第4話

「放て!」

 一斉につるから放たれた矢が、ヴィランに突き刺さる。ヴィランに無数の矢が降り注ぐが、ヴィランたちもまた、無数に出現し続けている。

「もう一度、放て!」

 声の大きな号令係の男が、更に声を張り上げる。無数対無数の戦い。これは、人間側に不利な形勢だ。

「総員、突撃!」

 刀剣部隊が先陣を切り、ヴィランの群れを切り崩しにかかる。加えて、弓部隊もその最中さなかに参戦する。

 本来、乱戦の中で弓は御法度ごはっとである。同士討ちの可能性が極めて高い、危険な存在。だが、森の人々は一風変わった戦闘スタイルでヴィランを薙ぎ倒していく。剣兵と弓兵が一組となり、背中合わせに戦う。最も無防備な背後をそれぞれ守り合い、近距離の敵を剣で倒し、中長距離の敵を弓で倒す。彼らはその二人組をいくつも作って、舞うように戦っている。言葉で言い表せば簡単だが、薄氷の上を歩くような危険な戦闘スタイルである。だが、彼らの足取りは軽やかだ。ロビン・フッドは赤服のウィルと組み、縦横無尽に敵中を移動する。

「あれは……全員のことを信用していないとできないやり方ですね」

「そうね、自らの腕だけでなく、味方全員の腕前を信用できないと、あんな風にはできない」

「よし、この間に僕たちはあっちを叩こう」

「とりあえず、あの黒いのを壊しちまえば、どうにかなりそうだな」

 一言で表すならば、コアだった。2つの黒いコアが並び、そこから敵が這い出てくる。まるで異界と繋がっているようだ。一つを壊そうとすれば、もう片方からヴィランが湧き出し、妨害しようとする。それを何度か繰り返している間に、ロビン側に何名か負傷者が出始めたようだ。いつまでも、いたちごっこを続けているわけにはいかない。

「急がなきゃいけないみたいだね。どうしよう」

「うーん……私たちもロビンたちの真似をすればいいんじゃないかしら?」

「……なるほど」

「えっ、つまり何をすればいいんだよ、お嬢」

 シェインがタオの腕を引き寄せる。エクスとレイナも目を合わせて頷き、核<コア>の破壊へと向かう。別に背中合わせで戦うわけではない。ただただ単純に、二人組を二つ作って戦うだけだ。

 とはいえ、それは単純な話ではない。人数をかければ、その分攻撃も防御もぶ厚いものとなる。戦力の分散は、時に悪手あくしゅだ。しかし、四人もまた、お互いのことを信じている。知り尽くしている。隣のチームが負けるはずがない、確信めいたなにかが全員の胸の中にあった。


 ふたつのコアはほぼ同時に破壊され、残されたヴィランが片付けられる。まだヴィランたちの纏っていた黒い霧のようなものがわずかに残っており、エクスの感覚を乱す。不思議な感じだ。ほんの少しだけ、気分が悪い。

「タオチームの方が早かったわね……」

「まあ、シェインたちは年季が違いますからね」

 胸を張るタオは鼻高々だ。連携という面において、エクス・レイナチームには、今のところ勝ち目はなさそうだ。

 被害の全容が見え始めると、はしゃいではいられない状況だった。数名が負傷し、設備も幾つか破壊されている。

 エクスたち四人は見られていた。見つめられていた。この場にいる全員に。そう、警戒されている。『お客様』だった彼らがヴィランと化したのだ。当然、この四人も警戒されないわけにはいかなかった。

「私たちは『空白の書』を――」

 皆がレイナを、品定めをする。誰も『空白の書』など知らなかったから、レイナのその言葉は無意味だった。四人を包囲する圧力が、一層強くなるのを感じる。

 ロビンがつかつかと歩み寄り、四人の目を見る。一人一人、順番に。

「彼らの瞳は美しい。ロビン・フッドを信じられぬという者があれば、いますぐ前にでよ」

 誰も動かないのを確認し、ロビンは不器用な笑みを一行に向けた。

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