「君こそ僕に邪魔をしたら許さないから・・・ね!」


エンリャクと交わしたその言葉と共に、空を掴むかのようにしてウェイルは右手を前へとつきだす。

するとウェイルへと向かうようにして風が巻き起こり始める。

それを見計らい、エンリャクは大地に手のひらを叩きつけた。


1属性魔法『巻き風の段』並びに1属性魔法『狭き門戸』


ずざぁあああ!、という音と共に地面が隆起し、ウェイルの周囲に迷路のような複雑な壁が出来た。



その姿にエスカは疑問を口にする。


「・・・何をやっているのでしょう、あの人たちは?あんな事したらお互いがお互いの邪魔になるだけなのに。本気で仲間割れ?」

「そう思うかしら?」

「アオリア様はあの意図がお分かりになるんですか?」

「ええ。にしてもとんだ食わせ物ね。あの二人・・・しっかりと協力してるじゃない」



そう。

適当に土の壁を並べればただの妨害だが。

それが風を纏めるように・・・ウェイルの風の勢いを増すかのように計算して配置したらどうなるか。


「-----充填。『巻き風の段』は周囲に風力を巻き起こし、次の一撃に託す魔法・・・。

更に、『狭き門戸』により吸引範囲を広げた。

頼むから・・・怪我はしないでね」


可視出来るほどにまで成長した風は、ウェイルの右腕に巻き付き。

その腕を、振るう。


「2属性魔法『花弁愁う一閃』」


自ら薔薇の花びらを撒きつつ、攻撃を仕掛ける。

その一撃は土の壁を破壊しながら真一文字の風の刃になり飛ぶ。


(だけどまあ・・・これで終わってくれる奴らじゃないだろうね。特にガザニア、あいつは例の貴族だろ。魔法を逸らすくらいはしてくるはずだね。

でも唯一、恵さんだけは未知な存在だけど。一体どんな・・・)


そこまで考え、彼女たちの方を見て。

愕然とする。


(・・・え?何もしてない・・・?)


風の刃が迫る中、ガザニアは前すら見ずしゃがんでいる。

恵はなにやら棒のようなものを持って・・・棒?

そうこうしている間にも風の刃は迫る。


「・・・!?待てっ、そこは危ない・・・!」


叫ぶも間に合わない。

周囲が惨劇を予感し。

アオリアが疑問に駆られ。

メリディアがスッと片目を開く。


その瞬間。


恵は強気に笑い。


迫りくる風の刃を、


剣 で 殴 り 飛 ば し た 。


比喩では無い。

手に持つ棒のような物・・・鞘から抜いていない剣を振りかぶり、魔法を弾き返したのだ。

バッギィイン!!という金属音と共に風の刃が霧散する。


どや顔の彼女にウェイルは、呆然としながら叫んだ。



「いや、魔法訓練だって言ってるだろぉおおおお!!!???な、なんで剣使ってんの恵ちゃぁん!!??」



「ふっふっふー、天狐ちゃんに聞いたんだよ。魔法訓練は相手に対する攻撃こそ魔法じゃないとダメ、とは書いてるけど、

魔法を剣ではじき返しちゃダメなんて書いてないんだってね!


   つまりせーふ!私せいぎ!」


「「通るかそんなもん!」」


満面の笑みで言う恵に騒然となる周囲。


(うん。魔法力を見る試験で魔法使わないって、趣旨に合ってないからダメだと思うが・・・)


分かっていながらも黙認するガザニアもガザニアだが。


(ま、これもそれも恵が『一切』魔法がつかえなかったからなのだが・・・。一体何者なんだこの子は・・・)


