六時限目・はらぺこしょうじょは、うけてたつ!
試験二日目。
〝王立クレセント学園〟の特別教官と昨日名乗っていたごつい大男、ドガ・ファーナントが今朝も転入生候補たちを前に叫んでいた。
「さあ、そろったな!今日は言っていた通り、魔法模擬訓練だッ!昨日で相方との連携はよく研究したか!?
確かに時間は無かったかもしれない、しかぁし!!不測の事態に最も重要なのはアドリブ力ッ!
思えば俺も・・・」
何故か朝礼で長話を始めた特別教官に、ふとガザニアは疑問を覚えた。
果たしてこんな話をあの一之瀬恵が大人しく聞いているだろうか?と。
昨日あった講堂でのブリーフィングですらガザニアに話しかけ続けていたのに、今回は椅子もなく屋根もない学園の屋上訓練場である。
更にうるさくなるか、もしくは立ったまま寝てるくらいは覚悟していたのだが・・・。
(いや・・・一之瀬も何かの事情があってこの試験を受けてるはず。彼女も本気で・・・)
すっと振り向くと、そこには。
「ふーふー・・・・・・ずるずるずるずる・・・・・・朝からモグモグ豚骨ラーメンらしき何かはモグモグ重いかと思ったけどずるずる・・・案外イケル・・・!」
朝礼の場で、堂々と麺をすする恵の姿があった。
・・・奇想天外どころか、ただ単に常識がないと言わざるを得ない。
「・・・な、にやってるんだ一之瀬・・・!?麺打ち職人を募集してるわけじゃないぞ」
声を必死に抑えながら驚愕と怒りを叫ぶガザニア。
どうやら奇跡的に前の試験者たちに隠れているため恵のごはんシーンは見られていないらしい。
「えーだってこれ終わったらすぐ訓練でしょ?朝ご飯食べるタイミング今しかないじゃん?それにほら、ばれてないし!」
「いやばれてるとかばれてないとかいう問題じゃ、
「・・・ふむ。うまそうなものを食べているな。私も一口貰おうか」
「「えっ」」
後ろの方でこそこそしていた恵の隣に座り込んだ女性。
長い黒髪をゆったりとまとめてある眠たそうなその女性は、あくびをしつつ自前の箸で麺をすする。
・・・なぜかパジャマ姿で。
「・・・え、えーっと・・・お寝坊さんの転入生?」
「うん?・・・ああ、この服か?確かに寝巻きだがまさか何の意味もなく着ているわけであるはずがないだろう」
「どんな理由だろうとおかしいと思うが・・・」
「これさえ着ていればどこでだって寝られるからだ」
(・・・やばい。こいつ一之瀬レベルであれな奴だ・・・)
どや顔の女性に戦慄するガザニア。
それに加えて恵が、「あっ・・・なるほどそういう手段が・・・」などと納得しているのがさらに怖い。
その時。
「何をしているんですか?」
眠たそうな女性と恵の襟首が掴まれた。
キリッとしたその眼鏡で銀髪の女性に恵は見覚えがあった。
「あ・・・校門であった・・・先生・・・」
「そういえば名乗っていませんでしたね一之瀬さん。教頭のアイギス・R・ベルトです。アイギス先生と呼びなさい。
・・・それで、そのラーメンは何ですか?」
「え゛・・・・・・・・ひ、拾いました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ごめんなさい」
アイギスに睨まれ涙目で謝る恵。
その隣から思わぬ援護が飛び出した。
「まーまー、アイギス。そうかっかすることはないだろう。あのーあれだ、よく言うだろ、なんだっけもういいや寝る」
アバウトな庇い方もあったものである。
「・・・学園長!貴女も貴女ですッ!ドガ教官の後に転入生へ話す手はずだったじゃないですか!!」
「・・・・・・・ぐー・・・」
「起きろッ!!!」
アイギスに殴られる眠たそうな女性。
「・・・学園長?この人がっ!?」
「うむ、まあ一応な。面倒な仕事だがなってしまったものは仕方ない。ふぁあ~・・・ぁ」
パジャマ姿で眠たそうなこの女性こそ、ソレイン王国唯一の学校〝王立クレセント学園〟の頂点。
学園長のメリディア・フェルトリムその人である。
性格は壊滅的だが有能ではあるらしいとガザニアが思っていると、前で長々と話していたドガ教官がこちらを見て叫んでいた。
「メリディア学園長!困りますぞ、予定を狂わせてもらっては!さぁ、早く前へ!」
「あー、分かった分かった、いいから叫ぶな。えーっと、じゃ諸君、頑張ってくれたまえ。はい以上。かいさーん」
そう言うや否や壁によっかかって寝始めてしまった。
ダメ人間もいいところである。
「・・・なんであの人学園長になれたんだ?」
「えー、私はああいう先生好きだけどなー」
「学園七不思議の一つらしいですわよ、メリディア学園長は」
恵とガザニアの後ろから話しかけてくるのは、そろそろ聞き慣れてきた声だった。
「あ、アオリアちゃん・・・と、パートナーの子?お名前は?」
「・・・アオリアちゃん?貴女、平民のくせにアオリア様を愚弄するか?!」
「ああ、もういいんですのよ、一之瀬さんに関しては。どうせ言っても聞かないでしょうし」
「流石はアオリア様ッ!器が大きい!」
「ふふん、まあ名高きエンジール家の長女ですから当然ですわ。ああ、この子は私のパートナーのエスカ・エンジール・パトラージュ。我が家の22番目の養女ですわ」
「に、にじゅうにばんめ・・・。まあ要するにアオリアちゃんとエスカちゃんだね」
養子であるからかアオリアが金髪碧眼であるのに対して、エスカは銀髪赤目である。
この金銀コンビに西遊記の金閣と銀閣を思い出してしまうのは本好きな恵の性だろうか。
そんなことを考えていると、ぶっきらぼうにガザニアが口を開く。
「・・・で?昨日は近づくのすら嫌がっていたアオリアが話しかけてくるなんて何か重大な用でもあるのか?」
「ふん、まあ重要と言えば重要ですわね。今から行われる魔法訓練のお話は聞いていらして?たった2戦しかない模擬訓練なんてぬるくて仕方ありませんの。だから・・・賭けをしませんこと?」
・・・そもそもドガの話を聞いていなくて魔法訓練の詳細も聞いていなかった恵とガザ二アには拒否権どころか話を挟むこともできなかった。
「えーっと、どんな賭け?」
「2戦目・・・1戦目で勝ったチーム同士で戦うそこでわたくしたちと貴方たちで戦い、負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くというのはどうですの?シンプルでやりがいがありそうじゃなくて?」
「いや・・・それはやめた方が・・・」
目線を逸らしつつ苦い顔をするガザニアに、恵はそっと耳打ちをする。
「だーいじょうぶだって!加減するから!」
「いやお前加減のしようとかあったもんじゃ・・・ってか一番大変なの俺・・・」
そんなガザニアの反論をすっ飛ばし。
「よーっしアオリアちゃん!!その勝負受けて立つよ!そーだなぁ、私たちが勝ったら・・・あ、アオリアちゃんとエスカちゃんに猫耳付けてモノマネしてほしいなぁ。きっとかわいいよ!」
「「「え゛」」」
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