三時限目・とくしゅなしょうじょは、べんきょうちゅう!
「はい、恵さんあーん」
「あーん・・・うん!美味しい!私の知ってる卵焼きとは少し違うけどふわふわだね」
「ヒモスギトリの卵焼きはお弁当の定番ですからね!」
「ひ、ひもすぎとり?・・・恋人のお金だけで生活してそうな名前だね」
「はい?」
「ああなんでもないなんでもない!」
仲つつまじく学園の中庭で天狐が作った弁当をつつく二人。
そんな彼女たちを、
(・・・・・・これ俺は何を見せられているんだ・・・?)
ガザニアは困惑と共に見つめていた。
当然である。
狭き門である試験中にここまでリラックスしている奴なんて歴史上存在しないに違いない。
「えっと・・・ガザニアさんのお口には合いませんか・・・?」
「うわーガザニア君が天狐ちゃんいじめたー」
「いや違っ・・・!おいしい。おいしいよとても。ただ試験中にのんびりしすぎじゃないかと思ってな」
その言葉を聞いて天狐ははっとしたように、
「そ、そうですよね!私ったら転入生試験の情報のついでにお弁当作って来たのに恵さんのペースにつられちゃいました・・・」
「その気持ちはとても分かる・・・。というか転入生試験の情報?」
「はい!先輩方をあたっていくらか聞いてきました!」
「おおー!助かるよ天狐ちゃん、ありがとうっ」
がしっと天狐にしがみつき頭を撫で倒す恵と幸せそうな天狐。
あれ?この狐さんも狐さんだなオイ、とガザニアが思ったのは秘密である。
細かいところまで突っ込んだところで誰も得しないとようやく分かり始めたらしい。
さて、そんなこんなで世界一、否宇宙一ゆるいかもしれない作戦会議が始まった。
「聞いた話によるとですね、転入生試験はかなり過酷なものになるそうです。
初めて会ったパートナーとたった一日で戦闘のテンポを合わせて、二日目にはいきなり魔法の練習試合、三日目には学園全体を使っての戦闘訓練ですから。
そして残った3チーム6名だけが合格・・・。まさしく生存競争と言っても過言ではありません。
とは言っても・・・」
真面目で深刻そうな表情を崩し、
「恵さんは強烈に強いですから大丈夫そうですけどね」
「そうなのか?一之瀬が?」
「えっ、いや私か弱い女の子だから!ホントに!」
(あっれー・・・?私天狐ちゃんを助けるときそんなに本気で殴ったわけじゃないんだけどなー・・・・。この世界の人たちと何度か力比べでもして、加減を覚えないとまずいっぽい?)
生まれ持ったわけでもなく修行をしたわけでもなく、ただ『貰った』だけの身体能力を使うのは想像以上に難しいだろう。
(んーまぁ聞いた感じ残ってれば入学できそうだしなるべく攻撃せずにいればいっか!)