そう。

一之瀬恵に魔法の才能は皆無、塵一つとしてありはしなかった。

それを知った時の恵の「私の魔法少女力・・・弱すぎ・・・?」と戦慄く表情は失意にまみれていたという。


閑話休題。


判断に迷うアイギスはメリディアに尋ねる。


「えーっと・・・、これはいいんですかメリディア学園長」

「・・・まー趣旨とは違うが、違反じゃないなら止められないだろうなぁ・・・。来年は試験改定がいりそうだ、仕事を増やしおってまったく」


超消極的な賛同に勝ち誇る恵と空笑いするエンリャク。


その後ろから。


「・・・おしゃべりは終わったか?戦闘途中に暢気に叫ぶとは、随分な余裕だな」


・・・極寒の冷気が襲い来る。


「・・・っ!?地面が・・・」


パキパキと地面が凍り付き、エンリャクとウェイルの足を固定する。


「はっ、しゃらくせぇ!」


そう叫びながら、エンリャクは地面を殴ろうとして。


バシュッン!!!とものすごい勢いで目の前に突き出された剣先にのけぞった。


「ふぁええああああ!!??」

「ははっ、使わせないって!あ、ちなみに今のも当たってないからせーふね♪」

「ルール曲解しすぎ・・・はっ!」


思わず突っ込んでから、今置かれた状況を思い出す。

冷気は最早腰まで来ていた。


「1属性魔法『駆動低下』。さて、降参することを勧めるが」

「「・・・こ、降参だ・・・」」


ひじょーにやりきれない感じでそういう二人。

当然である。

そこで高らかな笑い声が響いた。


「ふふっ、あはははははははっ!あー面白い!やっぱり恵、貴女はほんっとうに変わった方ですわね。

魔法訓練で魔法使わずに勝つなんて前代未聞もいいところよ」

「ぜ、前代未聞?それは困るなぁ・・・」

「いいじゃないですの、私、型にはまらない方が好みですわよ。でも、私自身はそういうの出来ない性質(たち)ですの」


スッと立ち上がり、次の試合を促す。

訓練場と観客席の境目、恵たちとすれ違うアオリアはつぶやく。


「見ていなさいな、恵。常に王道を征く貴族の誇りというものをね」

「うん、しっかり見て応援しとくね!」


(かみ合ってるようで・・・かみ合ってない)


アオリアと恵のやり取りを遠巻きに見ながら心の中で笑いつつ、ガザニアは通り過ぎようとして。


「・・・貴方もですのよ、ガザニア」

「・・・悪いが、今の俺はそういった矜持がどうのとか言ってる程余裕があるわけじゃないんだ」

「そうかしら?なら私達との戦いなんてすぐに降参して無視するべきじゃないかしら?別にこの試験で合否が決まるわけでもなし。

・・・さっきの戦いで手加減をすることなく・・・ね」


その言葉を何事もなく受け流し、去るガザニア。

一方で恵は少しビクッとしていたが。


(よ、よかった・・・。私が手加減してたことは気づいてないみたい。私もできるならちゃんとやりたいけど・・・アオリアちゃんを巻き込めないから、ごめんね)


風の刃と同じ力で叩いてそれで加減を覚えた、そこまでは流石に分かっていなかったらしい。

もしも本気で勇者たる恵がぶん殴っていたら・・・どうなっていたことか。

心の中で謝りながら、アオリアを見送る。



アオリアとエスカ。そして対戦相手の少年2人が向かい合って立つ。

するとアオリアがエスカの耳元で何かささやいた。


「あれ?エスカちゃん一番後ろまで下がっちゃったよ?」

「・・・まさか」


そう。

そのまさかである。


「さあ、おいでなさい。こちらは私一人でいいわ! 

私の名はアオリア・エンジール・サブスタンスッ!

誇り高きエンジール家の長女よ。短い戦いになるでしょうけど、楽しみましょう?」


ドレスの裾をちょこんと持ち上げ、慇懃無礼に頭を軽く下げる。

その挑発に、相手もかなりやる気になったらしい。


開始の声が、上がった。


一歩。

アオリアが余裕の笑みで相手へと近づく。

無防備な彼女にこぶし大の火の玉が飛来し・・・


バリバリバリッ!!という『雷鳴』と共に火球が消し飛んだ。


一歩。

眼を閉じながら気分よさそうにくるりと一回転し真っすぐ前進する。

いつの間にかアオリアの手に中には黄金に輝く雷球がある。

その手を振ると、一直線に相手の頭の数センチ横をかすった。

それが、わざと外したことなど。彼がもっとも良く分かっているだろう。


一歩。

踊るように。

まるで舞踏会でステップでも踏むかのように軽やかに。

相手の火の玉やら氷のつぶてやらを、まさしく光の速度で薙ぎ払いながら。


気が付けば。

相手の少年たちは、攻撃をやめていた。

あまりの実力差。

絶望感。

それに飲まれ、肩を落とす彼らは。

さながら裁きを待つ罪人のようで。


ぽん、とアオリアは彼ら二人の肩を持ち。


「・・・お疲れさま♪」


バリバリバリッ!とまたしても雷鳴を響かせながら。

少年二人を打ち倒した。


圧倒的。

その言葉しか出てこない。

唯一普段通りなのはメリディア学園長ぐらいのもので、たった一試合で完全に皆が度肝を抜かれていた。


そんな中で。


可愛らしく小首を傾げながら。


「さて♪始めましょうか、恵」


アオリア・エンジール・サブスタンスは笑顔で宣戦布告する。


「どちらが強いのか・・・ここで決めておきましょう?」

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