一時限目・しけんのしょうじょは、ひまじゃない!

狐耳の少女が脅されているところに偶然通りかかり、助けた恵は二人で王国の大通りへと来ていた。

商人たちが客引きをし、路上ミュージシャンが歌うこの活気のある場所に目を奪われていると、狐耳の少女が話しかけてきた。


「あの、ありがとうございました危ないところを・・・」

「いいんだよ~。狐ちゃんの名前はなんていうの?」

「私は天狐(てんこ)って言います!」

「うわぁ・・・!かっこかわいい名前だね」

「大仰な名前のわりに、私はなんの力もないんですけどね・・・」

「そんなことないよ!」


えへへと力なく笑う天狐に恵はがしっと抱き着き耳を撫でた。


「ふゅあっ!?・・・はふぅ」

「んんーもふもふしてる~いいなぁこんな耳が私にもあったらなぁ・・・ちょうだい?」

「ああああげませんよっ!?」

「じょーだんだよじょーだん!コノミミヒキヌケソー、なんて思ってないって」

「・・・・・・(めぐみ・・・こわい・・・)」


天狐の心の中で恐れられ始めていることなど知らない恵は思い出したように問いかける。


「そうそう、私ね〝王立クレセント学園〟に転校してきたんだけど道に迷っちゃって。場所知ってたら・・・」


そこまで言いかけた恵に、天狐は驚いたように聞き返す。


「転校生って・・・本当に学園に転校してきたってことだったんですか!?私その学園の1年生なんです!」

「ほんとっ!?すごい、運命だね!今日は学校ないの?」

「はい、明日からですよ。クラス分けとか聞きました?」

「ううん聞いてないよ」


その恵の言葉になおさら感服したような天狐は、意図せず恵に現実を突きつけた。


「じゃあ今日転入できるかどうかのテスト日なんですね!そんな日にもかかわらず私の事助けてくれるなんて恵は本当にやさしい人です!・・・・・・・・・・ってどうしました?」


大通りを天狐の先導で歩いていたのだが、唐突に立ち止まった恵に気づき振り返る。

すると恵は


「・・・・・・・・・・・・・・てすと?」


世にもまれに見る間抜けな顔でポカーンとしていた。


「へ?違いましたか?」

「・・・・・・・・・・・・・・きいてないよ?いつでもにゅうがくする、もんこはひらかれてるって」

「え、ええ!?転入生には普通よりも厳しい試験があって合格率は低いはずじゃあ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・てすと、きいてない。おちたら、わたし、ろとうにまよう。みよりもない、ほうろうしゃになっちゃう」


ポカーンとした顔のまま立ち尽くす恵の片言な言葉に、最悪の状況を考えた天狐は恐る恐る、


「・・・あの、もしかして何も知らずに転校するって言ってたんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


その、『流石にそれはないよね~』という雰囲気の天狐に黙ったまま半泣きになる恵。

その姿に天狐は、


(クラスメイトになる予定の私がしっかりしないと・・・っ!!!)


と決意を燃やした。

この狐っ娘、実に苦労人気質である。


「と、とりあえず急ぎましょう!テストはどうなるか分からないですけど、何とか私からも説得してみます!」

「うぅ・・・ごめんね迷惑かけて・・・」

「助けてもらったんだから当然ですっ!行きましょう!」


そういうと天狐と恵は学園の方へと走り出すのだった。




「転入生試験で遅刻したのは歴史上、一之瀬だけだ。これがどういう意味か分かるな」


校門の前でメガネの女性に睨まれる恵。

まあ当然、ただの学生である天狐の説得に力があるわけでもなく、ごく普通に怒られていた。

更に残念なことがあるとすれば、


(歴史上一人・・・。ってことは私の名前が残って有名になっちゃうってこと?まずいよ、そうなったらこの先生だって巻き込んじゃう)


「分かります!でもこのことはどうか内密に!」

「・・・反省の色なしか」

「(めっ恵さんっ??!)」


天狐の想定よりも恵が不思議な子だったことだろう。

とある理由から有名になると大事になるとはいえど、それを知るはずもない先生はここまで図太いことを言う生徒を見たことが無いらしく、ため息をつく。


「・・・もういい。ほかの受験生はもう揃っているぞ。三日間の試験でのパートナーが待っているからそこに早く行ってあげなさい」

「分かりました!見逃してくれてありがとう先生!」

「いや見逃すなんて一言も・・・


そんな困惑を含めた言葉など聞きもせずに、恵は指さされた方へ走っていった。


「・・・天狐、何なのだあの子は」

「さ、さあ・・・。でも私を助けてくれた勇敢ですごい人なんですよ。お昼にお弁当作ってきてあげよーっと♪」


ウキウキした様子で学園の料理室へと向かう天狐を見て、本当に悪い子ではないようだと思った先生だったが、今後もしかしたら一之瀬を担当することになるかもしれないと、げんなりするのだった。

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