・・・この能天気さは生まれつきだが。
恵がそんなことを考えている間にガザニアは天狐から助けてもらった時のことを聞いていた。
「・・・なるほど、分かりやすいチンピラに絡まれた天狐を助けていたから遅れたのか」
「えっ・・・・・・・・・・そ、そうだよ」
天狐を助けた所で初めてテストがあることを知ったとは言えなかった。
(なるほど少し一之瀬のことを誤解していたようだな・・・)
その一方でガザニアは恵のことを見直しはじめ・・・
「それはそうと『まほう』って?杖でも振るの?」
・・・ることは無かった。
「・・・何を、言っているんだ一之瀬?」
「だから魔法ってどう使うの?楽しそう!」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
およそ明日魔法の試験が控えている者の言葉ではない。
流石の天狐も危機感を覚え始めたのか、
「ちょ、ちょっと確認させてください。恵さん、魔法の事、知ってますか?」
「いや?何も?」
「・・・今から、勉強しましょう」
「・・・・・・・・」
ぽけーと首を傾げる恵と決意を新たにする天狐、そして頭を抱えるガザニアの3人はまず基礎的な勉強をし始める。
「魔法というのはですね、どんな生き物も持っている『生命力』を使って色々なことが出来る技の総称です。
その生命力の量は人によって違いますが、鍛錬によって増えていきますし、より難しい魔法も使えるようになります」
「でも気を付けなければならないのは、『生命力を使いすぎると最後には死に至る』ということだな。
まあそうなる前に気絶する例がほとんどだが、無理をしすぎると本当に危険だ」
端的に纏められた魔法の説明に、
「・・・うーん、もきゅもきゅ、要するに、もきゅ、まほうのちからってすげー、もきゅもきゅってこと?」
「しゃべりながら食べるなよ・・・」
「もきゅもきゅもきゅ」
「しゃべれよッ!!なんで食事優先!?」
「えへへ、冗談冗談。何も食べてないよ。まあ要するに危険な代わりにいろいろできるって訳だね。っていうか色々って何?」
そんな恵の疑問に顔を見合わせた二人は頷く。
「聞くより見た方が早いだろう」
立ち上がったガザニアは、天狐が持ってきたフルーツの一つを手にする。
「ちょっ!それ私の!!」
「もっとおいしくしてやるだけだ。1属性魔法『微々たる冷気』」
するとどうだろう。
手に持ったフルーツの周囲に白い冷気が満ちはじめた。
そしてそのままそれを恵へと投げ渡す。
「つ、冷たいっ!でもおいしそうだね」
「今のが簡単な魔法だな。属性は『水』だ」
「便利だねー、1ぞくせいまほう、とか言ってたけどそれは?」
「水属性のみで構成された魔法、それだけだ。9つある属性のな。当然、それらの組み合わせにより2属性魔法、3属性魔法とほぼ無限に魔法は存在する」
「まぁ9属性魔法とかは伝説にしか残らないですけどね。その分難易度も消費する生命力も天文学的ですから」
「でもさ、これで攻撃とかするの?つめたっ!でもちょっときもちーかも・・・くらいの反応しか来ないんじゃない?」
「どんな物も悪意があれば攻撃になりうるさ。1属性魔法『駆動低下』」
ぞっ、と、恵の背中に冷気が奔った。
・・・物理的に。
「寒ッ!え、なにこれ」
「周囲の空気を冷やした。原理的にはさっきのフルーツと同じだが、少し使い方を変えれば相手の動きを鈍らせることもできるわけだ」
ま、今となっては攻撃にしか魔法なんて使われていないようなもんだが。
先人たちの悪意の程を憂い、ため息をつくガザニア。
その横で。
「ふえええ寒いよー天狐ちゃんー」
「あうぅん、おしくらまんじゅうですね~」
ぎゅーっと抱き着き合う二人。
この落差である。
「いや、君ら仲いいな・・・」
「おや?ガザニア君も来る?」
「勘弁して下さい。いやマジで」
思わず敬語になりつつも。
「まあとりあえず、やってみたらどうだ?身体能力に自信があるなら、そうだな・・・時属性なんかがいいかもな。動きを早くできる魔法があるしな」
「なるほどねー、実践実践!」
当然、一之瀬恵は魔法など使ったことは無いだろう。
しかしガザ二アにはとある予想があった。
一之瀬恵は、異常だ。
いや天然が過ぎるとかそういうのではなく、ただの人間がソニックムーブを出すほどのスピードででこピン出来るか?
出来ようはずがない。
だとするなら、そこには何かの秘密があるはずなのだ。
考えられる可能性は・・・
(人間とは違う、異種族とのハーフ。見た目は人間でも流れている血が違うというとは稀にあることだ。とするなら魔法の才能も・・・)
身体能力が異常に良いなら、ヴァンパイアかマーメイドか・・・下手をすれば世界最強の種族、ドラゴンであることすらありうる。
(異種族とのハーフはかなり世間の風当たりが強い。親が言わなくてもおかしくはないが・・・無責任と言わざるを得ないな。まあ当然、助けられた天狐が興奮のあまり話を盛っている可能性もあるが)
どちらにせよ。
(これでわかるだろう。一之瀬恵が、何者なのかが)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます