幕間


「君ならきっと助けられるさ」


 ○


「――というわけで、怪物は古寺くんと神保くんによって見事撃退されたのでした。めでたしめでたし」

「古寺くん、そんな活躍もしてたんだ」

「文武両道を地で行く人だよねぇ」

「うんうん。……えっと」彼女は指折り数える。「これで五人、かな。あと二人残ってるね」

「ああ、まあ大したこともなく見つかったよ」彼はそこから先の話をはぐらかす。「一人はその後ですぐ会えたし、最後の一人にいたっては、なんとSF同好会の会員だったんだ。だから、実は最初っから会っていたんだよ。顔が全然違うから最後まで気づかなかっただけで」

「どんな人だったのか気になるなぁ」

「縁があったら、また出会えるかもね。僕は、もうあんな目に遭いたくないけど」

 そう言って嘆息する彼に対し、彼女は小首を傾げる。

「でも、それぐらいなら、いつも通りじゃないかな? 文化祭の時に比べたら、まだまだ簡単な事件だったと思うよ?」

「あー、いや、それはね」気まずげに、彼は頭を振った。「いつもは問題が起きて、それに対処するのが僕らの仕事だけど。あの時は、問題を起こしているのが僕だったから。何て言うのかな、精神的にってやつ」

「プレッシャーだね」

「そうそう。責任重大っていうか、責任を被せられるというか。それであの時は自分に余裕が無くてさ。だから、あんまり話したくなかったんだ。自分が未熟だったってことだから」

 嘘に嘘を塗りたくる。真実をまだ語らぬために。

「でも、ちゃんと解決できたのなら、未熟じゃないよ」

「そうかな」

「そうだよ。とも君はもっと自信を持たなきゃ」

「過大評価だなぁ」

 彼の謙遜に、彼女は、ううん、と小さく首を振る。

「何が起きても、いつも最後は必ず何とかしてくれるから」

「けっこう失敗も多かったよ」

「それは最初の頃だよ。今はもう大抵のことは簡単に片付けちゃうじゃない」

「今は、もう学級委員じゃないけどね」

「うん……そうだね」

 彼女の声から元気が去っていく。

 彼は失言を埋め合わせるべく、気づかれないように話題を戻そうとする。

「あの、そういえば」しかし彼が口を開く前に、彼女の方から先に言葉が出た。「今のお話を聞いていて思ったんだけど。私、その場にいたんだね」

「え?」彼は目をパチクリとさせた。「覚えてないの?」

「えーと、そういう事があったってのは覚えてるんだけど、それが、とも君が増えていたのと関係していたって知らなかったんだ」

「ああ、そっか」彼は内心で安堵する。「じゃあ、知らない内に巻き込まれてたんだ」

「そうだね。変な感じだなぁ」

 小さな笑い声を立てる彼女を見ながら、彼は彼女について語ることはしない。

「あのさ。前々から何回も、何、回、も、口酸っぱく言ってるけど、無茶しすぎだよ」

「ううん、大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない。皆心配するから駄目だって言ってるでしょ」

 彼と彼女にまつわる物語を紡ぎながら、彼は決して語らない。

「最後まで、とも君はずっと言い続けたね。他の人はもう慣れちゃってるのに」

「慣れるわけないよ」

 彼は語らない。彼女の話を。

 三年間奔走した彼の話でもある、彼女の話を。

「最後に、これで最後にしたいけど、言わせてもらう。自分を大事にしてよ――東森さん」


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