日陰少女、はじめました。

Hurricane(そよ風)

プロローグ・ひかげのしょうじょ、めざします!

≪拝啓、パパとママ。

最近顔を見ていませんが、どうお過ごしでしょうか?

春を迎えたものの、まだまだ寒さが厳しい時期です。どうかお体にお気をつけください。

ちなみに私は、この春・・・・・・≫



「ぐひゃひゃひゃは、金出せ金をよぉ!!」

「ひ・・・っ!た、助け・・・」


とある路地裏。

鱗のような鎧を着ている男の二人組が、

人間のような体に、狐のような耳としっぽを持つ背の低い少女を囲っていた。

実に、悪者然とした連中である。

狐の少女は大通りのほうを見るも、誰も気づいてくれない。

いや、違う。何人かはこちらのほうを見ているのに助けてくれるどころか、嫌がるように小走りで走り去って行ってしまっているのだ。

狐の少女は悟る。これが、人間の都市なのか、と。

その様子に気が付いた男の一人が、あざけるように話す。


「はははっ、獣人なんかが王国の大通りを堂々と歩くからこうなるんだよッ!おとなしくスラム街のほうに溜まってればいいものを」

「・・・っ!」


やっぱり人間は恐ろしい生き物なんだと、そう思い。泣き出しそうなのを必死にこらえていると、


「えー・・・と、何があったかは知らないけど、なんかおびえてるみたいだしやめてあげたらどう、かな?」


後ろから声がした。


「・・・?この餓鬼のお仲間かと思ったら、人間の娘じゃねえか。下手な正義感は身をほろぼすって習わなかったか?」

「あなたたちみたいな小物がそういうこと言うと死亡フラグがたつ、ってことは知ってるよ?」

「小物、だと?さてはてめえよそ者だな。俺たちを【灼熱と紅蓮のアンパール兄弟】だと知らねえんだろ?!」


男が乱入してきた少女の腕をつかみひねりあげようとする。が。

一切動かない。まるで石像を相手にしているかの如く微動だにしないのだ。


「な、なん?え?てめえ何者、


言い終わる前に少女がでこピンを額に叩き込む。

そのでこピンは軽く亜音速をたたき出し、ソニックムーブのような空気の波動を伴いながら、

男の額にめり込んだかと思うと、吹き飛んだ男は石畳の床に当たり、上半身が地面に埋まった。


あまりにも悲惨といえば悲惨な沈み方に、恐怖する‘二人’。

・・・人間の男の片割れだけでなく狐の少女も恐怖していたゆえに。


「ごめん、知らないや。えっと・・・微熱のアンパンさんだっけ?」


全然ちげぇ!!と二人とも思ったが、緊張で声には出せなかった。

ひ、ひいいいいいいばけものぉぉぉ!叫びつつ、倒れた片割れを引っ張りながら男が走り去っていく。


「人を化け物扱いなんて失礼な人ね。・・・さて、大丈夫?立てる?」


優しく笑いながら手を差し出す少女に、狐の少女は問いかける。


「あの、あなたは・・・?」

「ああ私?えーっと・・・転校生、っていえばいいかなぁ。一之瀬恵(いちのせめぐみ)って言うの。よろしくね」



≪・・・・・・この春、私は、異世界の学校に転校することになりました。≫

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