二時限目・しぇあするしょうじょは、ちこくぎみ!
せっせと走り、大きな講堂風の建物の前に着くと、閉まった大扉の前に金髪で白い礼装を着た青年が立っていた。
年齢は恵と同程度、15歳前後だろうか?目を閉じ壁にもたれかかる彼は心なしか退屈そうだった。
丁度いいからテストの場所を正確に聞いてみようと近づくと、彼は片目だけを開けこちらを見る。
「ねね、そこのお兄さん。転入生試験の会場ってどこだか知ってる?」
「・・・ああ、知っているが。それがどうかしたのか?」
「いやー、ちょっと遅刻しちゃってね。場所教えてもらえないかな」
なるほどなるほど、と大きくうなずく。
「ソレは奇遇だな。俺も転入生試験を受けに来たんだが、なぜか、なぜかパートナーが来なくてな。一向に始まらないし仕方なく外で待っていたんだよ。ちなみにそのパートナーは女性で一之瀬恵というそうだ。心当たりはあるか?」
そこで恵はようやく気が付いた。
「・・・・・・・・・・・・・・もしかしなくても怒ってる?」
「当たり前だろうッ!!予定時刻より2時間遅れているのだぞ!どこで何をしてたんだ一之瀬!」
「ごごごごごめんなさいい!ちょーっとそのー・・・寝坊しちゃって、ね?」
「ね?、じゃないだろう!君のような子がパートナーで3日間のテストを勝ち抜けるのか?全く・・・。さあ入るぞ、教官とライバルがお待ちかねだ」
ひゃー、すっごい怒られちゃったや。でも流石に時間には気を付けよう・・・。と自分を戒め、講堂の中に入っていく青年について行く。
中はとても広く、荘厳な飾りつけがされており備え付けの椅子には数十人の人間やら獣人やらがこちらを見ていた。
「うわぉ私達注目の的だねえ」
「9割方お前のせいだろうが・・・。ゴホン、教官!第27班2名、揃いました!」
そういうと壇上にいた巨剣を背負うごつい大男が返事をした。
「よぉしっ!27班、着席してよしっ!遅れたがブリーフィングを始めさせてもらうっ!まずは俺の自己紹介、俺はドガ・ファーナント!〝王立クレセント学園〟の特別教官だっ!これから三日間、諸君らの力を試させてもらうわけだが、このテストもまた諸君らの成長のかぎになるだろうっ!命を落とさない程度に死ぬ気で頑張ることだッ!」
「「「はいっ!!!」」」
教官の大声に、威勢のいい返事を返す転入生候補たち。
そんな中でも恵はマイペースに青年に小声で話しかける。
「そういえば君はなんて名前なの?」
そう聞くと少しためらいながら、
「・・・ガザニア・ヘヴゥンだ」
「ふーん宜しくね、ガザニアくん!」
「・・・・・・まああまり宜しくしたくないが。一之瀬だってそうじゃないのか?他の組は同性同士だが、俺たちは人数的に余ったからこうなったってこともあるしな」
「え、ああそういうことなの?まあいいんじゃないかな、一緒に生活する訳でもあるまいしさ」
「・・・三日間どう生活するつもりなんだ?」
「そりゃ・・・・・・・・・・・・・・・え、まさか同室?ルームシェア!!?そういうのは友達から始めて付き合ってからしよ?」
「うん、頭がお花畑なのは分かった」
貞操観念があるのかないのか知らないが、少なくとも危機管理がない恵にガザニアは頭を抱えつつ教官の話を続きを聞く。
「3日間ある行程でやることは決まっているっ!1日目はパートナーとの連携を取れるようにすることっ!2日目は魔法模擬訓練っ!3日目は班同士で何でもありの蹴落とし合いだっ!残った上位3組が入学となる!!」
「あ、あれ聞いてる限り戦うことしかしてなくない?ペーパーテストとかないの?」
「はあ?一之瀬、本当に何をしに来たんだ?〝王立クレセント学園〟は王宮や貴族家に仕える戦闘と奉仕両方を兼ね備えた使用人や、誇り高き騎士を育成する機関。奉仕や誇りを学園で学び、持ち前の戦闘技術をさらに伸ばす場所だぞ?」
「なるほどねー、じゃあ私はメイドさんかな?ここで先生とかしても楽しそうだなあ」
「・・・嫌味など聞いていないな。言うだけ無駄か」
ようやく悟ったガザニア。そこに教官の声が響いた。
「では夕方点呼を行うっ!それまでは各自友好を深めるもよし、おのれの技を見せるもよし好きにしたまえ。俺の腕前を見に来てもいいんだぞはっはっは!!」
「よし、一之瀬。まずはどうする?魔法か武術、どちらから見せ合うか」
「え?まずはお昼ご飯でしょ?今おなか減ってそれ以外考えられないし」
「・・・・・・・・その腹の据わり方は最早尊敬の域だな」
だがまあ空腹では体の動きも鈍る。焦りすぎは良くないと考え席を立ったところで、
「はぁまったくやってられないですわねー。こーんな頭の軽そうな男女を狭い部屋に入れてたらたちまち増殖しそうだわ」
「本当ですねえ姫」
金髪のドレス姿の女の子と、その取り巻きのような者が数人集まってくる。
「・・・・・・行くぞ一之瀬」
「増殖?なんで?」
ガザニアの言葉に従わず、きょとんとした顔で尋ねる恵にドレスの女の子があざ笑いを返す。
「決まっているじゃない?あなたのような下賤なおバカさんは貴族崩れのガザニア程度がお似合いだからよ」
「・・・一之瀬のことと俺の境遇は関係ないだろう」
「いやぁ、厄が移るわ、近づかないで頂戴な。私は領地を持つ貴族の娘、アオリア・エンジール・サブスタンスよ?奴隷だか平民だかに触られるような人間じゃないの」
くすくすと笑うドレスの女の子、アオリアと取り巻き達。
「・・・一之瀬、やはりこの組み合わせには無理がある。教官に訴え出よう」
「えー別にいいんじゃないかな、増えたりしないし」
「・・・一之瀬さん、思いのほか頭が固いのね?ちょっとした冗談・・・」
「だって3日で出産できないでしょ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・いやそこ?」」
恵の本気で不思議そうな姿にペースが乱され、アオリアもガザニアも何も言えないまま、恵は
「まいっか。ほらガザニアくんいこー、美味しいごはん屋さんおしえてよー」
「お、おう・・・」
呆然と二人を見送るアオリアだったが、少したって我に返ると、
「・・・絶対明日の魔法訓練でぼこぼこにしてやるわ・・・っ!!」
そう叫ぶのだった。
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