幕間
毒喰らわば喰らい尽くして毒を制す。
○
「――何にしても、一番大変だったのは文化祭だよね。楽しむ暇も無いというか」
「準備の時から大騒ぎだったし、後片付けも大変だったし」
「本当に、お祭り騒ぎって文字の通りだよねぇ」
二人が語らう間にも、陽は傾き続けていた。
空は日没に向けて残り火の色に変わっていき、教室の床に横たわる影も急速に伸びていく。
二人に残された時間は、もうあまりない。
「去年の文化祭もさ。三年間学級委員やってきて、色々と慣れていたから、たぶん大丈夫だろう。って思ってたんだけどね。今までで一番大変なことになっちゃったもんだから、自信を失ったというか、打ち砕かれたというか……」
「砕かれたのは校舎だったけどね」
「うん。正直やり過ぎだと思った。暴走した時の滝上さんは本当に手に負えない」
手をひらひらとさせ、呆れたような息をつく。
「その時も実感したんだけどさ。学級委員の仕事だけじゃなくて、クラスの出し物も手伝わなきゃいけなかったし、身体がもう一つ無いと身が持たないな、って」
「私も、もう一人くらい私が欲しいな」
「君が身体を複数持ってたら、無茶ばっかりするから駄目」
「えー」
「えーじゃない」
「むー」
「むーでもない」
子どものように脹れた彼女は、そこでふと、何かに気づいたようだった。
「あれ、でもさ。去年、とも君増えてたよね?」
「あー……」
彼は語尾を延ばし、目を泳がせ、彼女から窓の方へと顔を背けた。
「ありましたねそんなことも」
「え、あの、大丈夫?」
「だいじょーぶ」
「声に力がないよ?」
「ちょっと色々あったんですよ。はい」
彼は再び顔を彼女へ向けなおす。
「五、六人ぐらいに増えた僕が学校中に散らばったのを探し回るのは大変でしたともええ」
「どうしてそんなことになったんだっけ?」
彼は一度うなだれた後、下から覗き込むように彼女を見た。
「……言わなきゃ駄目?」
「えー、っと……」
嫌そうな彼の姿を見て、彼女はしばし逡巡する。
しかし、そう間も置かず決心したようだった。
「お願いします」
「遠慮ないね……!」
「だって」
恥ずかしいのか、それとも心苦しいのか、お下げ髪で口元を隠しながら、彼女は言う。
「今日で最後だし。話してくれるなら、聞いておきたいな、って」
「……そっか。そうだね」
弱々しく、寂しげに微笑んで、彼は一度瞼を伏せた。
やがておもむろに口を開いて、語りだす。
彼自身の物語を。
「そもそもあの日は、SF同好会の協力でランダム教室を調査することになってたんだ。調査中も色々と酷いことになったんだけど、本当に酷かったのは、僕がこっちの世界に戻ってきてからで――」
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