第2章
第3話
どん、と木の大皿に盛られた鹿の炙り肉に、タオがかぶり付く。腹を空かせた一行にとっては、最高のご馳走だった。
「ンァうまい! うますぎる! 生きててよかった! 最高!」
「ん……タオ、食事中は、静かに、しなさい……もぐ」
「……そうですよ。マナーが、悪いです、んぐんぐ」
「みんな、食べながら、喋ってる、時点で、だめだけどね、うんおいし」
「どうだ、食べているか」
ロビンが骨の付いた鹿肉を1本取り、するりと軽い身のこなしで椅子に座る。戦いの
「ああ。ありがとう、ロビン」
「ロビンに会えなかったら、僕たち危なかったです」
「困っている人間を助けただけだ。ゆっくりしていってくれ。ここは安全だし、食べるものもある。ここにいる奴らは全員、俺の仲間だ」
ロビンはぐるりと広場を見回す。さながら
「……あの、あそこに座っている人たちも仲間なんですか?」
そう言ってシェインは少し遠くのテーブルを見やる。
「あちらも、皆様と同じようなお客様ですよ」
ロビンの隣に立った男が言った。
「この者たちは奴らとは違う。森で迷って困っていたし、荷物を調べさせてもらったが、大したものも持っていなかった。ただの旅の者のようだ」
「そうですか。それは大変失礼致しました。私の名前はウィリアム・スカースロック。仲間たちには赤服のウィルと呼ばれております。以後お見知り置きを」
赤服のウィルが
「気を悪くしないでくれ。俺たちには仲間がたくさんいるが、敵も多い。時には、疑い深すぎなければならないんだ」
一拍置いて、赤服のウィルとロビンは話を再開する。
「あちらの大きなテーブルにいるのは、私たちのお客様方です。このシャーウッドの森には街道が通っているのですが、そちらを通りかかった方々を我々の晩餐にご招待しているのです。まあ、目隠しをして無理やり連れてくるのですけれど」
「そして、食事の代金を頂いている。お金持ちな方々は、金など余るほど持っているから……手持ちの有り金全部を頂いても、さして問題ないのさ」
四人の顔が若干こわばる。お世話になっているとはいえ、彼らは盗賊なのだ。
「そんな顔をしないでくれ。俺たちは人を殺したり、物を盗んだりするのは好きじゃないんだ。そして、貧しい者や困っている者、何よりまっとうに生きている者たちからは絶対に金を取らない。重い税金や賄賂でぶくぶく太った奴らから食事代を貰って、頑張って生きている人たちに返している。あるべき場所にお金を戻しているだけなんだ」
「いわゆる、義賊ね」
「……なるほど」
ロビンはかぶりを振って、
「義賊とか、そういうのじゃないさ。十字軍の遠征で国王陛下はいらっしゃらないし、今は大変な時代だからな。俺たちみたいなのが頑張らないと、偉ぶった奴らが好き勝手してしまう」
「ここにいる者たちにも、元は役人にいじめられていたり、罪もないままにおたずね者となっている者が多くいるのです」
ロビンは目を細め、広場を見る。緑服の者たちは目を輝かせ、今日という日を精一杯生きている。このシャーウッドの森で。
「素敵な場所ね」
レイナが口元を軽く拭く。食べ方が可愛くも優雅なのは、さすが元お姫様といったところだ。
タオがロビンをじっと見つめている。
「ロビンって、戦ってる時とはちょっと雰囲気が違うな。もっと冷たい感じのイメージだった」
「ああ、それはな……よく言われる。森で戦っているときは特にそうなってしまうらしい」
「普段は優しく強い、我らが親分、と言ったところなのですが」
「おいおい、そういうのはやめろ。そんなことより、お前たち、あんなところに迷い込んで何をしていたんだ? 旅慣れているようだが、見かけない格好をしているし……巡礼者か?」
えっと、とエクスが事情を説明しようとしたとき、
「ロビン、大変だ! 様子がおかしいぞ!」
走ってきた男は、『お客様』を『警護』していたうちのひとりだ。ロビンは素早く机の上に立ち、強く大きく角笛を吹く。その
二人は、確かに大変おかしなことになっていた。元々太っていた身体がさらに膨らみ、ギシギシと不愉快な音を立てながら大きくなっていく。服が弾け、ふたつの鞠のように、ぱんぱんに膨らむ。もはや元は人間だったとは思えないその姿は真っ黒に変色し、それはまさしく異形というほかなかった。
森の住人たちもにも動揺が走る。ロビンは低く深い、よく通る声で叫んだ。
「うろたえるな! 全員武器を持て!」
限界まで張りつめた二つの玉はほぼ同時に破裂し、中から子供ほどの大きさの怪物たちが無数に吐き出される。ヴィランだ。元は太った人間だった闇の塊の中から、多数のヴィランがわらわらと這い出てくる。
ロビンたちも既に戦闘準備を完了していた。隊伍をなした長弓部隊は弓を引きしぼり、長剣や槍を持った突撃部隊も身構え、合図を待っている。
四人も準備万端だ。
「よっしゃあ、オレたちも行くぞ!」
タオの声よりも先に、再び『空白の書』を取り出す。
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