幕間


 語り部がいかに語れど、眠りし者に声は届かず。


 ○


「橋口さんにしても、滝上さんにしても」彼は指折り数える。「それから神保くんに霜月さん朝野さん……エトセトラ。同学年だけでも、結構集まったもんだよ」

「不思議な人のこと?」

「そうだね。魔女に語り部に、凄い足に空中散歩に超能力者にその他いろいろ。僕が中学を出るまでは、こんなに物理法則無視する人はいなかったんだけど」

「ねぇね、私は?」

 彼女は自身を指差す。

「このラインナップに入れて欲しい?」

「駄目、かな」

「少なくとも、あんまり嬉しいカテゴリじゃないと思うよ」

「そっかー。でも彩ちゃんや小鳥ちゃんと同じだったら、ちょっと嬉しいかも」

「いや、うん、僕としては君まで常識が通じなくなるのは、かなり困る」

 それから二人は、思い出話に花を咲かせる。

 かつてここに居た先輩達のことを、いつかここに来る後輩達のことを。

 そして、これからも学校に居続ける者達のことを。

「生徒に限らず、先生方にも変な人はいたね」

「如月先生」

「そう。雪が降るだけだから基本的に無害だけど、今の時期は敬遠されて若干かわいそう」

「良い先生なのにね」

「ね。それにしても」彼は疑問を口にする。「これだけ四方八方変な人ばっかりいたのは、やっぱり、わざと集められていたってことなのかな」

「誰に?」

「誰にって、それは、たぶん……生徒会かな」

「生徒会……」

「生徒会」

 しばし沈黙が通り過ぎる。

「なんでだろう?」

「面白いからとか、たぶんそんな単純な理由な気がする」

「やっぱり」

 彼女は心持ち不安そうに、キョロキョロとあたりを見渡した。それは無意識の行動であったのかもしれない。

「卒業したら、もう大丈夫だよね?」

「有難いことに、学校外までは追ってこないようだよ」

「そっか、安心だね」

「つまり学校を出られなかったら、非常にまずいということで」

「やめてよー!」

 小動物のように震えだした彼女に、はははと彼は笑いかける。

「心配ないよ。もう僕らは卒業したんだから。むしろ追い出されるんじゃないかな」

「……また、校舎が寝返りをうつようなことが起きて、閉じ込められても?」

「あんな稀なことがそうそう起きることはないよ。きっと。たぶん。だといいんだけど」

 それにしても、と彼は言う。

「生徒会、結局滅びることもなく今も元気にやってるんだよなー」

「そうだね。えっと、ふと、太い……? 根太いだっけ」

「しぶとい?」

「あ、それ」

「確かに。イラっとするぐらい、しぶとかった……」

 彼は天を仰ぎ、三年間蓄積した疲れを搾り出すかのように溜め息を吐いた。

「生徒会への恨みつらみは、学級委員にも向けられたからね。特に僕なんか、断りづらそうな顔をしてるのか、よく巻き込まれたし」

「うん、そういう顔だよ」

「そこは否定してほしかったな……!」

 あまりに鬱憤が溜まっているのか、彼は語気を強めたまま語り始める。

 あの忌まわしき、生徒会にまつわる話を。

「ちなみに、滝上さんからそう言われたんだよ。二年の夏休み前に、プールで一騒動あった日のことなんだけどさ――」


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