第6話
木が木を打つ乾いた音が、小気味良く続く。シャーウッドの森の弓の名手と言えば、誰もがロビン・フッドの名を挙げるが、剣の使い手と言えばウィリアム・スカースロックだ。赤服のウィルは叩き込まれる剣撃をことごとくかわし、あるいは跳ね返す。相手が大きく振りかぶったのを見計らうと、脇腹に
「タオ、あなたは無駄な動きが多すぎます。そのまっすぐさは買いますが」
「くそー、やっぱり身体の使い方が上手いな」
肩で息をするタオに対して、赤服のウィルは少し汗ばむ程度。涼しげな表情でタオの方を見る。
「『空白の書』というのは、良いものですね。自由だ」
「唐突だな。……その代わり、安住の地はないぜ。どこに行っても結局はイレギュラー扱いさ」
「なるほど。貴方がシャーウッドの森に惹かれつつあるのも、そう言われるとわかりますね」
「別に……惹かれるとか、そういうことは、ない。たぶん。俺たちは旅の途中だから。用が済んだらまたどこかへ行く」
「隠さずとも結構です。森の住人となった人間たちを、ずっと見て来ましたから。誰もが
くしゃくしゃと髪をかき上げるタオを尻目に、赤服のウィルは木々の裂け目に囁くように語りかける。
「貴方がシャーウッドの森に惹かれるように、私は貴方たちの自由さに惹かれてしまう……とは言え、私はこの『運命』を気に入っていますよ。偉大な英雄、ロビン・フッドの側にいられるなんて、まさに
ウィルもタオも、それきり黙ってしまった。
事実、タオはこの森に惹かれつつあった。ここにはタオの求めるものがある。癖こそあるが、なかなかに魅力的な仲間たちがいる。義賊ロビンという強い男がいる。緑の装束で森を駈ける姿、そこには彼の求めるロマンがあった。
欲してはいけない。求めてはいけない。想区を転々とする『空白の書』の持ち主は、想区に惹かれてはいけない。それはタオを含め、四人が常に意識していることだった。彼らが帯びた使命を考えれば、当然のことだ。過度な思い入れは身体に毒でしかない。
シャーウッドの森は、そよそよなびく。
木々を通り抜けて鳴り響いた音に気付いた二人は、一度だけ目を合わせ、音の方向へと、そのまま駆け出した。タオはもうその角笛の音色を覚えてしまっていた。ロビンがいつも腰に下げている角笛。銀細工が施された角笛。その音が森にこだまする。
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