第7話

 駆け付けた先には、やはりロビンの姿があった。

 タオと赤服のウィルが辿り着いたとき、ロビンとその仲間たちは崖の上の小さな砦に陣取っていた。崖の下ではブギーザコヴィランたちが不気味にうごめいている。とは言え、弓の達人揃いのシャーウッドの森の住人にとって、奴らはただのまとのようなものだ。

「来てくれたのはウィルとタオか。俺たちは狩りに行っていたんだが……邪魔が入ってな。追い払うのを手伝ってくれ」

 そう言いながら、ロビンは正確にヴィランを片付けていく。降り注ぐ矢を前にしてヴィランは次々と散っていく。タオとウィルも長弓を構え戦列へと加わると、そのも、ロビンの角笛に応えた弓兵たちが次々と崖上がいじょうへと集まる。


「タオは、こいつらと何度も戦っているのか?」

 崖下がいかのヴィランたちは一掃され、まばらに残るのみとなった頃、ロビンが尋ねた。ああ、とだけ答え、タオは弓を引く。勢いよく放たれた矢はヴィランには当たらず、虚しく地面に突き刺さった。

「別に深く詮索するつもりはないが……ただ、奴らのことをよく知っているように見えたからな。ほら、奴らは目標に向かって一直線に進んでくることが多いだろ」

 そう言ってロビンが長弓を引くと、矢はヴィランの頭部を串刺しにする。

「逆に、こうやって――」

 足元にあった小石を投げて、そのまま素早く矢をつがえる。ヴィランは石をひょいと避けたが、その次の瞬間には、矢の餌食えじきになっていた。

「――ちょっかいを出してやると、横に避ける」

「オレはあんまり意識したことなかったな、ヴィランの動きなんて……」

「他のことは知らないが、少なくともこの近くの奴らは、そんな感じに動くな。弓ってのは、相手を観察することから始まるんだ」

 ロビンには色々なものが見えているのだろう。シャーウッドの森の仲間たちやヴィランのこと、当然、客人であるタオたちのことでさえ。あるいは木々の息吹や生き物たちの声、森のささやきさえも見え、そして聞こえているのかもしれない。シャーウッドの森とは即ちロビン・フッドであり、ロビン・フッドという男とは、即ちシャーウッドの森そのものであるのかもしれない。

 緑の帽子、緑の服、そして長弓。その英雄ヒーローとしての威容に、タオは少しの間だけ見とれてしまった。

「俺たちはこいつらのことを『sceaduと呼んでいたんだが……なるほどな。カオステラー、か」

「ロビン、カオステラーに関して何か心当たりはないか? この黒いバケモノを生み出している奴の手がかりが欲しい。何でもいい」

「ああ、心当たりはない――というわけでもない。偵察に行った者たちによると、近くの教会からこいつらは来ているとか。あそこには最近兵隊がたくさん集まっていて、俺たちも警戒していたのだが……よし、30!」

 三十本目の矢が三十体目のブギーヴィランを葬る。必中、そして必殺。森の男たちからも感嘆の声が漏れる。弓の達人揃いのシャーウッドの森の中でも、ロビンの腕はやはりずば抜けていた。


 ヴィランはすべて片付いた。圧倒的な戦力と地の利を生かした戦いで、ロビンたちは容易に勝利を収めることができた。後片付けをしていると、男たちがタオのもとへ集まってくる。

「新入り、いや、タオもなかなか筋がいいな」

「なあ、お前も俺たちの仲間に入ったらどうだ? 何か訳ありなんだろ?シャーウッドの森はどんな奴でも大歓迎だぞ」

「最近は変なバケモンたちがウロウロしてるからな。腕の立つのは幾らいても困らねえぜ。いくさも近い」

 口々に好き勝手言う男たちに対し、おいおい、とロビンが割って入る。

「タオはあのお嬢さんたちと一緒に旅をしているんだ。それに、俺たちみたいなおたずね者の集まりには引き込めない。今はあのバケモノたちを追い払う手伝いをしてくれているだけだ」

「でもロビンもタオのこと、結構買ってるよな」

「まあ、な」

 盛り上がる男たちを尻目に、タオは矢を拾う。

 シャーウッドの森はかすかに震え、雲は黒さを帯び始める。やがて一本、二本と雨筋あますじが森に垂れ始める。雨雲が森を包む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る