第2話
ものの数分ほどだろうか、エクスは幹にもたれて休んでいた。
眼をつぶり、森の音色を四方八方から感じる。遭難しているにもかかわらず、こうしていると、とても居心地が良い。
首のあたりに
目を見開くと、弓を構えた男がすぐそばに立っている。
「……動くな」
低く無骨な声が響く。音もなく、そして気配もなく、エクスの首筋には
「待って」
レイナが
緑の帽子に緑の服。その瞳は、
その一連の動きはあまりにも素早く、四人はその動作を見とれるかのように、ぼんやりと眺めてしまっていた。男の弓から放たれた矢は、一直線にタオへと向かって飛翔し――そのままタオの耳をかすめて、ヴィランの額へと突き刺さる。
「ヴィラン!」
タオがとっさに叫んだ。ヴィラン、狂った想区の狂った住人、カオステラーの
「タオ兄、大丈夫ですか」
「ああ、なんとか。ビックリしたけどな。緑の旦那、ありがとな」
「礼はあとでいい。囲まれている。お前たち、自分の身は自分で守れるか」
緑の男の問いに、四人はヒーローの魂をもって答える。剣、楯と槍、両手杖、魔術書がそれぞれの手に握られ、物語の英雄たちの力が全身に――全身どころか得物の先の先まで――満ち満ちる。
男が放った矢は、正確無比にヴィランの額に風穴を開けていく。力尽きたヴィランたちは砂のように崩れ落ち、紫がかった黒い霧となり、やがて大気に混じって消えゆく。
矢が貫き、ナイフが払う。間合いと武器を自在に操る男の戦闘は、細やかで軽く、そして激しい。ブギーヴィランと男との戦闘は、あまりに一方的だ。
小型ヴィランの群れを緑の男に任せ、エクスたちはナイトヴィランと対峙する。重く分厚い甲冑に身を包んだこのヴィランは、手に持った丸楯で攻撃をことごとく受け止め、無効化する厄介な相手だ。同じく大楯を持った
タオは低く低く姿勢を保ち、相手との間合いを見定める。
「いつでもいけるぜ! エクス!」
「オッケー、タオ! しっかり踏みしめて!」
そう言ってエクスは助走をつけ、大地を蹴り、低く構えたタオの肩をも蹴り、ナイトヴィランの頭めがけて大跳躍する。そして、空中で
兜を強く打たれたヴィランは、一瞬よろめくが、その攻撃さえをも強固な甲冑で跳ね返す。空中で行き場をなくしたエクスは、そのままバランスを崩しながら落下する。が、これは
「うしろに――私がいるわよ!」
前にエクスとタオ、後ろにレイナ。挟撃されたヴィランは横っ跳びに移動し、なんとか形勢を立て直そうとする――が。
「……シェインのこと、忘れてもらっては困りますよ」
手ぐすね引いて待ち構えていた
残ったヴィランを殲滅し、武装を解く。ヒーローたちの力が身体から離れていき、自らの身体の感覚が戻ってくる。全身の軽さは抜けていくが、高揚感は未だ抜けきってはいない。
「さて、今回の『主役』のお出ましね」
レイナが全身を緑に包んだ男に向き合うと、エクス、タオ、シェインも男の方を見やる。強さと速さを見せつけた緑の男も、ひと仕事終えて歩み寄ってきていた。男の手には素朴な飾りのついた長弓が握られている。
「いい一体感だ。ずいぶんと戦い慣れているな」
「あなたほどじゃないわ。とても強い」
「俺はこの森のことを知っている。丘に盆地、川に池、そして草木の一本一本まで。この森は俺の庭であり家なんだ」
そこで、男は居住まいを正して緑色の帽子を取ると、四人に向かってうやうやしく一礼した。
「俺はロビン――ロビン・フッド。ようこそ、シャーウッドの森へ」
そう言うと、ロビン・フッドは、木々の切れ目の赤みがかった夕雲に向かって、強く
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